第4話 水の大精霊の基本講座


 ウェルデから言われた通り、【ステータスチェック】の魔法を使った。

 そこに映っていたのは、ちょっと引きそうなモノだった。


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 ムクロ


 スケルトン族(異世界人)


 男?


 享年32


 職業:ホネをはじめました:格2


 MP φψπσЕБυАВξПДГХФХ


 ちから 2


 みのまもり 2


 すばやさ 3(+1)


 かしこさ 5


 ボーナスポイントBP 1


 【固有能力ユニークスキル


 Re:ボーン


 【能力スキル


 なし


 スキルポイントSP 1


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 ……と、いうものだった。まず最初に言いたいのは、ステータス表記が『ドラ○エ』臭いことだろう。

 今時、ステータスを『ひらがな』で表記しないであろう。大体のものが英字表記だからだ。それと、数値が1桁前半なのも気になる。

 ステータス値の下にある 《BP》は、ステータスを強化出来る数値なのだろう。そして、 《SP》はスキルを覚える又は、強化するときに使用するポイントではないかと推測する。


「どうやら、確認できたようだな」


 ムクロの様子を見ていたウェルデが声をかけてきた。たしかに確認は出来たのだが、何故に"日本語表記"なのだろう??

 彼の顔(頭蓋骨)に書いてあったのだろうか? 詳しく説明してくれた。


「過去ー…いや、か? の話になるのだが、この世界で築き上げられた言語・文明は、そのときに"滅び去った"のだ。ああ、文献などは無いぞ?

 今の時代ではそれを"空白時代"と呼んでおる。その時代に、【ジャポほん】なる国から流れてきたらしい青年が、教えたようなのだ。それ以降は"神話時代"と言われておる」

「ウェルデは"水の大精霊"だよな?

 何でそんなに"他人から聞いた話"のように語るんだ?」

「恥ずかしい話ながら、我は生まれてより2000年しか経たぬ"小娘"なのだ」


 ウェルデは頬を染め、軽く指でかく。この話から推測の輪を広げると、『世界規模で起こった"文明や文字叡智"の損失で、混乱が起きた。➡偶々この世界に巻き込まれた"日本人"が言語を含めた文明を築いた。➡現在では、"読み、書き、会話"が日本語ベースになった』と考えられる。

 ムクロは、当然起こることを確認した。


「オレたちの世界には、『地域毎に言語の違い』があったのだが、それはどうなんだ?」

「無論あるぞ。簡単な言い方だと、【エルフ語】【ドワーフ語】といった感じだ」


 当然と言うべきか、このジャポほん語も、時間の経過と共に多様化を始めたようである。簡単に言うなら、地域毎にある『方言』を思い浮かべて欲しい。知らない人にとっては、変な言い回しってモノがあるだろう。

 ベースが変わらずとも、表現法方が変わってしまっているので"種族毎の言語"は他種族には解読し難くなる。


「そうなると、オレにはお手上げじゃないか?」

「そんなことはない。これはもう、我ら大精霊クラスしか覚えていないが、このジャポほん語は【魔言マゴ】という文字魔術なのだ。

 ムクロには、どういうことかわかるか?」


 ムクロが知っているのは、この世界から比べたらである。そんな彼にウェルデは考える為のピースを与えた。

 このジャポほん語を記す文字が、『魔言でという"文字魔術"である』と言った。鍵は魔言なのだろう。

 魔術というものが、ウェルデから教わったを使用するモノので、そこから考えを深めていくとー…。


「魔力感知、もしくは魔力を流すことで"読める"ということか?」

「近いが違う。ムクロは最初からで行っている」

「……!!

 もしかして、『目・耳・口』に魔力を集めることで"みたいなものが発動するってのか??」


 最初にムクロが出した答えは否定されるが、それでも半分くらいは合っていたのだろう。ウェルデから与えられたヒントで、正解を導き出し、驚くムクロに満足そうに頷いた。

 嬉しそうなのは間違いないだろう。少し微笑んで口元が弛んでいる。


「然り。魔法である以上、"魔力に反応する"のは必然である。ただこの事を、リバーサイデリアの住人に話したところで、誰も成功は出来んがな」

「……その言葉からすると、オレと同じ日本人……ここ風に言うなら、【ジャポほん人】以外では最低規準を満たさないということか?」

「是。そういうことだ」


 ウェルデの顔は「満足だ」と言っている。まあ外す方が難しいくらいである。

 最初に『異世界から来た青年が作った』と言っていたのだ。この場合は『作った』より『使った』が、ムクロから見ると正しい気がするが。


 話しはステータスについてに戻るが、【HP】という数値がないことに疑問を感じる。

 ただ、HPに関しては『心臓を刺されたり』した場合、即死だから分かるのだが無いというのがステータスがある以上、不思議で仕方がない。

 ムクロ自身は『ん? オレの場合か? もうホネになっているから、死なないと思うぞ?』というお気楽な認識であった。粉々になった場合、死ぬ可能性があることに関して、頭から完全に抜け落ちている。


  そんな風に考えていたるムクロに、ウェルデが語りかけてきた。


「さて、ムクロが気にしているであろう、【HP】と【MP】に関しての説明をしよう」

「(オレの疑問のど真ん中を貫くってことは、心を読んでいるのか?)」

「ああ。心を読んでいるわけではないぞ?」

「(いや、嘘だろ!?)」


 ムクロは驚くが、ウェルデは清々しく言い返した。


「我ら大精霊にも、ムクロの世界にあるような"ネットワーク?"っぽいものはある」

「なるほど。"お約束"ってやつかな?」


 厳密には違うかもしれないが、ムクロはそういうモノと割り切った。しかしながら『"大精霊ネットワーク"って異世界っぽさがない!!』と内心では不満があった。

 彼がそう思ってしまうのは、この世界にとっての"異物"だからだろう。まあ、それを引いても風情がないと思うが。


「では話を戻そう。【HP】は恐らくムクロの想像通りだ。急所への一撃で呆気なく死ぬのが生物ナマモノの宿命だ」


『今、ウェルデのヤツは"ナマモノ"と言わなかったか?』とムクロは思い、顔に出たのだろう。


「そんな事は……ないぞ?」


 的確に否定を行う。こうなると、心を読んでいても不思議ではない。それよりも、その間は何だ?


「まあ、HPに関しては理解できた」

「簡単に理解するとは、スケルトンとは思えぬな」


 その言葉に『そうだよね~』っと心の中で相づちを打つムクロ。実際に"脳ミソ"は無いので、何処で記憶しているのかは彼自身が1番気になっている。


「オレの【MP】がバグっているのは、どうしてなんだ??」

「ムクロよ、お主は想像力が豊かではなかったか?」

「(……18禁的な方向で結構な実績があったかもしれん)」


 イヤな方向で心当たりが発覚した。そんなムクロ表情を正確に読み取ったのか、ウェルデは妙に威厳がある顔で頷いた。


「ふむ。何やら心当たりがあるようだな。たまに訪れる訪れる異世界人は、『MP=魔法を使用できる量』と勘違いしているようなのだ」

「大精霊視点で……って話でだよな?」


 ムクロの言葉にニィっと唇をつり上げて笑うウェルデ。ツッコミたくなるような、裏話がありそうだと構える。体を強張らせているムクロに、キリィっとした表情でを口にした。


「実は、MPとは"妄想力"の略なのだ」

「妄想の"M"と、パワーの"P"ってことなのかよ!!」

「捻りが少なくて申し訳ない」

「捻りどころか、上げずに落としているってば!!」


 彼は基本的に受け身の人生だったのだが、生まれ変わった(ホネで人外)せいでそういった性質も変わってきているのかもしれない。能天気なのは変わらないが……。

 本人は『前世より楽しかったら何も問題ない』と割り切っている。その事実に変な感心をしてしまう。ツッコミをすることになるとは、思っていなかった様子だが。


「【MP】についても、納得はー…できないが理解した。

 次に聞きたいのは、【魔法】に関してだ」

「うむ。この世界には、自然現象を改変する力がある。それは【魔法】と【魔術】だ」

「区別しているってことは、明確な違いがあるってことか?」

「是。【魔法】に関しては、ムクロのようなモンスターが"生まれ持った属性の力"を使った、自然現象の改変行為だ。

 ムクロの記憶で分かりやすく話すなら、『ドラゴンの吐く火焔』や『スライムの消化液』と言ったところだ」

「確かに、分かりやすい」


 モンスターになった自分にも関わりがある例えである。


「【魔術】は、モンスターが使う魔法に対抗するために、人族の産み出した"自然現象改変術式"というべきモノだ」

「それは『火がなんで燃えるのか』とかを知っているワケか?」

「そこまで高レベルなモノではない。先にも言ってたように、あくまでも"イメージ"でしかないのだ」


 この世界の魔術事情はあまりよろしくないらしい。知識面よりも、イメージが大幅先行しているようだ。そうなると、コレはコレ! アレはアレ! という風に固定されているのではないだろうか?

 それ以前に、化学知識に至っては皆無であろう。気になったことを確認する。


「オレは、【魔術】を使用できるのか?」

「我には"可能性はある"としか言えない」

「可能性があるだけでも、儲けものだろ!」


 ウェルデを安心させるように、明るく答える。取り合えず試さないことには、話が進まないので、ビバ実験!!

 ムクロは気合いを入れて、気持ちを引き締めた。


「(今のオレが、どんな魔法を使えるのか、わからないから……最初に試すのは【魔術】の方だな)」


 心の中でそう決めると、体内(肉体はないから、ホネ内か?)に張り巡らせている魔力をエネルギー源にして、人差し指の先端で火が燃えるイメージを浮かべた。

 周囲からは、酸素を集めることも忘れない。


「『……火よ』」


 無意識の内に口から出た言葉に驚くより、指の先に顕れた火に意識が向かった。火が燃える熱は感じるのだが、暑さは感じない。

 そんな不可思議な現象に首をかしげていると、ウェルデが説明してくれた。


「【魔術】や【魔法】は、使用者に"直接的"なダメージは与えぬ」

「…………ってことは、服に引火した場合は、使用者じゃないから"間接的"にダメージが与えられるってこと?」

「是。そうだ」


 このとき、ムクロの顔に肉が付いていたら、引きつっていたことは間違いないだろう。ホネなので、引きつることはなかったが。

 確認を兼ねて色々やっていたとき、この世界に来て初めての戦闘を経験することになった。


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