第80話 輝く朝日の中
翌朝の瞑想は久々に、神社の裏手にある雑木林で行われた。
五月上旬の早朝。
既に夜は明けて朝の光は真新しく、樹々の合間から柔らかに差し込む。
グエン一家と、隆太。
各自好きな場所に陣取り、静かに周囲のエネルギーと繋がる。
隆太は空を見上げ、直に空と繋がれるよう 側頭部に意識を集中した。
カイが約束どおりマスターに問い合わせてくれたところ、頭部、特に側頭部はストレスと深い関係にある部位なのだそうだ。
つい先日の朝の瞑想の際の、カイが言った言葉を思い出す。
「君は、教えについては驚くほど よく理解するのに、自分の事は何もわかってないんだね」
「考え過ぎないで。頑張り過ぎないで」……ホアの言葉。
「ああ、隆太君って、何気に自己評価低いもんね」
……これは、マスターの解答を聞いた時の、有希子の率直すぎる一言だ。
ベトナムからやって来た一家が 言葉を選んで柔らかに伝えてくれる事を、同じ民族であり同じ言語を使い生きている有希子は、ストレートに突きつけてくる。
だが有希子のその根底には、静かに湧き出るような優しさと思いやりがあることを 隆太は知っている。
「今の自分を認めてあげなさい。私が断言する。あなたはもっと、自信を持っていい」
有希子はきっと、そう言っている。
有希子の強気な言葉の裏にある真意を推しはかる事の出来る(と思われる)、現在。
自分が傍観者の要素が多いという事を自覚した、現在。
そして、脅迫者の見本のようなエリックが抱えていた弱さを知った、現在。
隆太は意識的に心の抑制を取り払い、空と直接繋がりエネルギーを取り入れる方法を手にしていた。
静かに呼吸しながら、更に集中する。
……両の側頭部が、フワリと開く感覚があった。
無意識のうちに半眼になっていた視線を上げる。
目の前に広がる光景は、やはり例え難いほど美しかった。
浅い角度で差し込む朝日は、斑となって地面に反射する。
低い位置に茂る草や木の葉が、朝露をたたえて輝く。
更に視線を上げれば、様々に重なり合った枝と木の葉が、淡い影を作りながらまばゆく光る。
そのまま、天を仰ぐ。
優しい空色と穢れない白色の雲を目にしたその瞬間、隆太は空と繋がった。
思わず、ホウ……と息をつく。
繋がりを感じながら幸福感に浸り、目を閉じた。
目を閉じていてもなお、柔らかな木漏れ日を感じる。
聴覚も研ぎすまされ、樹々の織りなすざわめきや虫達の起こすかさこそとした物音まで感じ取れる。
だんだん近づいてくる足音までも……
……足音?
聞き慣れない足音に、隆太は目を開けた。
キラキラと輝く樹々の間を抜け 現れたのは、エリックの姿だった。
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