第2話
年が明けて数時間後、初詣にいく人達の集団に逆らうように私は駅に向かって歩いていった。
お金を払って健康や幸せを得ようとする心理が私には理解出来ない。
それに加えて恋愛やお金持ちになりたいなどという欲にまみれた群集達が大挙して神に要求する姿は浅ましさを通り越して滑稽とすら思える。
都合の良いときだけ現れて願いをかなえてもらおうなんて傲慢ではないか。
そんな事を考えながら歩いていた。
待ち合わせの時間まで、10分以上余裕があったので自動販売機で温かいコーヒーを買う。
お賽銭と違って、間違いなくお釣りと缶が手元に届いた。
「ごめんなさい、待ち合わせの場所が悪かったかしら」
初詣の帰りという出で立ちで彼女が現れた。
「大丈夫。これだけ人が多いと防犯上かえって安心だからね。お義父さんも心配されるだろうし」
門限は八時半という彼女の夜の外出は極めて珍しい事だった。
厳しい訳ではないが、過保護過ぎる両親との挨拶を先月済ませたばかりだ。
「この時期は、お父さんも忙しいから、どうせ毎年一人で家に居る事が多いの。ありがとう、連れ出してくれて」
美奈子は、賢いが世間知らずな、箱入り娘であり、付き合ってからもそのイメージは変わっていない。
「もう、お詣りは済ませた? 」
「ああ、もちろん」
よそ行きの笑顔で答えてやると、彼女の警戒心が完全に解かれた。
常に不安そうに男の顔を伺うのは、単に男性に慣れていないからではなく、両親の顔色を伺い続けた結果、染み着いてしまった業によるものだ。
「どこも、混んでいるからテイクアウトでコーヒーでも買おうか? 」
「うん」
ここで、すり寄ったり過度にスキンシップをとらないのは躾が行き届いているおかげだろうか。
それには、少しだけ好感がもてた。
「砂糖とミルクは二つでいいかな? 」
「うーん、三つで」
「太るよ」
「いいの。その分動くから」
普段の近づきがたいと思える気品は陰を潜め、年頃の女の子といった雰囲気が感じられた。
「じゃあ行こうか」
手を伸ばすと、遠慮がちに握り返してくる。
絶対に守ると決めたあの日の母の手はとても冷たかったが、彼女の手はほんのりと温かい。
その温度は急激に私の心を凍らせていった。
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