4.Personal Researcher Dolly Rivera ドリー・リベラ

 ◇◇ 2.Institute Australia オーストラリア研究所


「マスター、最重要コンタクトです」

 所長はこんな時にと、怪訝そうに「分かった繋いでくれ」ユリカは話始めた。

「初めまして私はユリカ。あなた達の時間世界からすれば、未来という時間世界から来ました」それは音声だけの通信だった。

「まずは、ドリーちゃんは私が今、安全な場所に移動しています、安心してください。それと貴方達の研究に敬意をひょうします。この研究があったから私は今、時をリープすることが出来るのだから。そしてドリーちゃんを助けることが出る! 全ては繋がっています」

「ユリカ………?」

「私は、日本で生まれ設計され誕生した『ゲノムのない人類』この研究のテーマに沿って誕生しました。そしてドリーちゃん、いえ、ドリーはパーソナルリサーチャーとして、私を誕生させる為研究を行ってくれた人です」

 二人はユリカの話を聞き、自分の娘が将来立派な研究員として成長していることを知った。そして自分たちの研究が無駄ではなく、娘の命を繋いでいることに感慨した。

「臨界点まであと六十秒」

『**One step away from the critical point sixty seconds.』

「ユリカさん、ドリーを娘を頼みます」マリーは必死の思いで願った。

「ハイ、確かにマリー・リベラ」

「ありがとう、未来の女神よ」

「自爆制御が作動しました。カウントスタート、30、29,28,27………」

『**Blast control was activated. Count start, 30,29,28,27 ………』

「バスク・リベラ、マリー・リベラ。人類を救う先駆けとなる貴方達を、私は尊敬します。ありがとう、そして………さようなら………」

「警告、最終爆破オペレーティングスタート。カウント20,19,18………」

『**Warning, the final blast operating start. Count 20,19,18 ………』

 オペレーションルームからおよそ3キロメートル離れた所にあるグラビティユニットはその姿を外気にさらしていた。すでに周辺の外壁は蒸発している。

 凄まじいエネルギーが豊光な光を出しながら、ユニットの周囲を覆い包んでいる。そしてユニットの内部では既に時空崩壊が始まっていた。グラビティユニットは、そのエネルギーの束を操るように時空を歪めていく。

 グラビティユニットが崩壊するまであと残りわずか。ユリカはクロノスに命じた。

「クロノス、三十二ブロックシェルターをオープン」すると前方のロードの一部が口を開いた。

「あそこだ」ユリカは速度を上げバイクごとシェルターの中に突っ込んだ。

 気を失っているドリーに「ここなら大丈夫よ、ドリー」シャエルターの扉は固く閉ざされた。

 バスクは最後に、娘ドリーを助けてくれた人の事をクロノスに問た。

「クロノス教えてくれ、ユリカの事を………」

 クロノスは答える。

「ユリカ、イーリスが管理する日本の研究所で行われている、ゼプト・オペレーションによるゲノムのない人類を作り上げるテーマによって、研究が始まりました。コード・プロトタイプ一号ユリカ」

「そうか、やっぱり彼女は未来から……… ドリーは大丈夫だよマリー」

「うん、ドリーはきっと優秀な科学者になるわ。だって私たちの子なんだもの」

 二人はそっと寄り添い

「マリー」「バスク」ありがとう。

「爆破作動」

『**Blast………』

 上空に黒く丸い輪の中に青白い一本の矢が突き刺した。すると黒い輪の下に白くきらきらと光る輪が出来た。その白い輪はゆっくりと降下して、徐々にその輪を小さくし、青白い一本の矢と同化した。

 同化した青白い矢は上空にある黒い輪をめがけ昇っていく。その矢と黒い輪が同化すると、まばゆい光を放ち黒い輪と青白い矢は消えうせた。

 その後には、輪のあったところがオレンジ色の光を放ち、地表を照らしていた。

 バスクは、グラビティユニットが暴走を開始した時、クロノスにユニットの爆破を命じていた。もう後には戻れないことを彼自身が一番よく知っていたから………。

 凄まじい爆風が吹き上げられた。あらゆるものが吹き飛んだ、グラビティユニットの半径二十キロメートルは何もない荒野となった。そうこの施設の三分の一が吹き飛んでしまった。

 その後、グラビティユニットによって引き起こされた電磁嵐は三日間続いた。


 大気圧正常、大気成分………正常値を示しています。人体における生存構成オールグリーン。ハッチロック解除。

 パネルが全てグリーンに変わる。クロノスがスピーカーから語りかける。

「このシェルターに生存する人に問います。意識があり身体に異常がない人は応答してください」

 ユリカはそのメッセージを確認して応答した。

「私はユリカ、IDS203216PL01。生存を申告します」

「IDユリカを承認しました。もし、貴方の他に生存者がいる場合、その生存者の状況をを申請してください」

「このシェルターには私の他、ドリー・リベラがいます。彼女は今、スリープボートに搭乗しています」

 スリープボート、各シェルターに装備されている緊急避難カプセル。大事故が発生し長い間地上での生存が、出来なくなった時を想定して造られたカプセル。その強度はたとえ地球が崩壊しても、その中にいる人類は生存が出来るほどの強度を持つている。そして、そのカプセルの搭乗者の時の流れは止まる。

 いわば、未来へのタイムカプセルとも言える。

「ドリー・リベラを確認。バイタル、身体への異常はありません。スリープボート機能停止」

 体を包み込むようなスリムな楕円のカプセル、ガラスの様に透明感のある外壁はなく一見すると鉄の塊の様にも見えた。少しすると、そのカプセルはボンヤリとした光を放ち、カプセルの外壁が消え失せた。

 そこにはふんわりと柔らかいマットに沈み込むドリーの姿があった。

 ユリカはドリーが横たわるカプセルに向かい、ドリーの顔をゆっくりと覗き込んだ。

「よかった、大丈夫」そして頬をさすりながら

「ドリー、あなたがこれから生きていく事は、この世界にとってとても重要なことなのよ。あなたは、これから日本で暮らし、日本の研究所で私をこの世界に送り出す研究をするの。それがこの世界を救うことになるから………」

 そして、彼女の手に紙に書いたメッセージを持たせた。あえてユリカという名を出さずに……… そこには

「私はこの事故が起きることを知っていました。でも、それを止めることは出来なかった。この施設も、多くの人も、そしてドリーあなたのご両親も私は守る事が出来なかった。あなたのご両親はとても立派な方でした。そしてドリーあなたを本当に愛していたことを忘れないでください。この事故はあなたのご両親、そしてドリーあなたにも何も罪はありません。それだけは忘れないで。また、会う日まで」

 ユリカは意を決したようにシェルターのハッチを開け、荒れ果てた大地を目にした。そこにあった全ての物が消滅し、事故が起きる前のあの平和な光景が嘘の様に見えた。

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