2 fish


 食事中、視線を感じて箸を止めると、がこちらを見つめていた。


「……?」


 何か言いたいのだろうか。


 料理の味、かな。


 美味しいと言えば美味しい。でも、目の前に置かれた魚の煮付けは赤身なのか白身なのか判然とせず、食感にもやや疑問の残る出来だった。


 そもそも夕飯を作るのはぼくの仕事なのだが、るうが「今日はあたしが作ります」と言い出したので任せたのだ。彼女が何を考えているのか読めないのは、先日、鏡の前で奇妙な身振りをしていたことからも明らかだ、けど。


「美味しいよ」


 作ってもらって文句を言う訳にはいくまい。


 るうは無表情で呟く。


「良かった、珍しい魚だったので。……店の隅に置かれてたんですけど、何だか男性みたいな顔をしてて。捌こうとしたら大声で断末魔を、」


「待って」


 嫌な予感がしたので、視線を下げてみる。


 煮付けと目が合った。


「……どうも」


『どうも』


 喋った。


『美味しいでしょう? 私』


 訊かれた。

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