第6話 水の大精霊は、意外に抜けていてる
ムクロの脳裏に、無情にも響いた世界の言葉。身体中の内側から、キリキリっと締め上げるように苦しめる。
その状態でムクロの頭は地面を転がり回り、体はのたうち回っている。
「あだだだだだだだだ!!!!」
その様子を傍観していたウェルデは、『不思議である。本来はこれほど、痛みが襲ってくることは無いはずだが……』と首を捻っている。
現状を引き起こした原因があるとするなら、それはウェルデであろう。何故かと言うと、ビックモンキーとは種族的にも、職業的にもムクロより数段上である。
ムクロの職業に『ホネを始めました』とあったのを記憶しているだろうか?
これは基本職である"スケルトン"の中でも最下級のクラスに当たる。順序的には『ホネを始めました➡ホネに成ってきました➡ほぼホネになりました➡スカル始めました➡スケルトンベイビー』と昇格する。
ちなみに普通のモンスターの格が上がるのは、基本職の最下級だと1~2ヶ月で1つ上がれば良い方である。ムクロに至っては、今日1日で格を"3つ"上げている。
従来のモンスターではあり得ない出来事である。そうであるが故に、
これは人族・モンスター双方に言えるが、獲得できる経験値が非常に多いことが上げられる。リバーサイデリア生まれの人族・モンスターが格(LV1)の時に入手する経験値を100とすると、異世界人・ユニークモンスターは同レベルで1000という感じで10倍近い差が生まれている。
この事実は過去から続く経験と、その魂に刻み込まれている。人もモンスターも直感的に分かってしまうのだ!
「ふむ。もしかすると、ビックモンキーの格が高すぎたのかもしれん……」
厳かに言うがこの水の大精霊、意外と抜けているところがあると思う。清々しい表情であるが故、故意なのか、偶々なのかが分かりにくい。
もっとも、忘れていただけというのが真実だと思う。
「「ふむ。」じゃぁない!!
メチャクチャ痛いんだぞ!!」
遂にはキレるムクロ。相当痛かったらしい。
「体中から"ビキィ! バキィ!"って音が流れてくるんだぞ!?」
「なるほど。我ら大精霊は成長せぬが故、大変貴重な体験談であるぞ」
「体験談って、体験しているのはオレだけだぞ!!」
「そうだな。我は見ているだけであった……」
今回の原因が何処にあるのか、全く理解していないウェルデであった。怒っていたムクロにしても、取り合えず怒鳴ったことで腹の虫(存在するのだろうか?)が治まっているので、案外この2人は似たところがあるのだろう。
そして、色々と言い合うこと数十分。
「そういえば、ステータスにある"
「BPとな? 我は聞いたことがないな。恐らくだが、それが優れたる者の特異点ではないのか?
我が知識として知っておるのは、人族は『10刻みでステータスが"1つづつ"増える』こと、モンスターが『昇級、または進化した場合、1つランクが上がる毎に"1つづつ"増える』ことだな」
「なるほどな……。オレのステータスは3ポイント増えたってことだよな?」
誰に言うでもなく、ボソリと呟くムクロ。泉を覗き込み、自身のステータスを確認する。
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ムクロ
スケルトン族(異世界人)
男?
享年32
職業:ホネをはじめました:格4
MP φψπσЕБυАВξПДГХФХ
ちから 3 (+1)
みのまもり 3 (+1)
すばやさ 3
かしこさ 5
【
Re:ボーン
【
魔力強化 LV1
魔力武装 LV1
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ステータスに()表記が付いていたので1度消して、再表示してみたら()は消えていた。これは格が上がって初めて表示したときのみ現れる、補助的なモノなのであろう。
ムクロ自身は「便利だね~」といった感想しか抱いていない。ホネになったから難しいことを考えなくなったのではなく、生前よりそんな感じだったのだろう。
ウェルデとの会話で導きだされた、BPという名の『特異点』はどの様にステータスに作用するのか、気になってきたムクロは試してみることにした。
「(試しに"すばやさ"に1ポイントを振ってみよう!)」
レッツ・ゴー!! 暴走カーのように止まらず、突き進め!
【すばやさ 3 ➡ 4】
【BP 3 ➡ 2】
ムクロが『BPを使用し、すばやさを1つ上げる』と意識したとき、BPが1ポイント減少した。
このことからBPを消費することで、上げられるということが判明した。いくら能天気なムクロでもこれは予想していたので、特に驚いたりはしていなかった。
むしろ、BPの入手量が格が上がる毎に1なのか、格が10上がる毎に1づつ増えるのかの方が気になった。それもそうだろう。基本職の最下級と第2階級だけで見ても、【10BP】もの差が出るのだから。
取り合えず、上昇した違いを確認することにした。
「お! 動きやすい!!」
変な例え方になるが、赤ちゃんの這うようなハイハイと、四つん這いのタタタというハイハイくらい違う。もう少し分かりやすい例えなら、ダラダラ歩くのと、シャキンとして歩くとの違いだ。
要するに"少し早くなった"という感じだ。もう1ポイントを"すばやさ"に振ると、より速くなった。
ムクロはこの違いから、『1ポイントの差の大きさ』を漠然とではあるが、感じ取ることが出来た。残り1BPは、何かあった時の為に残すことにした。
「我には違いが分からぬが、ムクロの表情を見る限り、大きく変わったようだな?」
今までムクロの様子を見守っていたウェルデは、確認が落ち着いたのを感じ取り話しかけた。
「そうだな。結構、感覚的には違うかな? けど、元が低いから……」
返事をしながら頬をを掻く。耳を澄ませると、カリカリと音が聞こえてくるだろう。
「それは仕方あるまい……。ムクロは生まれたばかりと言える」
「生まれたばかり……か。正確に言うなら『スケルトンになった』と言うべきなのかな?」
「モンスターになってしまったこと、後悔しておるのか?」
心配そうにムクロを見上げるウェルデ。そんな彼女に、真剣な気持ちで答える。
「悲観がない──とは言えないかな。けど、悲しんだりしても、現実は変わらないから」
「それもそうだが──」
「それにさ、オレって死んでるよな?」
「うむ。これ以上なく死んでおる。ホネしか残っておらぬな」
ムクロにとって『死』というのは、記憶している"人としての最後"であり、今の"ムクロとしての始まり"でもある。
この男の脳内では『これ以上、死なないだけラッキー♪』という感じだ。こんな感想を抱くのは、異世界で彼しかいないだろう。
ムクロには『死という概念の無い体』を手に入れた時点で、ある目的が生まれていた。
「ウェルデ。この
「うむ。広いぞ。それこそ、ムクロの記憶にある地球の10倍くらいは!!」
地球の常識からしたら、規格外の広さである。ただ、ムクロにとって世界の広さは『冒険する範囲』であり、不自由ではなかったりする。
移動に時間がかかるであろう異世界。寿命のある、老いる肉体では、寿命の長いであろうエルフでも、世界の2割を回れたら良い方かもしれない。
疲れたり、ケガをして動けなくなったりする生身では、世界を堪能出来ない!! そんな状態になるなら、朽ちる肉の無いスケルトンであることは好都合であろう!!
そんな考えで動き始めているこの男は、人としてはもう外れているが、モンスターとしての規格から外れ初めている。
「オレのようなスケルトン系モンスターって、体の維持はどの様にしているんだ?」
「良いところに気付いた。基本的にモンスターとは【魔力溜まり】と言われる、魔力の溜まりやすい又は、湧き出す場所で生まれやすい。自然発生型のモンスターは、周囲の魔力を吸収して体を維持する。
もう1つは、ムクロの
ムクロに関しては前者と言えるが、過去の記憶や習慣から『食』に対する執着が現れる可能性は高い。それでも"必要不可欠"というわけではなく、嗜好品の類いとしてになる。
体の維持には"周囲の魔力"だけで問題ないので、好んで食べるかは本人次第である。
「まあ、必要・不必要関係なく、美味しいものをたくさん食べたいよね!」
「お主、色々と軽いな」
水の大精霊がそう言ってしまうくらい、ムクロは暢気であった。グダグダ、ウジウジしているよりは万倍いいが……。
ムクロの言葉にウェルデが呆れているとき、『きゅ~ん』と鳴き声が聞こえてきた。それを聞いた2人は、周囲を探し回った。
「水際には居らぬ……」
そんな所を探しても、見つかるハズないって! 水の大精霊さん!!
「ピュー、ピュー♪
出てこ~い。ホネは此処にいるぞ!」
貴方は、確かにホネでしょうね! ムクロさん!!
この2人がボケると、回収する人がいない!!
探すこと十数分。見付かった場所は、ムクロの肋骨で出来た檻の中でした。
「ふむ。犯人は、犬の魔獣だな!!」
ビシィ!! っと綺麗な指をムクロの胸元に指すのだが、見つけた状態での言っても威厳半減である。
「な、ななんと!!??」
ムクロはそんなウェルデの行動に付き合うのであった。
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