一章 まだ肌寒い空の下 4
「ん?あぁ、お前の髪は……忘れた。余り興味もないしな」
「流石にそれは酷くない!?そろそろ知り合ってから一年経とうとしてるのに、俺って髪型すらも覚えてもらってなかったの!?」
「大丈夫だぞ青木。お前の髪型が変わっても、俺は今まで通り親友だからな」
「そう思うんだったら俺の目を見て、前までの髪型を教えてくれよ!」
「あーもうウザイ!青木、お前の以前の髪型はあれだ、モヒカンだ。それも凄まじくハードなモヒカンで、幾度となく教員に注意されてきたが、信念を貫きたいとかなんとか言って変えてこなかった名誉あるモヒカンだ。良かったな」
「全然良くないよ!前までの俺に一体何があったんだよ!ロック過ぎるだろ!」
いい加減に青木が哀れに思えてきた。
「ま、まあ冗談はそこまでにしておいて、俺が知ってる青木は茶色に染めてて、それと天然パーマを処理しないでそのままにしていたな。まあだからこそ、その豹変ぶりにびっくりしたんだが」
「……マジで?いや、太一がそんな冗談を言うとは思えないし……マジか……」
「しっかしはじめは違和感あったけど、よく見ると今の方が似合ってるかも?元々顔はそんなに悪くないのに、性格と髪がチャラ男感出してたから、それがちょっと落ち着いたかもしれないね。ねえ、唯はどう思う?」
「え?私!?私は……まあ、今の方が、かっこいい、と思う、けど」
「よっしゃあ!唯にかっこいいって言われた!」
青木は椅子から立ち上がり、天井に向けて拳を突き上げた。
「か、勘違いしないでよ!前よりはって言ったでしょ!」
「おぉ!これが所謂ツンデレってやつですか!ツンデレの唯も可愛いな~」
「ねえ伊織~~青木が気持ち悪い~~」
桐山が永瀬に助けを求めて、永瀬はそれを慰める。
何時もどおりの平和な日常だった。ふと稲葉の方へと顔を向けると、微笑みながらその光景を見ているのが目に入った。
「最初はどうなるかと思ったけど、割と全員いつも通りって感じで一安心だな」
「え?あ、ああ。そうだな。本当に良かった」
太一と話しながらも、稲葉は愛おしそうにその光景を見続けていた。だが、何かを思い出したかのように背筋をピンと正す。
その顔には何か決意のようなものが宿っているように見えた。
「青木も唯もイチャつくのはそこまでに留めておけよ。そろそろ、この現象に対する仮説を真剣に立てていかないとな」
「イチャついてない!」
「えー、まずは先の議題だが、この現象の内容は記憶の改変であるという予想。これに異議や意見はあるか?」
顔を真っ赤にしながら叫んだ桐山の意見を、稲葉は華麗に無視する。
「あくまでまだ、幾つか可能性がある中の一つの予想って事でいいんだよね?」
そう稲葉に尋ねる永瀬の声は、拭いきれない不安を内包していた。
「もちろんそうだ。というより、今の内から一つの予想を信じて行動してたら、もしその予想が間違っていた時に反応が遅れる。もしかしたらそうかもしれないくらいで、頭の片隅にでも留めておいてくれ」
「そういう事なら……私は異議は無いかな」
少し永瀬の顔に柔らかさが戻ったのを確認して、太一は胸をなで下ろした。それと同時に、どうしようもない違和感を感じる。
自分の横に座っている稲葉姫子が、自分の彼女でありこの文研部をいつも引張ってくれる稲葉姫子が、どこか自信なさげな顔をしているように見えた。
「じゃあ次の予想を立てて――」
稲葉が次の議題に移ろうとした所で予鈴が鳴った。
「――っと、もうこんな時間か。取り敢えず続きは放課後に持ち越しだな。青木、お前は私と違って外見の変化だから今から隠すのが難しい。予め言い訳を考えておけよ」
稲葉は席から立ち、自分のバックを肩にかける。太一達もその後に続いた。
「念の為確認しておくが、それぞれの記憶が変わろうが変わらなかろうがやる事は変わらん。各々今まで通りすごす。ただそれだけだ」
「了解!」
「うん!」
「オッケイ!」
「おう」
青木、唯、永瀬、太一は一斉に頷いた。
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