第86話 双子の力
「えーと……つまり、その女の子がアンプとスピーカーみたいな役割をしてるってこと?」
「うん。そうだね。でも、同時に掃除機みたいな役割もあるね。観客のエネルギーを吸い取っちゃう」
「そっか。でも、それが何故問題になるんだろう。
もともと、歌手と観客の間にある感動って、そういうことじゃないのかな。歌に感動する観客、観客の盛り上がりを喜ぶ歌手。修行でよくやるエネルギーの循環と似てるんじゃ?」
修行では、心を開いて植物からエネルギーを受け取り、感謝の念を以て植物にエネルギーを返す。
すると、その植物はより一層、美しく優しいエネルギーを放出する。
またそれを吸収し、還す。
これを繰り返すことで、両者のエネルギーは強く大きく成長する。
さらに この修行を複数で行うと、場のエネルギーがより膨らむのだ。
「修行と違うのはね、まず、彼らがエネルギーの操作に気づいていないこと。
そして、妹の方は聴衆からエネルギーを奪っていること。もちろん、無自覚でね。
それから、最も恐ろしいのが……想像してみてごらん。
もし彼らが、怒りや憎しみのエネルギーを発信するようになったら、どうなるか」
「あ……」
確かに、恐ろしいことになるだろう。
憎悪がとどまるところなく増幅され、まき散らされる。
しかも残念なことに、喜びや感動などプラスのエネルギーよりも、憎悪や怒りといったマイナスのエネルギーの方が遥かに伝播力が強く、速く広まるものなのだ。
「それで、マスターは早くから修行をさせるために、その子達を引き取ったんですね?」
「そう。彼らの心が、正しく育つように。愛を軸にした螺旋を登ってゆけるように」
彼らの才能は、寄り添うように生きる幼い兄妹ふたりが、自分たちを守るために生み出されたものなのかもしれない。
そう思うと隆太は、切ないような気持ちになった。
この先どうか、憎しみや怒りに塗り込められること無く強い心を育てていけるよう、精一杯祈ろう。自分に出来る事は、それくらいだ。
いつか見せてもらった施設のパンフレット。
豊かな緑に囲まれた、小さな村のようなコミュニティー。
そこに暮らす穏やかで優しい人々の間で、子供達がゆっくりと成長していけますように。
大人達に見守られ、無邪気な笑顔でいられますように。
そしていつか、彼ら自身も。
小さな子供達を見守る、強く優しい大人になれますように・・・・
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