第11話 昇格のち、亜人族ときどき、奴隷制度
ムクロが昇格の痛みから意識を取り戻した時には、軽く1時間が過ぎていた。目を覚ましたムクロが最初にしたのは、自身の確認であった。
普通でも硬いムクロのホネの表面にヒビが幾筋も入ったのだ。イメージがしにくいと思う。腕を爪で引っ掛かれた痛みの数倍はある……と言えば少しは分かりやすいだろう。
体の変化については、少し黄色の混じった白だったホネの色がより白色に近付いていた。指と前腕のホネをぶつけてみると"コンコン"という以前より高い音であった。
節々を確認しながらゆっくりと立ち上がると、近くの藪の中からポチ子の尻尾が見えていた。「主人の心配を……しそうに無いな!!」そうムクロは思い直す。その辺の切り替えの早さは、以前と変わりないようだ。
「んぎゅ~」
伸ばす筋肉は無いが柔軟を行う。
ある程度、体の各部を確認すると右手を木の根元に向け、魔法で水溜まりを作る。そして、ステータスの確認を行う。
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ムクロ
スケルトン族(異世界人)
男?
享年32
職業:ホネになってきました:格1
MP φψπσЕБυАВξПДГХФХ
ちから 20 (+4)
みのまもり 20 (+4)
すばやさ 24 (+5)
かしこさ 28 (+10)
ボーナスポイントBP 9
【
Re:ボーン
【
魔力強化 LV3
魔力武装 LV3
配下契約 LV2
腕力強化 LV3
脚力強化 LV2
ホネっ子 LV5
スキルポイントSP 11
【
水の大精霊の祝印
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
配下 ポチ子
ポチ子
コボルト族
メス
0才(生後1ヶ月)
職業:2本立ちを始めました:格4
MP 25
ちから 4
みのまもり 4
すばやさ 6
かしこさ 5
ボーナスポイントBP 3
【
特殊個体
【
じゃれる LV4
幸運 LV2
食欲神の加護 LVーー
スキルポイントSP 3
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ウェルデから話で聞いていた"昇格"が起こったようである。ムクロは気を失う瞬間に、聞こえた言葉を思い出した。
【昇格が完了しました。職業が『ホネになってきました』になりました】
急ぎ職業を確認すると言葉の通り、『はじめる』から『なって』に変わり、格も”1”になっていた。混乱していた頭を、現実に引き戻してくれたのは、意外にもポチ子であった。
ただ、その口元は血で汚れていたので、作り出した水溜まりの水で洗う。
「おい。ヒトのホネをかじるでない」
「きゅん? きゅ~ん」
ムクロの言葉から「噛んじゃダメ」と理解するに至ったポチ子は、歯を立てる行為から舐める方に方向を変えた。
たぶんポチ子的には、「噛んでないからいいでしょ?」という考えなのだろう。舐める事に対して何も言わないのは、歯を立てるとポチ子の"ちから"と、ムクロ自身の"みのまもり"の数値差により、ダメージを受ける可能性が高いからだ。
所謂、【反射ダメージ】を警戒しての注意であった。
「ウェルデ。今、大丈夫か?」
新しく魔法で作り出した水溜まりに話しかけるムクロ。水面が一瞬光ると、そこにはウェルデの姿が映り込んでいた。
『うむ。なんとか、話は出来る感じだな』
「ああ~…もしかして、今の状態は結構厳しい??」
『その通りだ。地面に水が吸い込まれるので、通信状態を維持するのが大変なのだ』
「悪い。器に水を満たした方が良かったな」
『是。そうして貰えると助かる』
2人の間には、気心が知れた者同士の空気があった。ある意味では当然の事であった。ポチ子がフラフラと動き回るので、ムクロの処理能力では現在位置の算出が出来なかったのだ。
本人に言わせると、「オレ、ホネですけど? 脳ミソ無いんですが??」と言い返してくるであろう。
「それで、連絡をした理由だけど……」
『ふむ。理解しておる。
ムクロの職業が"昇格"したのであろう。信じられんことだが、感じ取れる魔力の量が増大しておる!』
「
『分かるも何も、【水の大精霊の祝印】を与えたときに教えたではないか!?』
「そ……うだっけ? ━━……ああ! 思い出した!!」
ウェルデが「ムクロと何時でも話せる」と言っていた理由が、先ほど上がった【水の大精霊の祝印】である。この祝印は、"与えた大精霊の属性に対する親和性を上げ、消費魔力を減少させる"という破格の副次効果があるのだ!!
しかし、本来の目的と言える効果は、"通話能力"である。そうは言っても、契約した大精霊としか会話出来ないので、現在ではこちらの方がおまけ的扱いになっている。
しかもこの祝印には制限があり、大精霊が当世に1人(与えたものが生きている間のこと)しか与えることが出来ない。これに関しては、祝印の効果を考えると納得できる。
そこから導きだされる答えは、『ムクロに祝印を与えた場合、消滅するまで消滅するまで制限がかかる』ということだ。
余談になるが、祝印には下位互換と言える"祝紋"がある。こちらには制限は無いが、祝印ほど強力ではなく、『該当属性の威力を少し上げる』という効果である。それでも欲しがる者は後を絶たないが。
『お主……ここは、『流石、ムクロ!』とでも言うべきなのか?』
「ほ、褒められても、嬉しくないのだからね!!」
『う~む。ムクロの記憶にあった"つんでれ"というヤツか??』
「…………」↓↓
『異世界とは奥が深い。それと、"いった言葉は消えん"ぞ?』
とっさに出た言葉のせいでウェルデからツッコミが入り、恥ずかしさのあまり無言になり凹んでしまう。この男はホネになった時点で、性欲の大半を失っている。
その中で残っているのは、趣味嗜好の部分であり、一番強く出てしまうと言っても過言ではない。
つまり、何が言いたいかは……。
ツンデレな彼女が欲しかった!!
と言うことである。え? 大きな声で叫ぶ必要があるかって?
そこは
「…………もう、許して下さい」
ウェルデに攻め……違う。責められているワケではないのに、自責の念という名の"後悔"である。まあ、どれ程仲の良い相手でも、自分の性癖を知られたくはないものである。
『????』
言い返していた本人には、何故ムクロが謝ったのか分かっていなかった!?
「きゅ~ん、きゅきゅ~ん」
ポチ子が珍しく、ムクロのローブを鳴きながら引っ張ったのだ。今まで1度もない行動に、ムクロの警戒心が最高の警報を鳴らせていた!!
ムクロが最初に見たのは、救出したダークエルフの少女である。しかし、何の異変もなかった。
次いで周囲の確認を行うが、モンスターの気配はなかった。
「(何なんだ? さっきの悪寒のような感覚は??)」
『周囲に、人族の気配があるな……』
「そうなのか? もしかしたら、助けたダークエルフの少女じゃないのか?」
『いや。ムクロの側に亜人族の少女がいるのは、昇格前から居たことを知っている』
「亜人族??」
ウェルデの言葉に、詳しい説明のなかった単語があった。それが『亜人族』である。このリバーサイデリアには、【人族】【亜人族】 そして、【モンスター】と大きく分けて3つの種族に分けられている。
正確には人族と、それ以外(亜人族+モンスター)に分けて考えられている。ウェルデたち大精霊から見るとバカげた話でしかなく、区切り方に正当性などはないと判断されている。
ウェルデは、亜人族について話す。
『まあ、簡潔に言えば、人族側からしたら"自身の種族にとって邪魔な種族"を呼ぶ名称だな』
「なるほどな……」
その顔には、納得はしないが理解は出来たと書かれていた。失礼な例え方で悪いが、地球にも存在する。
それは、【白人種】【黒人種】【黄色人種】という分け方であり、差別的な使用方法で使われていた言葉である。
『
「……………」
ウェルデの説明で"ダークエルフ"という単語が出たとき、何か責められているような感覚に襲われ、視線を反らしたムクロであった。
『
ムクロは、ウェルデの語る種族を頭の中でイメージしていく。その中で、ホビットに関しては「人族なのでは?」と感じたが、それを言ったところで今まで続いてきている因習が消えて無くなるハズはないと、理解出来たので黙っている事にした。
「ー…ってことは、ウェルデとポチ子の感じた気配は、人族側のモノってことか?」
『一概に断言は出来ぬが、恐らくそうだと思う』
「この娘の敵と考えると、人族も他種族も変わりがないからな……」
ムクロの言葉が、地球人らしからぬ冷たい発言なのは、自身がモンスターであると理解している事が理由であろう。
どちらから狙われても不思議ではないからだ。それ故に、足元で眠っているダークエルフの娘をどうするべきか悩んでいた。その感情を読み取ったウェルデが、まるで悪魔の囁きのような言葉を発した。
『
その言葉をアッサリと言うウェルデに、驚くことしか出来ないムクロである。驚きはしたが、よく読んでいた異世界系小説には、【奴隷制度】や【奴隷】という単語が多く出ていたのを思い出し、落ち着くことが出来た。
問題に思ってしまう事がある。
「(奴隷制度を当然のモノと考えている現状だと、文明の進歩って遅くならないか??)」
地球規模で過去に【奴隷】という存在はあった。しかしながら、ムクロの生きていた時代には無くなっていた。
色々と説明を省くが、【奴隷制度】が無くなったのは、生産性の問題であったと思う。実際に奴隷が動くというのは、当人の"意思を無視"したモノがほとんどであり、そこには当人の"やり遂げた満足感・充足感"は無いのでは……と考えてしまう。
小説として考えるとアリだが、実際に直面すると"アリとは思えない"とムクロは思ってしまった。
恐らくその考えの底には、『オレ、ホネだし。性欲なんて、無いし……』と思っている可能性が高い。昔の人は良い言葉を残している。
【百聞は一見にしからず、百見は一触にしからず】
簡単に説明すると、前半は『100回説明を聞くより、実物を見た方が早い』となる。後半は『100回見るより、実物を触った方が早い』と言う意味になる。
今回、ムクロが悩んでいる奴隷制度について当てはめると、『分からないならその目で見てみろ、それよりも奴隷を持った方が早い』という暴論が出来上がる。え? 詳しいツッコミは無しで!
『恐らくムクロは、"文明の進歩"を気にしていると思うが、この魔法世界においては不要な心配である』
「どういうことだ?」
『魔法世界の文明とは、"魔法の進歩"と切っても切れないからだ!』
「起爆剤が無いってことか……」
『ふむ。そういうことだ。ところで……』
「ん??」
『ー…起爆剤とは何だ?』
「……………」<ガクッ
ウェルデの言葉に大きく肩を落とすムクロは、彼女が何処か抜けている性格だったと思い出すのであった。もっとも、その言葉はカウンターとなって、ムクロを撃ち抜くだが。
どの様に説明するか考える事なく、ムクロは口に出した。
「変な言い方だが、世を引っ掻き回す"世紀の天才"ってヤツだ!!」
右手をグッと握って力説するムクロだが、その手がホネだけなのでちょっと力ずく感が足りない。
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