第3話
彼女の両親はいわゆる聖職者というやつで、西洋のある神様を信仰していた。
だから本当は、神社や仏閣とは縁が無いはずだった。
けれども、この国ではそれは些細な事なのかもしれない。
たくさん居る神様の中で、都合の良い神様を信じてしまえる。
そんな無神経な人達が憎くて少し羨ましいと思った。
幼い頃、父が盲信し唯一絶対としたもの。
それ以外を信じることも、知ることも私には許されなかった。
馬鹿馬鹿しい事に、そいつに全部奪われてしまった後で、他の人が自由に神様を信じている事実を知った。
騙された父が悪いのだ。
「ねぇ、君は神様を信じているの? 」
ふと、そんな問いかけをしてみたくなった。
「もちろん。信じるわ。だって、あなたに会えたんですもの」
馬鹿な女はそう答えた。
精一杯の笑顔で僕も言う。
「そうだね、愛しているよ」
去年はあまり雪が降らなかった。
今年も暖かい方だ。
どんな季節も、あの日に比べたら暖かいんだ。
彼女の両親はとても親切にしてくれた。
愛に溢れた家庭というものがどういうものかを教えてさえくれた。
そんな二人に育てられた彼女には愛が有り余っていた。
それをほんの少し分けて貰ったとしても罰は当たらないだろう。
そもそも、誰が誰を罰するのだろうか。
何か不公平なことや理不尽な事があると、他人はそれを見て同情する。
同時に、そんな不公平な事や理不尽な事が起こったのだから、その人が何かそれに釣り合う悪事を働いたのだろうと思う。
もしくは、彼や彼女らではなく前世に罪があったのだと考える。
「愛してる」
もう一度、彼女は言った。
日付が変わっても神様のおこぼれに与ろうとする人々の列は止まなかった。
夜にしては明るすぎる光が何もかも分からなくさせる。
でも本当は誰一人分かっちゃいない。
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