天の章
魔界①
どちらかと言えば草原に近い景色の中に、白壁のギリシャっぽい……ってそれは単なる私の勝手なイメージだけど。
そんな感じの家らしきものが建っている。
かと思えば、チカチカとネオンを点けた場末のスナックのような店があったり、突然鉄くずの山が現れたり。
なんなのよ、ココ?
バタバタと低空飛行しているのはどうやらコウモリのようだ。
前方からは、クネクネとシナを作りながら叶○妹のような女性が2人、こちらに向かって歩いて来る。
「あら、リタじゃない」
真紅のドレスを来たおしゃべりボクロのケバケバしい金髪女が、リタを見るなりそう言って立ち止まった。
やや首を傾げお色気ムンムン。
隣の青い髪の泣きボクロの女も、大きな瞳でリタを見つめている。
スタイル抜群のドレッシーな2人は、ソソと近付き私を撥ね退けリタに絡み付いた。
「あら珍しい。人間?」
と、汚いものでも見るような苦々しい顔で私を一瞥し、さも今気付きましたって感じを演じている。
絶対見えてたよねっ!?
「お前らには関係ない。ギルダ、メリ……どうでもいいけど離してもらえないか」
リタはそう言うと、ブンと腕を強く振り、美女2人をいとも簡単に振り払った。
「ホント、リタったらつれないんだからっ」
ギルダだかメリだか知らないが、とにかくおしゃべりボクロの方が、かなり悔しそうな表情で私のことを睨み付ける。
えーっ!?
私何かした?
振り払われた事実など全て無視して、指先でペタペタとリタに触わりながら、大きな胸を擦り付けるおしゃべり女。
「ねぇ、リタ。この子おまけでしょ?コンジキしちゃうの?寂しいわ」
「ギルダっ!」
パシッと腕を
そして、つまらなそうに唇を尖らせ、渋々リタから離れる。
「つまんなぁ~い。行こ、メリ。リタ、またね」
最後はベタベタとしたしゃべり方でそう言うと、またクネクネと歩き出した。
思わず振り返ってそのプリプリと振られる2つのお尻を見送っていると、
「行くぞ」
と声を掛けられた。
「何、今の?」
嫌なものでも見るように、そう言って私は眉を潜めた。
「魔女。あー見えて200歳は超えてるよ」
と、リタは実にあっさりと答える。
「……200?」
「そう、200。魔女は800歳位まで生きるからな。そんな事より、行くぞ」
リタはそう言うと、またズンズンと道を歩き出した。
センターってやつに向かって……。
着いた所は、通称センター。
見た目は意外と普通で、いわゆる区役所みたいな感じ。
建物も鉄筋コンクリート建ての平屋で、立派な柱のある綺麗なロビーは、気味が悪いほど閑散としていた。
リタは迷わず受付に向かうと、青白い顔をした病人みたいな男の人に、
「コイツ『おまけ』なんですけど」
と言って私を指差した。
受付の痩せこけた男は、引き出しをガサゴソと探ると、
「リタが拾ったのか?」
と意外な程甲高い声でそう言いながら、ペラペラの用紙を一枚取り出した。
「はい、コレにサインして」
そう言われ、リタがサラサラと右下に見た事もない文字でサインを書き込む。
「これでいい?」
「はい、完璧」
男は今にも倒れそうな細い体でようやっと立ち上がると、人の
「完了」
手だけが異常にテキパキと効率良く動いているが、印鑑を押しただけなのに足元はもう、フラフラみたい。
その病人男の話によると、本来『おまけ』とは、何らかのズレで死ぬはずのない人が死んでしまったことを言うらしい。
まぁ、正確には死んでないんだけど。
例えば、本当は軽症のはずだったのに、打ち所が予定より1cmズレた為に意識不明の重体になってしまい魂が肉体から離れちゃう。
みたいなケース。
本来それは死神のせいではなく、本当に運命のイタズラと呼ぶべきものらしい。
が、今回の場合、私が彼を避けたというのがキッカケになっているので、私という『おまけ』はたまたまの産物ではなく……ハッキリとリタのせい!
なのだけれど、だからと言って『おまけ』としての扱いが変わる訳ではなく……。
てか、人間が死神を避けて死ぬなんて事例が他にあるはずもなく……。
とにかく私は、どうにかして体に戻る方法を探さなくてはならないのだ!
『おまけ』がココに居られるのは7日目までと決まっており、8日目のリストには確実に彼らが言うところのリストってやつに名前が載ってしまうらしい。
つまり、死ぬってことだね。
そもそも『おまけ』事態
だからって、こんなくだらない事で死ぬなんて絶っ対に嫌ツ!
「私を現世に返す方法、絶対見つけなさいよね」
リタに向かってそう叫ぶ私に、
「はいはい」
と呟くような気のない返事。
コイツ本当に大丈夫かな?
理由はどうあれ、拾った死神が『おまけ』の面倒を見なければいけないのがこの世界の決まりとのこと。
なるほど、それならリタが面倒臭がるのも何となく頷ける、けど……。
でも私は普通の『おまけ』じゃないんだから、ちゃんと現世に戻してもらわないと。
「いい?ちゃんと責任とってよね」
再び叫んだ私の声が、センター内を高らかにこだまする。
不機嫌そうなリタと、なぜかニヤニヤ顔の病人受付男。
一体何が可笑しいのよっ!?
薄気味悪い男!
「部屋はほら『
病人男はそう言ってリタに鍵を放り投げた。
リタは器用にそれを受け取ると、
「行くぞ」
と言ってセンターの出口へと歩き出す。
「ちょっ……部屋行くんじゃないの?」
慌てる私を振り向きもせず、
「腹減ってないなら『参』に行ってろよ」
と、冷たく言い放つ。
腹???
私って幽体よね?
でも、ちゃんと体あるし……。
などと考えている間にもリタのやつはズンズンと突き進み、もうセンターの扉を出ようとしている。
もう!
アイツ一体なんなのっ!?
兎にも角にもこんな気味の悪い男と2人でなんか残れない。
私は急いで駆け出すと、もう一歩で外へ出ようとしているリタの背中を追い掛けた。
さっきまで明るかった空は、嘘のように暗くなっていた。
暗いと言うより黒い、と言うのが正解かも知れない。
月も星もなく、ただただどこまでも黒く……深い感じ。
街灯らしき青白い球が、フワフワと宙を浮いている。
見たことないけど……まるで人魂みたい。
それだけでも不気味なのに、その闇の中を何かが飛んでいる羽音がする。
決して小さくはない感じ。
生暖かい風が吹き、その瞬間何かが頬に触れた。
「キャッ」
思わずそう叫んで、リタのシャツの裾をギュッと掴んだ。
「怖え~の?」
リタがそう言って振り返る。
怖え~よっ!
そう思いつつ、伸ばした手を急いで引っ込めた。
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