5 -round


 自宅近くに、小さな空き家が建っています。


 木造平屋建ての典型的な日本家屋ですが、敷地を囲う石塀は崩れており、道路からでも内部が覗けるくらいに荒れ果てています。しかし黄昏時――この家の近くを通り掛かると、おばあさんが一人縁側に座っているのが目に入るのです。


「こんばんは」


 いつものように軽く会釈をして通り過ぎると、おばあさんは小さく笑いました。


 そのまま道の先へ。


 ぐるりと回り、空き家の前まで帰ってきます。


 次は真っ直ぐ。


 ……またしても石塀が見えてきます。なぜか先に進むことができません。


 徐々に迫りくる宵闇。夕暮れ時の堂々巡りgo-round。……段々と胸が苦しくなってきました。それでも息を切らしながら繰り返していると、何度目かに差し掛かった縁側で笑顔のおばあさんに声を掛けられます。


『お嬢ちゃん』


「はい」


『いい加減、ランニングは余所でおやり』


「……はい」


 良いコースだったのですが。

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