第14話 ちょっと、信じられないのですが!?
ダークエルフの少女から聞いた、"
「(あれ~? 頭痛って、ホネから来るものだっけ??)」
頭のホネ全体に響くような痛みが発生している。頭痛は、頭の中から来るように皆さんも感じているのではないか?
詳しいことは分からないので割愛するが、頭蓋骨にくる痛みは共振的な作用が加わり、過去のモノより痛く感じているムクロであった。
「大まかな流れは分かった。君は、自国に帰りたいのかな?」
きちんと確認しないと「面倒なことになる!!」とムクロの直感が告げていた。そんな状況で「オレ、関係無いし」と言い切れるほど簡単に、目の前の少女のホネを諦める事は出来ないかった!! というホネ的な事情があったりする。
それほどまでに、少女の生まれ持ったホネは魅惑的であり、蠱惑的でもあった。過去にこの男も妄想した事がある『
もっとも、ホネになったムクロを、幾らサキュバスであっても『性的に満足させることは出来ない』と推測出来る。忘れてはいけない事として、現在のムクロが少女に感じている"性欲ぽいモノ"は、そのむっちりとした肉体ではなく、その肉体を支えるホネである。
もう1つ、忘れてはいけないのが、ムクロの全身はホネだけであり肉は無い。そして、男としてのシンボルも無い。
「私ハ……、王子と一緒になりたいでス!」
ムクロの問い掛けに少女は"どうしたいか"ではなく、お腹の底からの"己の欲望"を力一杯に吐き出した!
それを聞いたムクロに表情があったら、壮絶な笑みを浮かべていただろう。
「どうやって、望みを叶えるつもりだ?」
ムクロの言葉は、願う未来に向かう為の『手段』を聞いているのだ。
それを聞いた少女は、着ている服の襟口から手を突っ込み、蝋印の封がしてある封筒を取り出した。何の模様なのか分からないが、これは紋章なのだとムクロは感じ取った。
「王子の母国に、救援を頼むのか」
「はイ。この勅に押されている印ハ、国王だけが使える印になりまス」
「(こいつ、よっぽど箱入りだったのだな)」
ムクロのことを全く警戒しないで、黙秘すべき事まで話している少女を見て、頭の中に"外見不相応な精神じゃないのか?"と疑問が浮かび上がったが、ダークエルフとエルフの寿命について思い出したムクロである。
ウェルデは『エルフ種の寿命は、だいたい500~1000年になる。病気やケガが原因で早く死ぬものもおる。平均すると600年くらいか?』と語っていた。
彼ら以外の種族の寿命は似たり寄ったりで、だいたい60年くらいである。身近に危険があり、中世時代の文明レベルと予想すると、意外に長生きである。
「そう言えばお前は、いくつになるんだ?」
「私ですカ? 今年で120才でス?」
「ってことは、ヒューム換算"12才"で間違いがいはないか?」
頷く少女を尻目に、ウェルデの話でもう1つ記憶しているのは、精神年齢は実年齢の10分の1であることだ。
だから、ムクロは目の前の少女をマジマジと見つめた。
肉体的には20代前半。精神は12才相応……そう考え、ムクロが思ったのは「その王子って、ロリコンなのか?」と言う、ある意味では不名誉な事であった。熟考を進めるごとに思い直すことになる。
『あ、オレもガキの部分があったわ!』
思い直し、己を正していけるなら良いのだがこの男は、「それならそれでいいか!」と開き直っている当たり、救いというものは無いのかもしれない。
「物知りですネ。重ねて話すト、私は"
「("太古の血"ね……。間違いなく、1万年前の時代を生きていた血族の"
「何でモ、『自身の知ル、あらゆる場所を繋グ』モノらしいです」
「(それって、本来は秘匿するべき事項じゃないのか?)」
「たダ、私の行ったことがある場所ハ、生まれた王都中だけでしタ」
ムクロが話の最中に予想していたことは事実であり、本来は身内にも話さない方が良いことである。軍事利用されたり、敵国に拐われる事もあるからだ!
誘拐どころか、殺される可能性すら視野に入れる必要がある。この少女が話してしまった事から、相当な"箱入り娘"であるのは間違いない!! が、ムクロは知らない。
120才で『箱入り娘』と言うのは、どうなんだ? と思うのだが、彼女の立場が『お姫様』なので仕方がないか……と、ムクロは自分で言い訳を作って納得する。
「その国の場所は、知っているのか?」
「勿論、地図を持って来ていまス!」
地理というか、今いる国の名称も、現在の地点も分かっていない。勿論、国の数も含めてだ。でも、自分から「地図はあるのか?」とは聞けなかった。よく小説では"地図=国家の秘事"と出てきているからだ。
「(聞かない方がポロっと喋ると思っていたが、本当に喋ったぞ。この娘……)」
本当にこの娘の言葉や、行動には驚かされる。基本的に予定していない情報が入ってくるからだ。
棚ぼたと言うより、棚から美女が出てきたようなモノで、思わず引いてしまう。ムクロに「大丈夫なのかよ……ダークエルフの国の将来は」と思われている時点で、色々と手遅れかもしれない。
「こレ。今いるのが此処デ、向かう国はこっちでス」
取り出した紙に描かれているのは、お世辞にも地図とは言えない落書きであった。
「(何と言うのか、これって"オネショで出来た世界地図"と言いそうだな)」
ミミズが這い回ったと言えれば可愛いくらい、フラフラとしていて地図とは言えないレベルで、少女の精神状態を疑う他ない!!
「此処ガ、私の国でス!」
「(それを"国"というのか!?)」
細く繊細な指が示しているのは、複数の円形? に囲まれたところであった。どう贔屓目に見ても、国があるとは思えない。
「そしテ、国を2つ通った先ガ、目的の国でス」
「(この国はメチャメチャ大きいっていうのか!?)」
ムクロを衝撃が襲う。地図の大きさはA3くらいであり、少女の言う自国はその用紙の3割近い広さになる。そこから隣の国と王子の国が恐ろしく近い。
近いと言うより、喰らい付き合っている。"C"と反対を向いた"C"がガップリと絡んでいるのだ。よく国が疲弊せず、結婚までいけたものである。
「私が頑張っテ、写し取った地図でス!
安心してくださイ!」
「(安心どころか、不安で一杯だよ!!)」
ムクロの「何これ?」と言う視線を、「これはキミが描いたのかい?」と全力全開のプラス思考で受け止めた少女は、両手を胸の前でグーに握り、力一杯「安心してください!!」とアピールしている。
増していくのは"不安感"と"恐怖"だけであり、安心という言葉は存在していない。そんな中、1つの決意を決めるに至った。
「(近くの村に着いたら、大まかな地図がないか聞いてみよう……)」
そんな事を考えているのは、身の危険を感じたからだろうか? 己の為ではないのは確実である。
だって、ムクロは簡単には死なないが、ポチ子は間違いなく死ぬので、動かないわけにはいかないのだろう。ポチ子だけが、今の彼の家族なのだから……。
パチパチと火が弾ける音が、周囲に木霊する。焚き火を向かい合って少女と囲んでいる。その時不意に、少女の名前を聞いていない事を思い出したムクロである。
「そう言えば、自己紹介がまだだったな。オレはムクロ。そこで寝ているコボルトは、ポチ子。オレたちは2人? で旅をしている」
「これハ、どうもご丁寧二。私の名前ハ、フロウェルと申しまス」
「(小説によっては、エルフの名前が長い場合があるが、この世界では違うようだな……)」
「本当の名前は大変長いのデ、愛称になりますガ、お許しくださイ」
ムクロの安心は、根底から覆された。それも、安心した直ぐに。
「あ、ああ。よろしくな、フロウェル」
「はイ、なのでス」
どうやら軍配は、フロウェルに上がったらしい。勝負の決め手は答えられないが、笑顔でニコニコしているフロウェルと、乾いた笑みしか浮かばないムクロを見比べてみれば分かるだろう。
下手をすれば、無呼吸では言えない可能性が高い。恐らく忘れていると思うが、死人であり、ホネであるムクロに呼吸という作業は必要ないが。
フロウェルの正式な名前を聞くのは、止めることにしたムクロは諦め半分で、方角の確認をしてみた。
「……で、北はどっちだ?」
「お任せくださイ。あっちでス」
指差したのは、フロウェルの左手側だった。確証はないが、間違っていると確信してしまうという、可笑しな状況であった。
何故か理由を知りたくなったムクロは立ち上がると、先ほどの伐採で出来た切り株の場所に向かった。
確認するのは、切り株に出ている年輪である。この年輪には特徴がある。『同じ円でも、次の円までの間隔には広がり方に差がある』のだ。
間隔の差は、太陽の当たっている時間であり、長く光を受けているほど成長するからである。
切り株の上から覗き込み、輪の間隔を見るのだが、開き方に違いがなかった。ムクロは顎を指で掻き、暫くの間、思考の海の中にいた。
元からの性格と、脳ミソが無いのが原因なのか、深く考える前に「異世界って事にしよう。──そうしよう」と自己完結している。ホネになっても、深く考えると"禿げる"という迷信を信じているムクロであった。
「(……って言うか、あっちは川上だったよな??)」
ウェルデの話では、『川下に向かって下れば、"南にある街"に着くハズだ』と教えてくれたが、それが村なのか街なのか覚えてない。どうせなら、詳しく教えて欲しいかったと、プチ逆ギレを起こしたムクロである。
「(地図は基本的に"上が北"だったよな?)」
追記を加えるなら、『地球限定』である事を忘れないで欲しいところである。地球外については、全くわからないので省かせていただく。
しかしながら、フロウェルの自信満々で出した出した地図には、国と国の境目……国境線が不明であり、さらに追い討ちとなるのが文字が読めない事である。これは、
「フロウェル。この地図の上はどっちだ?」
「……お任せくださイ。こっちらだったと思いまス」
フロウェルが上の方だと言ったのは、描かれた用紙で幅の狭い方であった。この時点で、迷走するのは確実である。しかも「お任せくださイ」と言いながら、「だったと思いまス」と言うのは任せてられないと思う。
「("八方塞がり"って言うのかな?)」
ムクロは星が輝き始めた空を見上げ、そんな事を小さく呟くのであった。星は憎々しいくらいキラキラとしている。
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