第3話 水の大精霊の異世界講座


1度死んだムクロは、ここ【リバーサイディア】で再び生を受けた。ただし、人ではなくモンスターとしてだが。

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「世界の名は教えた。次は、種族に関して話そう。種族は大きく、4つに別れる。

 【人間族ヒューム】【森人族エルフ】【土人族ドワーフ】【獣人族ビースト】に別れておる。

 これらは総じて"人族"と呼ばれる。過去のムクロと同じ姿をしている。他にもまだいるが、今は話さないでおく。

 種族間の仲だが、今現在は争いはない状態といえる。無論、種族に置ける"好憎"は存在するがな」


 その辺は、小説に近い部分があり、エルフとドワーフの仲はどうなのだろうか?

 仲が悪いと表現される場合が多い。


「その顔を見れば分かる。安心するがよい。

 両者の仲は、小説それほどに悪くはない。個々の部分を除けば──だが」

「個人での『好き嫌い』は仕方ないよね。オレの処でも起こっていたから」

「そうであるが故、人とは愛しく、また愚かなのだろう」


 そういうウェルデの表情は優しく、母親を思わせるものだった。此処だけの話だが、ムクロの母は事故で亡くなり、父に関しては生まれる前に死んだという話である。

 そんなムクロにとっては、ウェルデの包容力のある表情からは、母の顔を思い出すだろう。細かいことを上げていけば、勿論違うのだろうが……。


「さて、種族に関しては以上だ。

 次に話すべき内容は、『ステータス』に関してだ」


 それは確かに重要である! 自分のことを知っているか、知らないかによって生存率は天と地ほど変わってしまう。

 ムクロはウェルデに向かって、しっかりと頷いた。それを見た彼女の口許には、微かな笑みがあった。


「ステータスは、このリバーサイディアに存在する"全て"が持っておる!

 ユニークモンスター以外のモンスターは、見ることが叶わんがな」

「さっき言っていた『自我があるから』云々って話に繋がるのか?」

「是。自分を確立していない限り、ステータスは見えない」

「それもそうか」


 簡単に納得した。その上で気になるのは、この場で"ステータスを見ることが出来るか?"というものである。

 ウェルデの言うように、ムクロはユニークモンスターであり、過去の記憶に関しては除いても、確固たる自我を持っている。もっとも、この男の能天気さがどの様に、自我を左右させているのかは分からないが。


「方法は簡単だ。魔力を瞳に集め、水面に写った自分を見るだけである」

「(その方法自体が、わかんないのだけどな)」


 ウェルデに、心の中で突っ込んだ。そんなムクロを「委細承知だ!」と言わんばかりに見つめている。方法自体は簡単であった。


「何、簡単なこと。ムクロが今しているのが、魔力の使用法なのだ」

「え~、見る、聞く、話すのことか?」

「是。その通りだ。

 魔力を無意識に使っているから、分かりにくいだけだ。意識して行うことにより、身に付けることが出来る」

「ということは、目を閉じるイメージを成功させれば、良いわけか?」

「うむ」


 我が意を得たり! と頷くウェルデには悪いが、もう少し噛み砕いて教えて欲しかったムクロである。

 思い浮かべるのは、自分の『ホネを外したとき』のことである。あれも勿論、イメージの産物であるからだ。

 今回イメージするのは、"自分を包み込む魔力"である。イメージに近いものだと水道がピッタリだろうとムクロは考えた。


「(オレは"カラン"で、魔力は"水"……)」


 そうイメージすると朧気ながら、身体を包み込む膜を感じることが出来た。その膜は、ホネの表面に薄く引っ付いている。

 そこから徐々に、内側に向かって感覚を引き伸ばしていく。魔力らしきものを、水とイメージすると意外にも分かりやすい。ゆっくりと確認していくと、それが漏れだす場所があった!

 そう、蛇口とでも言うべき場所だ!


「感じたな。

 それが魔力の源泉【コア】だ。この世界に生きるもの全ての体内にある」

「オレみたいなモンスター以外でもか? あと、人族とかにもある?」

「是。分かりにくいが、石にもコアは存在する。と言えば分かりやすいか?」

「原子もしくは、粒子という感じ?」


 確認の言葉に頷くウェルデを見ていると、聞いておくべきことを思い出した。それは、【格】が上がったときに体に起こった痛みについてだ。


「【格】というのはなんだ?」

「ムクロの記憶から読み取った範囲では、"レベル"という概念が近いな。

 格にも上限があり、モンスターで”10”、人族で"99"になる」

「格が上がったときに、強烈な痛みが襲ってきたのだが、関係あるのか?」

「関係は"ある"!! コアの成長こそが、『格の上昇』の正体だからだ!」


 質問に答えるとき、細く綺麗な指でウェルデはムクロの頭を指差した。ちょっと前に読み取った、過去の記憶を指しているのだろう。

 ゲームから引用し説明すると、分かりやすいだろう。ほとんどのゲームでは"レベル"が存在する。モンスターなどを倒して【経験値】と貯めていき、一定を越えると上昇する。

 上昇した際、力や速さの数値が増えるだろう。ボーナスポイントBPが与えられ、それを割り振る場合もあるが……。

 そうやって、ゲームの主人公やモンスターを成長させることにより、各数値が大きくなっていき、同じモンスターでも与えるダメージが増えていく。


 ウェルデの説明にあるモンスターの格であるが、上限が”10"ということは、【進化】があると言うのだろうか?

 人族の上限が"99”なのは、生まれた姿から大きく変わったら怖いので当然だろう。

 彼女の説明が本当なら、『あの痛み』を昇格の度に味わうのだろうか?

 ムクロの気持ちの正直なところは、お断りである。


「あと──恐らくで悪いが、ムクロの味わった"強烈な痛み"というのは、というものが原因ではないか? と我は考える」

「それは、とか言いませんよね?」


 ムクロは、流れないハズの汗が頭蓋骨から垂れるような感覚を得た。あと、認めたくない気持ちが敬語として現れていた。

 軽く吹き飛ばして欲しかった故の言葉だったのだが、彼女の表情がとても印象に残ることとなった。

 よく見ると、口元が深くつり上がっていくのだ。その表情に関しては、女神って言うより"邪神"と表現したいくらいにムクロは怖く感じた。


「ほう。ムクロは見た目に違わず聡いな。恐らくではあるが、それだとおもうぞ?」

「(え~っと、冗談半分だったんだけど……。『ジョークですよ♪』とは言いづらいな)」

「ムクロの記憶から分かりやすく言うと、"パンとジャム"だな。パンがホネ、ジャムが魂、塗るバターナイフが"コア"と言えよう」

「随分と庶民的になったが、分かりやすい説明だよ。その話の流れだと、今のオレは『ジャムトースト』か?」

「然り」


 威厳的なものは皆無になったが、分かりやすさは格段に上がった。ウェルデの顔を見ると、『上手く言った』と書いてある。

 実際に書いてある訳ではない。ムクロから見て、そんな表情をしているだけという話。


「ムクロの話から、初めて格が上がったと予想できる。次からは痛みは少ないハズだ」

「あの……ってことは、格が上がる毎に痛みが発生するの?」

「然り。1つづつ上がる分には"チリリ"とした程度らしいぞ?

 まあ、場合はどうなるかは、知らぬがな!」


 そう言って、胸部に装備した凶器を自慢気に突き出した。ムクロが地球に(生きて)いた頃なら、その装備に圧倒されていたことは間違いない!

 しかしながら、今の彼は"ホネ"である。当然、人族にあるハズの"性欲"は干からびたように、反応していなかった。

 推測でしかないが、ムクロがホネである以上『同じホネの女性』にしか性欲を持たない可能性が非常に高い。意外にも、「それでも、いいか」と楽天的に受け入れている彼に驚くことしか出来ない!


 ──それでいいのか!? ホネ男よ??


 ウェルデの話は、次のステップに向かった。


「さて、モンスターの【格】が上限に達した場合だが、2つの道がある。


 1つ、生まれつき持っている職業を強化していく。


 2つ、新たに提示された職業につく。


 これをムクロの記憶に合わせると、"進化"もしくは"昇級"という現象に当たる」

「──なら、1つ目を"昇級"、2つ目を"進化"と言えば分かりやすいな」

「ふむ。そのように、最上位神に意見してみよう。

 現状では『混沌』としているからな。ムクロの言葉でいうなら『ごちゃ混ぜ』と言う方が伝わりやすいか?」

「ええ、問題なく分かりますよ?」


 古風で固っ苦しい喋り方の彼女が、ムクロの知っている言葉で話すと違和感が大きい。多分、古風な喋り方に慣れてしまったのが原因だろう。

 彼の返事が敬語になったことには、突っ込まないで欲しい。たぶん無意識だろう。


「話が反れてしまったようだな。元に戻すぞ?

 現時点でムクロは、自身の『ステータス確認』が出来るようになった。

 コアの中でもっとも輝きの強いものがあるハズだ。それに意識を集中しながら【ステータスオープン】と唱えればよい。

 あと、口に出さなくても良いぞ?」

「大体だが理解できた。やってみる」


 ウェルデにそう返事を返すと、ムクロは自身の内側に意識を集中した。何度もトライするのだが、『どれが強いか分からない』状態であった。

 ムクロは心の中で『いや、オレの感知が未熟なのは理解しているが、カラー…ホネ中に満遍なく散らばっているっぽい。そして、強弱に関しては無い感じだ』と考えている。


「ウェルデ、オレの持つコアに『強弱』は無い感じなんだが?」

「ふむ──。詳しいことは分解せねば分からぬが、もしやすると"異世界人補正"と言うものではないか?」

「なるほど。それの線もあるな」

「では、その状態で唱えてみてくれ。

『我が内にある、摂理を詠みとけ【ステータスチェック】』と」

「それ、唱えなきゃダメ?」

「生死に関して言えば、ムクロが"死ぬ"ことはない。だがな万に1つの可能性で、"魔力暴走オーバードライブ"を引き起こしたとき、原型が残っているかが怪しいのだ」


 ムクロがコアの状態をウェルデに話すと、右手を顎に、左手を右肘に持っていった。そのL字になった腕に、その豊穣を司るものが「むにゅ」っと押し上げられている。

 その状況でも、全く性欲を持てない事実に少し呆れるムクロがいた。

 ウェルデの口から出た答えは、彼の持っていた小説の知識からだろう。彼女の常識が少しずつ"ズレ"ているのは、それが原因ではないだろう!


 ウェルデの教えてくれた『ステータスの確認方法』なんだが、これの詠唱を唱えるのを躊躇うものでもあった。

 ムクロは自分のことを"プチオタク"と思っていたが、認識が甘かったことは言うまでもないだろう。

 目の前の大精霊もそうだが、このリバーサイディアの住人の方がよっぽど"オタク"だ! この言葉を聞いたヤツは「何を当たり前なことを!」と怒るかもしれない。

 しかしながら、詠唱をしないと『骨粉になる』ってのは怖く感じる。あくまでもって話だが。


「わかったよ。『我が内にある、摂理を詠みとけ【ステータスチェック】』!!」


 ムクロが焼けっパチでそう言った瞬間、身体中のコアが反応したのであった。

 開き直りの重要性を彼は感じたのだろうか?

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