第69話 見守られて
出来たてアツアツの 優しい味の野菜スープと、ホアが買ってきたいくつかの総菜が並んだテーブル。
食事中も、フオンの勢いは止まらない。
喋りながら食べては「食べるか喋るかどちらかにしなさい」と窘められ、早く喋りたくて咀嚼を疎かにしては「よく噛んで食べなさい」と叱られ。
目を瞑って猛スピードで充分に咀嚼し、飲み込むが早いかまた喋りだし……
終いには、「らい! らいお、オホッ!! ゴホゴホッ! ゴホゴホッッ!!」と咳き込む始末だった。
流石のフオンもようやく落ち着きを取り戻し、しばらくは普段どおりの食事に戻った。
……かと思うと、今度は食べながらコックリコックリと船を漕ぎ始めた。
目をシバシバさせて、箸を取り落としそうになっている。口の端からは、涎が垂れる寸前だ。
「もう……仕方ないね。今日はもうご馳走様して、寝なさい」
カイが、愛おしげに笑いながらフオンの頭を撫でた。
フオンは目をゴシゴシ擦りながら、呂律の回らない口調で言った。
「うん……寝る。ごちそうさまでした。おやすみなさい」
フオンは椅子から降り、ペコリと頭を下げると、おぼつかない足取りでリビングの扉を抜けて洗面所へ向かった。
その後ろ姿を見送りながら、隆太は笑いを噛み殺していた。
「珍しいですね。フオンがあんなにはしゃぐなんて」
「そうだねえ……ああ、初めて雪を見た時も随分喜んでたけどね」
「フオンは元々動物が好きなの。でもうちは食べ物のお店だから、ペットを飼えないでしょう?」
夫妻もフオンの出て行った扉の方を見やりながら、箸を動かす。
「普段は随分しっかりした話し方をしてるけど、やっぱり子供なんですねえ」
カイは嬉しそうに声をあげて笑った。
「今日は余程楽しかったんだね。普段、あまり遊びに連れて行ってあげられないから。今日エリックが突然来てくれて、良かったよ」
「そうねえ。急に店をお休みにするって言うから驚いたけど、良かったわ。お友達も誘えたし」
話をしながらも、夫妻がそれとなくフオンのたてる物音に注意を向けているのが、隆太にはわかった。先ほどの有希子の言葉を思い出す。
(俺も、こんな風に見守られて育ったんだな……)
エリックは、どんな環境で育ってきたんだろう……かざぐるまのおばあさんは、どんな方だったんだろう……
そんなこともチラリと脳裏を掠めつつ、隆太は決めた。
近々、実家に顔を出そう。
仲が悪い訳ではないのだが、もう2年以上も帰っていない。
火事の時も心配かけちゃったし……酒でも持って行って、両親と酌み交わすのも悪くないよな……
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