第13話 ダークエルフの少女を襲った悲劇??
休憩していた場所から移動を開始したムクロたち。ダークエルフの少女が着替え終わった時点で焚き火を消し、土魔法で痕跡ごと地面に呑み込む。
こうすることで、この場所に"人が居た"痕跡を消す。少しでも追跡が遅くなるように、ムクロが考えた仕掛けだ。
様子を見る限り、もっと大きなトラップを仕掛けたそうに感じてしまうのは、心の穢れ故か?
「────移動するぞ」
「ま、待って下さイ!」
川下に向かって歩き出したムクロに置いていかれないように、駆け足で少女は近寄る。その際、ローブを掴んでいた事を少女が知ったら、どの様な反応を示すのだろうか?
ムクロの歩く速度はそれほど速くはないのだが、少女の歩幅が半歩分ほど狭いので、早歩きの状態になっている。その状態で1時間ほど歩いて、追跡者の動向をムクロは探っていた。
「……此処で暫し、休憩する」
「は……はイ」
「きゅぷるりぃ~」
この場所には、周囲に隠れる事が出来る物陰はほとんど無かった。念の為、毛皮を改造して造ったマントを少女には着せている。ハッキリ言って、この森で出会ったモンスターに対しては、過剰装備である。
2人が着ている服には、ムクロの【
少女が装備をしているのがフード付きマントだけではあるが、ウルフやビックモンキー程度の攻撃力では、マントの防御力を貫くことは出来ない!
「(ポチ子のヤツ……ずっと寝ているが、夜は寝られるのか?)」
移動中、起きる気配の無かったポチ子に対して、疑問が生じてしまった。コボルトという種は見た目通り、【犬科】に当たるので昼より夜の方が強い傾向にある。
ポチ子を地面に敷いた毛皮の上に寝かせたムクロは、土魔法を発動させて焚き火する為の囲いを作り出した。その光景を目にした少女には、驚きが大きかったらしく、目を大きく開いていた。
「(枯れ枝を探すのは面倒だな。生木から水分を抜けないか?)」
そう考え、右手を鋭い刃に変化させたムクロは、木の幹に向かい振り抜く。スッと手が反対側に動いた。
動作が止まったり、引っ掛かりが無いので、ただ手を左から右に振ったようにしか見えない。
ズドン!!
幹に手を当て押し出すと、斬られたことを思い出したかの様に、奥に向かってズレ、地面に倒れた。
イメージを行うことでスキルを発動させる事に慣れてきたムクロだからこそ、出来るようになったのだが、それが異常な事だと気付くのは何時になるのだろうか?
そんな事はお構いなしに、スパスパっと伐採した木に細かい切れ目を縦に入れる。この切れ目は、次に行う作業の下準備である。
次の作業は幹に手を付けて、火魔術の系統に属するモノを自己流にアレンジすることを考えた。
「("火"は属性としてあるけど、"熱"は属性にあるのか??)」
ムクロの頭の中に浮かんでいるのは、過去に化学の授業で受けた"分子運動"についてである。
木の中にある"水分子"の運動を活発化させ、水分を抜くつもりだろう。電子レンジの応用になる。
「(魔力を波のように放出する……)」
ムクロの周囲には、体から溢れ出した魔力が景色を歪めている。その光景は、蜃気楼のようであった。
魔力の注入を始め、木の幹に変化が出てきた。中から水分が湯気として出てきたのだ。水蒸気により光の屈折が起こり、陽炎のように景色を歪めている。
「(この人は、何なのですカ!?
私の知っていル範囲にはなイ、魔術でス!)」
ムクロの作業を見ている、ダークエルフの少女は驚愕している。自身が嘘を吐いたときに喰らった"死を覚悟した"威圧感。それは今の彼から感じないことが、そう言った疑問を産み出す結果になっているのだろう。
ムクロの使用しているモノは、魔術ではなく魔法の分類に当たる。これは"モンスターしか使えない"と言うわけではなく、逆に"リバーサイデリアの住人"には使用できない類いである。
ムクロは自覚なしに使用しているが、地球での科学法則を少なからずとも流用しているのだ。魔法のある世界で、科学の知識を理解できる者は皆無であろう。
故に、ムクロの使ったのは、【魔法】という扱いになるのだ。
生木の乾燥が終了したら細かく切り刻み、縦縦横横と#の字に組んで、焚き火の準備が終わる。あとは火魔術で点火したら、暖と明かりの確保が出来る。
焚き火が無くても、ムクロとポチ子には不自由はない。準備をしたのは目の前で作業を見ている、ダークエルフの少女が凍えないようにするためだ。
何故かと言うと、ウェルデの口から今が「夏から秋に変わる時期である」と聞いているからだ。2人だけなら必要はない。ポチ子は全身毛で包まれているし、ムクロはホネであるからだ。
もっとも、ムクロが嫌々しているとかではなく、「こういったのも、楽しみだし、風情ってやつだよねぇ~」と楽しんでいるからである。
「さて、話を聞かせてくれるかね?」
口調が多少緩んでいるのは、脅さなくても話してくれると分かっているからだ。冷えかけた体を焚き火に当て、温めていた少女はピクッと肩を動かした。
下を向いた少女は精神を落ち着かせる為か、大きく深呼吸を繰り返した。その際、ある部分が大きく揺れ動いたのだが、ムクロには「なかなか大きいな。ダークエルフってのは、そういう種族なのか??」と見当外れな感想を持っていたくらいである。
フードを外そうと手を持っていくが、ムクロがストップをかけた。感知範囲内に追跡者がいないと分かっていても、油断したせいで死なれると目覚めが悪い。無論、彼女のホネが今手に入るのは問題ないので、気分的なものでしかない。
そんな事を思っていると「お前はもう、死んでいる」と、有名なセリフが脳内に再生されそうだとムクロは音もなく笑う。
「その……私は、エルフではありませン。そのエルフに嫌わレ、
「(この空気の中で「知っている」とは、言えないよな??)」
幾ら自身を"ギャグ寄りな存在"と理解していても、真面目な空気をだす少女の気持ちを破壊することは出来なかった。
「ダークエルフの王都に私たち家族ハ、住んでいましタ」
「話からして、『私は王族なんです』って流れなのか?」
「!!」
驚きのあまり目を見開き、後ろに下がろうとしたが、マントの裾は地面で広がっている。なので、案の定……踏んで後ろに転びましたとさ。
「痛いでス!」
「お前……アホか?」
「ひ、酷いでス!」
「回復手段は無いのか?」
「ポーションは全テ、使ってしまいましタ。治癒魔術は、私たちダークエルフにハ、使えませン!!」
後頭部を押さえながら、涙目で真っ赤な顔をムクロに向けて、怒りだした。ムクロは理不尽だと思うと同時に、器用なヤツだと感心していた。
少女の表情は実に多彩で、基本的に表情の無いムクロからしたら羨ましい部分であろう。表情筋が無い以上、どんなに望んでも大きなリアクションくらいしかとれないが……。
「(ふ~ん、そうなのか。
でも、先入観から『 出来ない 』と考えているとした場合、出来ないと思い込むと出来ない事になる……とかじゃないのか??)」
酷い言い方になるが、ムクロにしては鋭いところを突いている。これはリバーサイデリアで生まれた人々に当て嵌まるが、小さい頃から身近に魔法があったが故に固定観念に囚われ、柔軟な発想が出来ないくなるのである。
ムクロの魔法が普通でない理由が、『魔力の無い世界でありながら、魔法のイメージが鮮明である』ことである。
理由はこんなものであるが、この世界では『魔術=イメージ』であり、イメージ構成に長けている地球人(主に、日本人)には簡単であったのが有利に働いていた。ー…以上が、ムクロの魔術が常識外れである理由になる。
「(──モノは試しって言うし、やってみるか)」
「????」
思い立ったムクロは少女を自分方に引っ張る。気配もなく自身に伸びてくる手を避けることも出来ず、ムクロの胸の中に飛び込んでしまう。
ムクロの正体がバレる可能性を生みそうだが、ローブは胸部の毛皮の厚みが増してある為、そう簡単に看破は出来ないだろう。失礼な言い方だが、ムクロだってその辺の事は考えているようだ。
目を白黒させている少女を尻目に、ムクロは後頭部に手をかざし、魔力を流し始めた。使うのは"水魔術"である。よく小説や、マンガに出てくるのでイメージがしやすいからだ。イメージは簡単。
後頭部で膨れているたん瘤を水が覆う。そして徐々に凹んできて、消えてなくなる様子を思い浮かべるだけだ。
「汝が恵みにより、彼の者を癒せ 『
少女の後頭部に出来いたそれは、綺麗サッパリ消えてしまった。瘤のあった場所を軽く触るが、あったの? と言われるくらいツルリとしている。
どうやら成功したらしい。
「どうだ? 痛みは消えたか?」
「──はイ。全く痛くありませン」
「そうか。次からは気をつけることだ。
『死んだら肉無し、恨み無し』というからな」
「そんな言葉は聞いたこト、ありませン」
それもそうだろう。ムクロの作った造語である。そんな事を突っ込む前に、こう言うべきではないのだろうか?
『死んだら、自我は無いんじゃない?』
そう問い掛けたくなる。答えるのがムクロだけに、キチンとした返答かは怪しいが……。
「……で、続きを聞かせてくれるか?」
ムクロの問い掛けに少女は頷き、話し始めた。
「私は、ダークエルフの国の王女でス」
「(うん。予想していたし、あの反応じゃ隠せないよね……)」
「ご存じのよう二、ダークエルフを含めた"亜人族"が平和に過ごす国でしタ。大陸の北に位置シ、強いモンスターに周囲を囲まれながらも豊デ、それでも人々の顔には笑顔が溢れていましタ」
「(これは……アレか? 滅ぼされたか、支配された)」
「ある時でス。私は、ヒュームの王の息子に、この肉体を欲されタのでス」
「(テンプレでいくと、とてつもないブサイクか、超悪趣味な性格をしているかだろうな……………)」
「その王子ハ、品行方正にして容姿端麗と言ウ、とてつもないイケメンで私モ、両親も大変乗り気でしタ」
「(あれ? ズレてない??)」
ムクロは此処まで聞いて、予想とは違う流れに戸惑いを隠せなかった。それだけではなく、嫌な予感と共に冷や汗が流れ落ちた気がした。「ホネって、汗かいたっけ?」「かくわけ無いよ!」と自問自答している。
「そしテ──私たちの結婚式の日二、悲劇が襲いましタ。両国の象徴となル、大切な日ヲ…………」
「(──あと、考えられるのは……モンスターの
「その者ハ、"ノーライフキング"!!
不死者の王とモ、屍王とも呼ばれル……太古の厄災でス」
「(まさかの
ムクロは自分の正体をどうやって説明するか、脳ミソの無い頭で考えた。
「そしテ、私の婚約者ハ、恐ろしい呪いをかけられましタ」
「(肉が朽ちるか、尋常ではない痛みが襲ってくるのか)」
「何でモ、その呪いは『立たないんだゾウさん』というモノなのですガ、そう言ったモノなのでしょうカ?」
「(
どちらかと言うと、ムクロの考えている呪いの方が凶悪だ。しかも呪文名からして、EDであると予想できる。詳細を御両親に聞くのはやめて欲しい。答えられないだろう。
しかし、考えようによっては、ムクロの呪いより質が悪い。何故かと言うと、国王の役割は『国を治める』こと以上に、『世継ぎの男児を生ませること』が重要視されているからだ。
「その呪文ハ、どういった効果があるのでしょうカ?」
「(ただ、
そんな呪いを、地球で過ごしている現代人が受けたなら、少子化が爆速前進するだろう。それにしても、その屍王は何を求めていたのだろう?
「何でモ、私に向かって『お前の処女ボネは貰う!!』と言っていたのですガ、どういう意味なのでしょうカ?」
「(手段は最低だが、その判断には賛成だな! 良いコツ談が出来そうだな!!)」
この男は、何気にノリノリである。同じホネに
「そしテ、王子の計らいによリ、私1人が王都から逃げ出したのでス!」
「(しっかし、何で今に拘ったのだ? 死んだら肉体の処女云々は、関係なくないか??)」
死んだらホネ。ムクロの中で、絶対無二の
現にムクロも、目の前にいるダークエルフの少女のホネ狙っている。それでも、「年取って死んだ後に貰えれば問題なし」と考えているので、現時点ではガッ付くつもりはない。
ドンドン、人間から離れていっている事に、ムクロは気付かないままである。
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