第12話 こんなのはどうかな?

 みんなと海へ行く日程が決まったので、みんなで水着を買うことにした。


 私は、なんならスクール水着でもいいと思っているくらいだが、友達と一緒に行く事を考えれば無難な水着を買っておくべきだと思った。

 ショッピングモールと駅ビル、そして4丁目のデパート、どこに行くべきかとみんなで相談したら、西井さんと遥がまずデパートがいいというので土曜日に現地集合することにした。


 普段はスクールカースト上位の人たちが行くようなお店に入るのは躊躇してしまうのだが、遥や西井さんは何にも気にせず足を踏み入れていく。二人について行く格好で私と美咲は敵地に乗り込んだ。


 私と美咲はそれぞれ別の理由で似合う水着を探すのが難しかった。西井さんが美咲に合わせてくれたのは胸にフリルが付いた白の2ピースだ。西井さんによると胸の大きさがフリルで目立たなくなるとの事。似たようなものはたくさんあっても、ピッタリ合うデザインの水着を選ぶのはさすがだと思う。西井さんが選んだというだけで美咲にとっては宝物である。

 一方、西井さんが自分で選んだのはピンクのビキニだった。大胆だね、と私は思わず口にしたけれど、パーカーを着るつもりなのでこれでいいらしい。遥は縁が金色の黒のビキニを選んで買った。


 さて私は、というと、ようやくサイズが合う紺のワンピースを見つけて試着室へ向かったのに、みんなの評価があまり良くなかった。遥には「スクール水着と変わらない。」と言われてしまって落ち込んでいると、西井さんが「こんなのはどうかな?」と言って白と明るい水色のオールインワンのビスチェを探してきてくれた。肩紐がないのが心もとないけれど、美咲が「とってもかわいいよ!」と言ってくれたのでこれにした。


 お目当ての買い物が済んだので、ちょっと早めにファーストフード店で昼食をとった。

ハンバーガーを食べながら、西井さんは遥に、春先に受けたドラマのオーディションの話をしている。私と美咲はずっとそれを聞いていた。こんな風に話していると忘れてしまうけれど、西井さんはやはり芸能人なのだな、と思う。

 いっその事、西井さんを主人公に小説を書いたらいいんじゃないか、と私が言ったら、西井さんは「何にも面白い事なんてないよ…。オーディション受けて、落ちて、雑誌の撮影して、勉強してアニメ見るだけだもの。私の話なんて一行で終わっちゃうよ。」と恥ずかしそうに彼女の日常を打ち明けた。謙遜しているけれど、学校と仕事を両立させるだけでも大変なのは私でも分かる。今日だって、明日の撮影のために午後には東京に行かなければならないのだから。でも本人からすれば、本当に求められるままに淡々とこなしているのかもしれなかった。

 美咲は西井さんの話を、うなずきながら黙って聞いていた。


 私たちは西井さんを駅まで送った。じゃあね、と手を振って西井さんと別れたあと、私たちは駅ビルの中を見て回ることにした。帽子や雑貨を少しだけ物色したけれど、大きな買い物をしたばかりだったので私たちの財布の紐は固かった。

 美咲は麦わら帽子を探しているようだったのだけれど、好みのデザインがなかったらしい。


 遥が男物のお店で高級そうなペンを手に取って「お姉ちゃんの誕生日プレゼントにいいかも。」と言った。「誕生日近いの?」と私が訊くと「ううん、まだちょっと先だけどね。」と遥は答えた。


 ヘンパイも海に誘ったのだが「『一応誘ってみようか』と思っているならやめたまえ。友達だけで行った方がいいよ。人数が多いから楽しいってわけでもない。僕は僕で、こっちで手いっぱいなんだから。」と言って、18歳未満が入れないようなお店で売っているようなメイド服を着た部員たちと資料室に入っていった。ヘンパイは確かに忙しいのだろうし、私たちに気を遣ったのだろうなとも思う。


 男物のペンというのは良い選択かも知れない。

何が喜ばれるかは分からないけれど、私もヘンパイにプレゼントしようかな、と思った。


 そのあと、私たちはなんとなく楽器屋まで行ってみた。

美咲はピアノを習っていたけれど、そのとき見ていたのはガラスケースの中のサックスやウクレレだった。入学したての頃は音楽系の部活に入ろうとしていただけに、やっぱりちょっと気になるようだ。遥と話していると、彼女もピアノが弾けると言う。 私は楽器は全くの未経験だけど、背格好から言ってもやるとしたらベースかなと思った。このメンバーでバンドをやるとしたら、どんなジャンルになるのかな、と遥は笑った。

 ウクレレ、ベース、ピアノ…あり得るのはジャズかハワイアンかな?そう私が言うと、遥は私たちがジャンルを作ろうよと大きな展望を語る。その場限りの冗談だと分かっていても、遥のような発想は私にはないので感心してしまう。そんな私たちをよそに、美咲はギターフロアに移動していった。

 何を求めているのか自分自身でも分からないものだけれど、こうして歩いてみればきっかけが見つかるかもしれなかった。自分に何が相応しいのかは誰も知ることはできないのだから。

 

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