第68話 おかえり

 カイと隆太がキッチンで夕食を作り始めてすぐに、ホアとフオンが帰ってきた。


「ただいまー!」


 荷物をたくさん抱えたフオンがキッチンへ駆け込んでくる。


「おかえりー、フオン」

「おかえり。いま包丁を持ってるから、危ないよ。部屋へ戻って」


「あっ、そうかー!」と呟きながら、フオンは小さな身体で抱えた土産袋をガサガサいわせてリビングルームへ戻った。

 ふたりは夕食作りを中断し、フオンの後について行く。


 有希子は夫が早く帰るからと、既に帰宅した。今頃は電車の中だろう。




 ダイニングテーブルの上では、ホアによって多くの荷物が解かれている最中だった。


「動物園!! 動物園を見たの!! おっきいのがたくさん!!」


 急いで荷物をソファに置いたフオンが、興奮状態で飛び跳ねている。


 ホアはそんな我が娘の様子にクスクス笑いながら、ビニール袋から取り出した総菜のパックを並べる。商店街の顔なじみの店のものだ。


「電車の中で静かにさせるの、大変だったわ。でも、ちゃんと我慢したのよね。エラかったよ、フオン」


「うん! みんなでね! 行ったの! ルミちゃんもね、ソラくんもね、そいでゴリラがうんち投げたんだよ! あははははは!!」


 フオンは興奮冷めやらず、ひとりで勝手にまくしたてては爆笑している。

 目尻を下げきったカイに頭を撫でられていることにすら気付いていないらしい。


「フオンは初めての動物園だったものね。楽しかったね」


「うん! あのねパパ、ゾウはこーーーんぐらいおっきいの。テレビで見たのより、ずうっと。で、鼻がなっがーーーーーーくてユラユラするの!」


 フオンは口を尖らせ目をキラキラさせながら、腕をめいっぱい広げて象の大きさを語り、様々な動物の動きや鳴き声を真似して見せた。


 珍しく舌足らずな口調になっている。興奮のあまり、言葉が追いつかないのだろう。



 隆太とカイは、ついにがっちりとフオンに捕まってしまった。


 テーブルの上の荷解きをホアと交代し、総菜を並べたりゴミを片付けたりしながらフオンの独演会の観客となり、相づちや拍手を送る。


 ホアは首を振り振り笑いながら、作りかけの食事を仕上げにキッチンへ向かった。

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