第75話 自発と強要
「エリックはね、おこのみやきが好きなんだよ。あとね、しょっぱいおだんごも好き。それでね、お店の人がお菓子くれても食べないのに、フオンがあげると食べるんだよ」
「あははは。そうか。フオンにすすめられちゃ、いくらエリックでも断れないよな」
フオンが言っているのは、試食のことだろう。
店員には顔をしかめて断ったのに、フオンに手渡されたお菓子をしぶしぶながら口に運ぶエリックを想像して、隆太はニヤリとした。
「そうそう。あちこち食べ歩いて、楽しかったよ。最初はエリックも気が進まなかったみたいだけど、朝から何も食べてなかったらしくてね。結局たくさん食べてたみたいだね」
「そっかあ。ちょっとは打ち解けてきてるんですかね?」
さあ、どうだろうねえ……呑気にカイが笑う。
「で、修行の話はどうなりました?」
「イヤ、その話はしてないよ?」
自分の足に蹴躓きそうになりながら、隆太が聞き返す。
「その話をしに行ったんじゃないんですか? ただの、観光?」
「そうです。せっかく有希子が風神のことを教えてくれたし、私も行ってみたかったしね。アサクサ、面白かったよ。今度また、皆で行きましょう」
行こう、行こう! とフオンが合いの手を入れる。
「修行のことはね、無理に勧めても意味が無いからね。ホラ、興味のない人に『愛』とか『感謝』とか言っても無駄でしょう?」
「……たしかに。強要出来るものでもないですしね」
「そうそう。だから、流れに任せてのんびり待ちましょう。でもね、今日彼は 何か感じたようだったよ。ね、ホア?」
フオンと手を繋ぎ、前を歩いているホアが振り返って苦笑した。
「あー……ワタシ、お店ばかり見てたから気付かなかったわ」
吹き出すカイに、頬を膨らませてみせる。
「だって、観光だって言ってたから……綺麗な食器や布がたくさんあって見とれちゃったんだもの。ね、フオン」
「ねー、ママ!」
ふたりは繋いだ手をブンブン振りながら歩く。
「次に行ったときは、着物も欲しいな~♪」「わたしもオモチャ欲しいな~♪」
「オ~……お客さん、たくさん来てくれたらね………」
カイは頭を抱えると、隆太の肩にすがって泣くフリをした。
隆太はこみ上げる笑いを堪えながら、カイの背中をポンと叩いた。
「……ドンマイ、お父さん」
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