第12話 やり過ぎにはご注意! ホネは後悔しない?
周囲にムクロの『世紀の天才』という言葉が響く。確かな事実としては、地球においてもニュートン、アインシュタインなどの天才と呼ばれる人種の出現により文明を飛躍させている。
此処、リバーサイデリアに当てはめて考えても、"魔術の天才"や"魔導具の天才"などの出現で魔法文明は進歩してきている。その文明を加速し進める燃料がムクロの口にした"起爆剤"と言うわけである。
もっとも、忘れてはいけないのが『"天才"は"天災"と成りうる』ことである。
そんな話をウェルデに語る。ムクロから見ても、さわり程度しか理解していない感じに見えていたが。
『そうなると、ムクロは"天災"になるのか?』
「ある意味では、そうなるんじゃないか? 天才を『天が与えし才能あるもの』というなら、天災は『天が知らぬ間に発生する災い』と言ったところだろうしな」
『ムクロの異常性を考えると納得しそうだな』
「ひっでー」
カランカランと顎を鳴らしながら笑うムクロの近くでは、ポチ子が彼を見上げて「きゅ~ん」と小さな声で鳴いていた。
『どうやら、結構近くまで来たらしいぞ?』
「その様だな。オレの感知範囲に入っているからな」
『それでは、一端通信を切るぞ?
落ち着いたら、連絡をするがよい。それと、そこにいるダークエルフの小娘については、奴隷という設定にしておいた方が無難だと思う』
「了解した。じゃ、落ち着いたら連絡するわ」
お互いが軽い感じで、会話の終わりを告げ合う。水溜まりがピカッと光ると、通信状態は解除され、水は地面に吸収されたのか無くなっていた。
数秒ではあるが、森の中には静寂が訪れていた。その中でムクロは、隣で寝たフリをしていたダークエルフの少女に声をかけるのだった。
「起きているのは、分かっている。死にたくないなら、体を起こせ」
そう命令するが、この少女が目覚めたのは、2人の会話が終わる数分前であり、彼女が聞いていた範囲ではムクロの正体は当然知らないし、会話相手と方法は分かっていないのは彼も理解している。
では、何故そのような命令をしたのかと言うと、彼女の事情を早急に聞く必要性があったからだ。
「ワたし、サッき目覚めタばかりデス」
彼女の言葉が聞きにくかったムクロは、無い耳をポンポンと叩いていた。本来ではコンコンと鳴るのであるが、フードを被り、間に毛皮を挟んでいる状態では鳴りことはない。
この動作は、人間だった時の
「そんな細かいことは、気にすんな!」
「ゼンゼン細かくないですヨ!」
「で、何で川をどんぶらこっこしていたんだ?」
「どんぶらこっこ、違いまス!
運悪く、あシを滑らしただけでス!」
「それは──盛大に滑ったんだな(笑)」
先ほどまでよりマトモに聞こえることが、ムクロの気持ちを満たしたのか、かなり口調が軽い。手を見られたら、スケルトンであるとバレかねない。
もっともこの男は、手くらいしか外に出していないので、バレる可能性は低い。その上、外に出ている手に関してだが、白い手袋をしているように見える。これにはあるカラクリが存在する。
今までにムクロが〈Re:ボーン〉のスキルで吸収したホネは、40体分を軽く越える。吸収したホネが何処に消えるかは置いておいて、それを使用してホネの手を手袋仕立てにしているのであった。
袖口から見えると不味いので、肘の部分までは白色の肌であるように着色をしている。色合いは、日本人的に言う白い肌が近いだろう。
「ひ、酷いでス!」
乙女の純情をもて遊んだ! と言いたげな表情で訴えかけるダークエルフの少女だが、その言葉を使うには相手が悪すぎた!
彼女の相手は、性欲皆無のムクロである。蠱惑的と言っても良い体付きだが、その豊満な胸も、むっちり感のある脚もムクロの目から見たら「私、ホネしか興味ないんですよ!」と言ってみたくなるであろう。彼なら言いそうだ。
「君は正体を話す気はあるかな?」
「私はエルフでス!」
真面目な声音で尋ねるムクロだが、彼女は頑として答えようとしない。元々、時間的猶予はほとんど無い。1つ、ふ~っと溜め息をつくと、ムクロの眼が据わった!!
ちなみに目に関しても、義眼ならぬ、義眼コツというモノで作製している。それの眼孔を狭め、睨み付けるように見る。
「ほう……"エルフ"──ね?」
ムクロの声のトーンが下がり、重みが増す。この時のムクロは、どの様なことを考えていたのだろうか? 見てみよう。
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Side:ムクロ
オレの目の前には、川を流れて来たダークエルフの少女が、ちょこんと女の子座りをしている。そして、悪いと思う様子もなく自身を"エルフ"だと名乗った。
確かに耳は細長くて先が尖っているが、エルフでは有り得ない大きさの胸と、黒い肌の色が見えているのに気付いていないのか??
「ほう……"エルフ"──ね?」
意識的に声のトーンを下げるが、あまりにもシリアスな状態を維持している為、背中……正確には、背骨に面するホネか? それが、メチャクチャ
オレはハッキリ言って、シリアス畑なホネじゃないんだ!!
どちらかと言うと、ギャグ寄りな存在の方が楽だと自覚している!!
動きは少女の方にあった。
「…………」
無言ではあるが、M字に座り込んでいる脚の真ん中に両手を着いた。まず、間違いなくオレを誘惑しようと考えているだろう。愚かな小娘だ。
ホネのオレには、"性欲"なんてねーよ!!
しかし、何故か"食欲"と"睡眠欲"はあるんだよな~? マジ不思議??
仕方ない。ちょっと強引な手段を取らせて貰おうかな?
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どうやら、内面はいつも通りのようだ。シリアスが苦手と言うのは、彼の行動から考えると「そうだね!」が入りそうである。
しかし、背骨が
「黙っているって事は、やましい部分があるってことだぞ」
ムクロは更に、脅しをかける。
【取得条件を満たしました。スキル〈鬼コツ威〉を修得しました】
「(不本意なスキルだよ!?)」
ムクロは心の中で叫ぶ。直感で、このスキルの使い辛さを感じ取ったからである。それでも〈鬼コツ威〉を発動させ、再度脅しをかける。
人族や亜人族使える戦闘補助系スキルに〈威圧〉がある。闘気、殺気を相手に放つことで萎縮させるスキルである。
ただ、ムクロの放った〈鬼コツ威〉は威圧と比べるまでもなく、生存本能に直接警告を鳴らせている。理由としては、リッチやノーライフキングといった超越種と呼ばれる"上位種"しか使えないモノだからである。
それをムクロが使えたのは、ユニークモンスターであることが大きいのかもしれない。本来、上位種になれるのは"万に1つ"と言われるくらい極低確率でしか成り得ないからだ。
「────ひぃぐぅ!!」
それほどの脅威となる威圧を喰らったのだ。見た限り戦闘職どころか、戦闘経験の自体無さそうな少女に耐えられることはなかった。
チョロロロロ……
ムクロは小さな水音に気付いた。視線を合わせずとも、何が起こっているのかは理解している。
「(漏らしたぞ……この娘)」
声に出さないだけ紳士的と言えるだろうが、この男が〈鬼コツ威〉という狂った性能のスキルを使用しなければ、少女が粗相をすることはなかったのだ!
ちなみに、ムクロの放っている威圧は、森中に放たれている。それも無差別にだ。ムクロの感知範囲には、動きの遅くなった追跡者と思わしき者たちが、周囲を警戒し立往生している。
当然と言えば、当然であろう。平和で、強力なモンスターのいない森の中から、人族ではあり得ない強さの圧力が襲ってきたのだ。
「言いたくないが、オレたちに近付く気配がある。そいつ等には心当たりがないがな」
「…………」
「もし、キミに心当たりがあるなら、この場に置いて行く。無関係なオレにはその気配が何であっても関係無いからな」
頑張ってシリアスモードを続けているムクロだが、その背中がモゾモゾと動いている。実は、ローブの中で"3本目の腕"を造り出し、
相対している人数が、1人だったのは彼にとっては幸運だったのだろう。いや、間違いなく幸運である。
「────あばよ」
動きの無い、正確には『
少女の体を覆い隠していた毛皮は、パサリと地面に舞い落ちた。その穢れなき色黒の肌が世界に晒される!
ムクロ自身が仕掛けた流れとはいえ、若干良心が痛んだらしい。
「全テ、話まス。助けて下さイ!!」
「(予定通りっちゃ……そうなんだけどさ、なんか鬼畜感パねぇよな……)」
見ず知らずの少女を森の中で全裸にして、涙を流させている時点で「間違いです!!」と言っても、誰も聞かないだろう。
立ち去る素振りを止めたムクロは、少女と真っ正面から向かい合うことになった。その時! ムクロの体? には、スケルトンになって初めての衝撃が走ったのである!!
「(……な、なんて──美しい)」
ウェルデの姿を見たとき以上の、精神を揺さぶるような衝撃であった。川から救出した時も、体を拭い時も感じたことがなかったのだ。
「(最高の"ホ・ネ"だ━━!!!!)」
そう、ムクロが受けた衝撃とは、少女の肉体美ではなく、その体を支える骨格──謂わば、"美コツ体"とでも呼べるモノであった。
ムクロが生身の肉体に衝撃を受けたと思った人がいたら、考えてほしい。ホネが肉に恋をするか?
──否
それ以外に、答えなどはない!!
遠い未来に、今日の出来事を彼はこのように語った。
『ホネは肉に恋はせず。ホネはホネにのみに恋をして、愛を謳うであろう』
深く考えないで、軽く流して欲しい。ただ、ムクロがそういう存在であるだけだ。他にもいたら、ちょっと悩むかもしれない。
取り合えず少女を着替えさせ、この場を後にするムクロであった。途中から空気になっていたポチ子だが、満腹のあまり眠っていた。
丸かって寝ているなら可愛いが、大の字で寝ていると可愛さ半減である。そんなポチ子であっても、ムクロには大切な"愛犬"であり、"相方"でもある。
腕に引っ掛けるように抱き締め、歩き出した。
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