第16話 それって独占欲?
美咲が持ってきた黄色の大きな浮き輪を私が足踏み式の空気ポンプで黙々と膨らませているあいだ、みんなはきゃあきゃあと声をあげて浅瀬で水をかけあっていた。
もしかして、浮き輪いらないんじゃ…。
なんだか切なかった。
しかし、こうしてみんなの水着姿を眺めてみると、女の子という存在の眩しさになんとも感嘆とせざるを得ない。美咲や西井さんは言うに及ばず、振る舞いこそサバサバしているが遥も学年トップクラスの美人さんなのである。目の保養とはこのことだ。みんなと海に来られて本当に良かった。
いかにも遊び慣れていそうな男たちが美咲たちをナンパしていたが、怯える美咲や西井さんをよそに、遥が男の自尊心をくすぐるようなセリフで適当に受け流すのはさすがに宮本家の血筋かと思った。たびたび私に声を掛けてくる命知らずもいたが、みんなに混ざれないイライラで私は寄って来る男を終始威嚇していた。遥のようにはいかないのだな。
ようやく膨らんだ浮き輪をもって砂浜を降りていくと、待ち構えていたように美咲が水をはね、しぶきを当てられた。
私が待っていたのはこれだ!
太陽の光が燦々と降り注ぐなか、海辺で美咲とたわむれる…私はそのために海に来た。美咲と私がじゃれあい、遥と西井さんはもう疲れたのか浜へ上がってパラソルの下で休憩しはじめた。
私は美咲に近づくと、思い切って飛びかかった。私に肩をつかまれバランスを失った美咲と私のからだが同時に海に沈み、息が続くまで口づけを交わした。美咲の腰に両手を回し、私は海の底を蹴って美咲を海から持ち上げる。美咲は大きく息を吸って私の頭を抱きしめ、豊かな胸が私の顔を包み込んだ。
「イチャイチャしないでよー!」と遥が冷やかすのが聞こえる。西井さんも笑っている。
私は美咲の胸に顔をうずめたまま二人を見た。パーカーを羽織った西井さんは、シートに座ってジュースを飲んでいる。遥は持っていたタオルを置き、私たちに近づいて浮き輪に乗ろうとした。私が遥の足を引っ張ると、遥はわーっと叫んで水の中にずり落ちる。遥はすかさず私に覆いかぶさって、わき腹に指を這わせた。
「ぶっ…。」
私は息を吐いて溺れかけながら、水面から顔を出した。しかし、遥はくすぐるのを止めない。
「う、やめ…やだっ…。」
こそばゆいだけではない別の感情まで湧き上がって来てしまい、慌てて遥の手を握って制止した。
遥は「私の指から逃れられるなんて…よほど意思が強いのね。」と芝居っ気を出して喋りながら、美咲を見やりつつ私の胸を揉む。美咲は何のことやら分かっていないようだった。一方、砂浜にいた西井さんは何が起こっているのかよく理解しているようで、パーカーを脱いで海に入ると、遥に加担して私の太腿をまさぐりだした。
こいつら本気だ…!
天上まで連れていかれるまでに私は何とか二人の魔の手を振り切り、美咲のもとへと泳いだ。美咲は顔を紅潮させて息を切らす私を抱きしめて、笑顔で私の髪をなでつけた。互いに見つめ合う私たちの視界の外で遥と西井さんが何事かを話していたが、やがて二人が手を伸ばして、水中で私の足を抱き上げるとそのまま放り投げた。
水面に打ちつけられた私にとどめを刺すかのごとく、遥は背中に覆いかぶさり胸を揉みしだいた。西井さんは水中で喘ぐ私の腕を掴んで遥から奪う。助かったと思ったのもつかの間、西井さんは豊かな胸を私の顔に密着させると私の腰からお尻にかけてを撫で回す。そこでようやく事態を察知した美咲が西井さんから私を引き離し、救助するように私の肩に肘をかけて泳いで砂浜へと連れて行ってくれた。
海の家で焼きそばを食べながら、私たちは午後の相談をした。
地味に波が荒くて沖に出られないので、浅瀬でのんびり過ごして夕方に花火して帰ろう、と計画を立てた。
うねりが強くて、沖でまともに泳ごうとすれば波にのまれる。私は浅瀬で仰向けに沈んで、水面を眺めた。西井さんは砂浜でマンガを読んでいる。
美咲は浮き輪の上でのんびりしていた。私の目の前に美咲のお尻が浮かんでいる。海に潜っていた遥が美咲に触れようとしたので、私は遥が伸ばした手を捕まえて立ち上がった。
遥は自分の頭を私の肩に乗せ「それって独占欲?」とささやいた。息が私の頬にかかる。「そうかもね。」と私が答えると、遥はゆっくりと右手のひらで私のお腹を撫でた。
「明理、かわいいね。」と口元に笑みを浮かべながら遥は言う。その目はじっとりと私の視線を捉えた。
「美咲は私のものだ!」と私は冗談っぽく叫んで遥から離れ、美咲の乗る浮き輪に近づいて行った。ぼんやりと空を眺めていた美咲は私が浮き輪に手をかけると、悲鳴をあげながら空に手を伸ばした。その甲斐もなく、バランスを崩した美咲はからだを浮き輪に留めることができずに海に落ちた。
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