第8話 "命名(ネームド)"と、従ま……いや、配下??


 ぐ~ぎゅるるるっと背後から聞こえた、轟くような音が周囲に鳴り響いた。その音を聞いたウェルデは、「目覚めたようだな」と呟いた。

 そして、音の発生源をムクロは見た。


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 寝転んでいたはずの仔犬? ポチ子の、大きく膨らんでいたお腹はペタンとしていた。


「(まさか、あの状態から……完全消費までが『お腹の大鳴り』とか言わないよな?)」


 スマートに変型したポチ子を見て、ムクロは心の中でそう思った。理解出来なくても無理ではない状況である。

 餓鬼を思わせるくらい大きかったお腹は、真っ平の平原になっていたのだから。小高い丘を、整地して切り開いた後のようだ。


「どうやらポチ子は、ムクロの行った"命名ネームドの儀式"で消費した、エネルギー、各種栄養素の補給が完了したようだな」


 ウェルデは自分だけが、「理解しています」と言うように話す。目の前の状況に対して1番説明が必要なのは、ポチ子の主となるムクロであろう。

 ウェルデが詳しく説明していない理由は、ムクロの記憶を読み取ったからでしかない。リバーサイデリアと小説で書かれている"命名ネームド"は、厳密な違いはという事実が、彼女の頭から説明の必要性が抜け落ちていた。


「ウェルデ。悪いけど、詳しい説明をプリーズ」

「何を言っておるのかは分からんが、お主が理解していないことは分かった」


 ふむ。おかしいの……と言わんばかりに、顎の下を指先で軽く掻く。L字で挟み込まれた胸が"ぷよん♪"と、その存在を誇張していた。だが、ムクロは気付いていない。


「それでは、簡単に説明しよう。

 まず、"命名"……ネームドについてだ。この世界では、人族と亜人族以外は『名前』を持たぬ。理由としては、必要ないからだ。

 変な言い方になるが、ユニークモンスター以外は"死"という概念がない。言葉を持たず、理解出来ないから……というやつだ」

「何かの自己啓発書で読んだな。『言葉がないから、動物は"死"なない』って文を」

「正しく、その通りだ。知らないこと0(ゼロ)知らない0(ゼロ)と言うわけだ。

 そこに変化を与えるのが"命名ネームド"と言うわけだ。名を得ることにより、明確な個性を確立する。実際のところポチ子は、言葉を理解する」

「……見る限りだと、ってことだよな?」


 妖艶としか言えない微笑みを浮かべ、軽く頷くウェルデに瞬間的に見惚れてしまうムクロであった。

 そんな状態のムクロに気付くことなく、話始めるウェルデ。


「我らがしている話の半分くらいは、理解しているハズだ。それくらいネームドになると、恩恵が大きいということだ」

「なるほどな」


 返事を返しながらポチ子の様子を見ていると、とてもではないが理解しているようには思えない。

 ポチ子は両足をハの字開きで、ペタりと座り込んでいる。口を小さく開けて、小さな舌を出して「ハッハッハッ」と気楽に2人を見ている。話を聞いているようには見えない。


「2つ目が戦闘能力、ステータスの上昇だ。基礎値の倍加というだけで、弱いモンスターでは恩恵が低く感じるが、昇格・進化を考えるとバカに出来ない」

「そうなのか。ポチ子のステータスは……」


 ウェルデの説明を聞いている内に、ポチ子のステータスが気になったムクロは、ステータスを開こうと思ったが「分からない」事実に事実に気付いた。


「ポチ子のステータスなら、お主のステータスに"従魔"の項目が追加されている」

「サンキュー♪」


 ウェルデの言葉を聞いたムクロは早速、ポチ子のステータスを調べることにした。


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ムクロ


 スケルトン族(異世界人)


 男?


 享年32


 職業:ホネをはじめました:格4


 MP φψπσЕБυАВξПДГХФХ


 ちから 5 (+2)


 みのまもり 5 (+2)


 すばやさ 7 (+2)


 かしこさ 7 (+2)


 ボーナスポイントBP 1


 【固有能力ユニークスキル


 Re:ボーン


 【能力スキル


 魔力強化 LV1


 魔力武装 LV1


 配下契約 LV1


 スキルポイントSP 3


 

 配下 ポチ子


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 ウェルデは従魔と言っていたのだが、スキルには『配下契約』という文字が加わっていた。そして、ポチ子は"配下"となっていた。

 ステータスなど疑問で混乱する心を落ち着かせ、ポチ子の名前の部分に指を当ててみる。透けて見えるのだが、タッチスクリーンの様に触ることが出来た。

 謎の技術だろうか?


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 ポチ子


 コボルト族


 メス


 0才(生後1ヶ月)


 職業:2本立ちを始めました:格1


 MP 10


 ちから 4(+2)


 みのまもり 4(+2)


 すばやさ 4(+2)


 かしこさ 4(+2)


 ボーナスポイントBP 0


 【固有能力ユニークスキル


 特殊個体


 【能力スキル


 じゃれる LV1


 幸運  LV1


 スキルポイントSP 0


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 という風になっていた。その事をウェルデに話すと、「詳しく話せんが、お主の役目が関わっておる」と何やら含みのある言葉を言われたムクロであった。


 疑問に感じる部分や、不可解なところが気にはなるが、深く考えることが出来ないムクロは、にした。

 最初に確認したときは、念じることによってBPの使用をイメージした。モノは試しと、スキル〈Re:ボーン〉をするイメージをしてみた。


【スキル〈Re:ボーン〉


 自身のホネの密度を上げたり、下げたり出来る。

 また、ホネだけの状態の場合に限ってだが、他生物のホネを吸収し、己の力に変換できる。


 他にもはあるので、自分の手で探そう!!】


 説明文と言っていいのか分からないPOPが出てきた。隠し要素がどんなものか気になるが、右手をのような形状にしたこと自体が要素の1つではないかとムクロは考えた。


「なあ、ウェルデ。オレの固有能力ユニークスキルの〈Re:ボーン〉なんだが、チート臭く感じるのだが……」

「ふむ。我には"ちーと"がどんなものか分からぬが、違う気がするぞ?」


 ムクロの言葉は、即座に否定された。


「我の推測だがそのスキルは、が持っている『種族固有のスキル』ではないだろうか?

 ムクロは自我を持つユニークモンスター。本来のスケルトンでは十全に使いこなせぬ、奥の深いモノとは考えられぬか?」


 ウェルデの言葉に、暫し考えるムクロ。そう考える方が、色々と説明が付きそうなことに気付いたのだ。


「じゃあ、オレの持つ〈Re:ボーン〉は、スケルトンが動く上でなスキルってことか?」

「あくまでも……だがな」

「ま、どっちでもいいか。

 使いこなせない限り、意味がないからな!」


 自身のユニークスキルがどういったものでも、彼の考え方は変わらない。『難しいことは、考えない!!』と言うことである。


「試してみるか」


 ムクロが向かった先は、元ビックモンキーの亡骸だ。スキルの説明にあったように"吸収"出来るかの確認である。

 右手をビックモンキーのホネに当てて、スキルを発動させる。


「〈Re:ボーン〉」


 一瞬の光が周囲を包み込み、光が消える頃には残されているのは、皮と5cmくらいの大きさの水晶であった。

 ステータスを確認すると数値の変更があった。


【ちから 5 ➡ 6】


 取り込んだホネの持つ強さは、ステータスの強化として現れるようだ。


「ウェルデ、この水晶は何だ?」


 指で挟んだ状態で、ウェルデに見せる。


「それが"コア"だ。人族たちは『魔石』と呼んで、色々なモノに利用しておる。分かりやすいところだと『ランプ』だな」

「ふ~ん。電池的な役割を果たすのか」

「モンスターから見れば、"魔力の塊"だがな。それを砕き、自身の体内に取り込むことで、モンスターとしての格が成長しやすくなる」


 コアを見つめたムクロは、「経験値の塊か……」と呟いた。モノは試しと、コアを握り潰してみた。


【経験値の獲得を確認しました。規定値に達しましたので、"格"が上昇します】


 警戒せず、行動をしてしまうムクロが悪い!! 「アババババ……!!」と叫ぶこと数秒、痛みは消えて無くなった。


「あっぶねぇ!! まさか、格が上がるって思わなかった!!」

「お主、この2日でよく格を上げたものよな……」


 ウェルデの瞳は、異質なものを見たと語っているように思えた。いくら最下級の職業と階級でも、ポンポンと上がったりはしない。

 2人が気付いていない部分に『異世界人補正』とでも言うモノがあるのかもしれない。


「きゅ~ん、きゅ~ん」


 そんな2人の仲を切り裂くかのように、鳴き声を上げる存在がいた!

 それは、ポチ子である!!


「ポチ子、どうしたんだ?」


 足元に座っていた、ポチ子の体を両手で持ち上げムクロは、顔を近寄せた。しかし、ポチ子の顔は下を向いたまま動かない。


「もしかすると……お腹が空いたのではないか?」

「え!? いくらなんでも……」


 ウェルデに言われたことを、否定出来ないムクロであった。250cmはありそうなビックモンキーが、ホネと皮だけの状態になっていたのだから。

 あれがこの……60cmにも満たない体の何処に入ったのか、気になってしまう。体重差としては20倍以上あっても不思議ではないのだ。


「……ん?」


 最初に周辺の気配が変わったのに気付いたのは、ウェルデであった。次はポチ子、ポチ子の腹の虫、最後がムクロという順であった。

 元気よく聞こえた「ぐ~ぎゅるるる」とい

うお腹の鳴き声? で、ポチ子の言わんとすることを理解したムクロは、ソッと地面に下ろすのであった。


「(よく喰らうの……ポチ子よ!!)」


 たぶん、ウェルデを1番驚かせたのは、ポチ子だろう。食欲魔犬ポチ子、主人にご飯を求める!!


 ムクロの前に現れたのはビックモンキーであったが、体格は230くらいとやや小さく、胸が張っていた。あれは乳房だろう。


「(え~っと、もしかしなくても、ビックモンキーのつがい? )」


 気分の落ち込むムクロとは正反対に、「きゃうん、きゃうん♪」っと喜びの声を上げているのは、ポチ子である。

 その瞳が、食欲に染まっていたのは言うまでもないだろう。


 ステータスが倍近くまで伸びていたムクロに、ビックモンキーのメスは満足に戦うことも出来ず倒されるのであった。

 残骸は、"皮が2枚のみ"という寂しさであった。ウェルデはその皮から、2着の服を作りだす。その服を着たムクロが、「オレ、原始人じゃねーんだけど!?」と言ったとか、言わなかったとか……。

 ちなみに格は、コアを吸収しても上がらなかった。


 そして、夜を泉の畔で明かしたムクロに、彼女はこう言った。


「そろそろ、世界を見てくるがよい!

 教えることは、全て教えた。あとは、自分で学べ!」


 そう言われたムクロは「行ってくるわ! でも、何処でも話せるんだよな??」と、とても軽い口調で別れを言うのであった。

 1つ気になるのはムクロに対して、金銭知識や一般常識をウェルデが教えていなかった事である。

 これが彼の進む道に、どんな悲げkー…喜劇を巻き起こす事になるのであろうか?

 ウェルデが教えなかったことが、仕組まれたことなのか、単に忘れていたのかは、彼女にしか分からない。

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