第62話 受け止めない


 翌朝、瞑想を終えて。

 カイが背伸びをしながら隆太の傍へやって来た。


「さて、リュータ。宿題は考えてきた?」


『エリックの、リュータに対する態度の理由。何のために日本に来たのか』を考えること。それが宿題だった。



「うーん……考えたんですけど、よくわかりませんでした。瞑想を習いに来たのなら、俺に会いに来たとは言わないだろうし。単に天空橋の見学なら、あんなに喧嘩腰なのも変だし」


「そうだね」


「何か、ブログに関係ない理由かもしれない」

「うんうん。なるほど」


(なるほど、って……)


「あのー……んで、正解は?」


 そう聞かれて、カイはにっこり笑った。


「わかりません」



「……っええええええ!!!! 俺、けっこう真剣に考えたんですけど!!」


「あはははは! そうそう。それが目的です」


 カイは屈託なく笑いながら、拍手などしている。


「昨日リュータは、エリックの態度にまともに反応してしまったでしょう? エリックのアタックを……あ、エリックのアタックって、ダジャレみたいですね」


 そう言って、自分でクスクス笑っている。



「えーと、エリックの攻撃的なエネルギーを受け取って、怒りのエネルギーを返していたね」


「あ……」

 たしかに。隆太は売られたケンカを買った格好だった。



「それで、宿題を考えている間は、エリックのことを怒っていた?」


 ………言われてみれば、怒っていなかった気がする。



 首を振る隆太に、カイは嬉しげに微笑んだ。


「マイナスのエネルギーを反射しあうのは、エネルギーを奪い合うこと。『どっちが勝ちか』争うことだよね。それでは相手のことを理解出来ないね。そんなときは、『この人の行動には、どんな理由があるのだろう』って考えるんだ」



 なるほど。反発しあうだけでは、何も生まれない。


「でも……結局答えはわからないんですよね?」


「そう。でも、わかろうとする気持ちが大事なんですよ。自分の良いエネルギーを開いて、差し出すんです」



 ああ……そうだ。俺はまた、教えを忘れて……



「ハァ。俺、また螺旋やっちゃいましたね」

「フフ。でも、仕事ではちゃんと出来ているでしょう?」


「ああ、そうですね。ま、仕事は仕事ですから」


 テレフォンオペレーターのアルバイトをしている隆太にとっては、理不尽な客のクレーム対応など慣れたものだ。

 怒りのエネルギーを受け流す術は知っていた。


 だが、昨日は真正面から受け止めてしまった。

 突然の外国人の訪問やら風の力など色々あって、平常心を失っていたのかもしれない。



「よし! 反省!! 悪いエネルギーは、受け止めない。良いエネルギーを差し出す!」


「その通り。じゃあ、朝ごはんにしましょうか。一緒に食べるよね?」


 隆太の肩をポンと叩いて、カイが歩き出す。

 ホアとフオンは、既に階下へ降りて朝食の準備をしている。


「あ。そういえば!」


 隆太はあることに気付いて、急いでカイに追いついた。


「エリックの行動の理由を知るのは、自分を知ることにつながるって言ってましたよね?」


「え? ああ、そうそう。でも、その話は長くなりますから、あとでね」


 カイは振り向きながら笑い、腹をさする。


「ワタシ、お腹が空いちゃいました」


 その途端、隆太の腹がグゥ~と音をたてた。

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