第85話 恐るべき子供達
梅雨も明け、夏も盛りとなった頃。
早いもので、もうじきフオン達がやってきて丸1年になる。
隆太も守人2年目に突入だ。
お盆も近く、隆太にとって節目ともなるこの時期。
隆太はサラのお墓参りをし、またサラの実家にも顔を出した。
長く手を合わせに来なかった非礼を詫びる隆太に、サラの両親はとんでもないと逆に頭を下げた。
サラの両親は今では、有希子に習って瞑想を実践しているらしい。
有希子がサラに贈った鉢植えは、サラの実家の居間で元気に育っていた。
最後に庭にある猫の墓にも忘れずに手を合わせ、サラの実家を辞した隆太は、そのまま隆太自身の実家へ向かった。
先月にも帰省したばかりだったが、今回は親戚が集まるというので顔を出すことにした。
今までは親戚の集まりなど面倒で避けてばかりだったが、隆太は都合のつく限りは なるべく参加しておこうと決めたのだ。
血縁の存在は、生命の連鎖を最も強く実感出来る。
強く実感する事により、より深く感謝することが出来る。
似たような顔の集まる中、誰が誰やら結局最後まで判別出来なかったが、一泊して帰路につく頃には、自分が少し成長したような気がした。
時の繋がりやいまここに存在することへの実感。愛と感謝。
教えで学んだことを、頭の中だけで終わらせずに、実践してみたからだ。
* * *
カイからエリックの新たな近況を聞いたのは、その数日後のことだった。
エリックの住む施設に、新たな入居者がやって来た。
それは双子の男の子と女の子で、彼らは養護施設から引き取られて移って来たのだそうだ。
男の子の方は天才的に歌が上手く、女の子の方は生まれつき声を出せないらしい。
その男の子は、歌唱力はもちろんだが表現力が素晴らしく、聴衆の感情を曲に引きずり込んでしまうほどだと街で広く評判になっていた。
偶然それを目にした修行者の一人が、エネルギーが不思議な流れ方をしているのを感じ、マスターに報告したのだ。
マスターは、すぐにその少年の歌を聴きに行った。
少年が歌い始めると、その歌に見合った感情が、観客の間にさざ波のように広がってゆくのがわかった。
だが、マスターはすぐに見抜いた。
それは、その歌への感動ではなく、少年が発するエネルギーが観客を巻き込み、観客のエネルギーを強引に取り込んで変質させていた結果だったのだ。
それは、とても危険な状態だった。
今はまだ、彼ら自身が無自覚なので、大好きな曲を心を込めて歌っているだけだ。
観客がそれに同調しても問題は無い。観客は曲に感動していると思い込むだけだからだ。
だが、この先。
もし彼らが明確な意志を持って、このエネルギー操作をするようになったら……
それは、恐ろしいことになる。
一種のマインドコントロールなのだ。
この、神の如き声を持つ少年と、それを増幅させて周りの人間のエネルギーを絡めとり感情を操ってしまう女の子。
そう。
真に恐ろしい存在は、自分の感情を兄の感情にシンクロし、増幅させたエネルギーを無意識のうちに不可聴音域の声に載せて兄と共に歌ってしまっている、少女の方だった。
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