愛からは遠い街

@namimor

第1話

 震える母の手を握っていた。

 雪が降りしきる夜。

 父の葬儀に参列した村の人達に頭を下げていく。

「本当に、このたびはご愁傷様です。」

 父の入信した宗教団体の人達が葬式を取り仕切っており、母は言われるがままに参列者の相手をしていた。

 戸口を取り払い、急拵えで作った受付には知らない大人達ばかりが行列を作っていた。

 表情は暗く、父の死を悲しんでいるようにも見えた。

 普通のお葬式というものがどのようなものなのかを私は知らなかったし、知っていても疑問に思うには私はまだ幼すぎた。

 全ての儀式が終わって、父には立派な戒名が付けられた。

 生前、そのほとんどの財産や土地をその宗教に寄付した父は死ぬことによって初めてその徳を認められ、信者から賞賛された。

「お父さんはとても素晴らしい方でした」

 皆が口々にそう言うのを私は不思議そうに聞いていた。

 あなた方が父の何を知っているのだろう。

 父のせいで家は常に貧しかった。

 ランドセルやノートも全て貰い物で済ませていた。

 身なりのみすぼらしさで陰湿ないじめにもあった。

 かびの生えた給食のパンを鞄や机につっこまれたり、物が無くなったと騒いで泥棒扱いされた。

 先生は、家庭の事情を知っており何を言っても信じて貰えなかった。

 だから、父が死んだ時も私は全然、悲しくなかった。

 母のやせ細った白い手を握って、強く生きようと私は思った。

 葬式が終わってみると、香典は全て徳の高い戒名をつけてもらったお布施として徴収され、すでに父が手続きをしていた為、土地も家も全て団体に持って行かれた。

 私と母は文字通り全てを失った。

 金の無心と、しつこい勧誘のせいで親戚からは縁を切られていたが、母の実家だけが私達を引き取ってくれた。

 

 だから、私は絶対に神様を信じないと強く誓った

 

 

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