6 rapping


 この部屋は、時折異音がする。


 ……そもそも事故物件を借りているのだ、ことだし、それくらいなら想定の範囲内なのだけど、それにしても少々常軌を逸している感はある。


『どん』と誰も住んでいないはずの隣室から壁を叩かれるのは茶飯事で、それに加えて近頃は、『ぱん』と何かが弾ける音すら響くのだ。最早家鳴りというレベルは超えていた――逐一気にしてはいられないが、それでも偶に投げやりな気分にはなる。


 どん。


 ぱん。


 どん。


 どん。


 ぱん。


「……ぼくたちの家事故物件、家賃は一月三万円」


 ――思わずリズムに乗ってしまったその時、るうが背後を音もなく通り過ぎた。


 ぼくがぎくりと固まったのも束の間、彼女は視線も合わせずテレビの前へ座りしなに一言、


「三十点です、芦原さん」


 聞かなかったことにしてよ。


『ぱん』


 合いの手も入れるな。

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√(るうと) 瀬海(せうみ) @Eugene

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