3.Personal Researcher Dolly Rivera ドリー・リベラ

 ◇◇ 1.Institute Australia オーストラリア研究所


 オーストラリア政府は、クロノスのある研究所に当時莫大な資金を投入させていた。この研究所は当初政府とは関係のない第三機関として運営をしていた。だが、政府はこの研究所に政府の情報機関を使いその研究を探らせた。

 政府はその情報をもとに国の防衛力を強固なものへ移行すべく、クロノスの技術力を使い最新の兵器を設計し作製するように命じた。その見返りに政府は、国家予算にも及ぶ予算をこの研究所に投影させた。だが、当時この研究所の所長であったドリーの父親は、その命令を頑固なまでに拒否をし続けた。政府はその意思を受け入れず一方的に資金を投入し続けた。

 そして、依然進展のないことを政府は遺憾に感じ、所長へ最終勧告を通達した。

 めいを受けいらずば、娘のドリーを、政府の命により拘束すると。

 所長は政府の命令を受け入れなければならなかった。娘の命を守るために……

 しかし、政府はドリーを常に監視対象として、監視をさせた。所長が裏切った時の代償として…… 即座にドリーの命を亡き者に出来るように。

 事故の一か月前、ユリカはこの時間世界にリープをしていた。そしてドリーにその姿を現さずに見守っていた。町の中で、学校で、ドリーの身に危険が及ばない様に。

 事故当日、研究所では政府より命令されている兵器のテストが行われていた。オーストラリア政府のオブザーバーと共に。

「なんだこの結果は、こんな威力じゃ使い物にならない。そもそも、設定が低すぎる。もっと出力をあげろ」

「し、しかしこれ以上は危険です。出力をあげれば磁場の極軸が制御出来なくなります」

 所長は科学者の立場として反論した。

「そんな事はどうでもいい、俺は結果がほしいんだ。俺が政府の密約を受けているオブザーバーだと言う事は解っているんだろうな」

 仕方がなかった…… そうしなければ娘のドリーの命が危険にさらされる事を解っていたのだから。

「所長は、オブザーバーの言われるままに出力を上げた」

 重力磁場は形成され物質の反転現象が始まる。元ある物質が次々とマイナスの値を示すデータとなり出力される。

「これ以上は危険です。即刻中止を‼」

 そのデーターを見て所長は一刻の猶予もないことを告げる。

「まだだ、も、もっと出力をあげろ」

「し、しかし……」

 オブザーバーは動こうとしない所長を跳ね除け、自ら出力レバーを上げた。

 広大な広さのある研究所内にゴゴゴと地響きをさせながらその音は広がった。

 次の瞬間、膨大な数の計器パネルが一斉にグリーンから赤に変わる。

「警告、グラビティユニットの制御が出来なくなりました。速やかにこのエリアより脱出してください」

『**Warning , no longer able to control the gravity unit . Please promptly escape from this area.』

 警告を告げるアナウンスが幾度となく流れる。

 すぐさま、全てのエネルギーをカットし緊急停止を試みた。だが、グラビティユニットの重力磁場はすでに負の領域へ踏み入れていた。

 グラビティユニット(重力装置)が得たエネルギーは、極限にまで圧縮され疑似的に重力磁場を形成させる。その工程を限界まで繰り返し、無数の重力磁場を掛け合わせることにより、超重量の重力磁場を発生させることが出来た。

 つまり、宇宙で言うブラックホールに似た状態になる。だが、コアとなる重質量物は存在しない。無限に磁場を超重量重力に変換させ、この空間での極限値を超えた時に起こる時空の歪み、その発生のポイントからが重力磁場の負の領域へと変わる。

 そしてその時空は崩壊に向かう。

「ど、どうしたんだ‼」オブザーバーが慌てふためき叫んだ。

「グラビティユニットが暴走する。全員、即刻このエリアから退避」

 所長が退避勧告を告げ、ここにいる研究員たちが、我先へと逃げ出す。

「さ、あなたも早く」

 オブザーバーをエスケープルートへと導いた。

「おお、解った」そう言ってエスケープルートへ向かおうとした時

「警告、重力磁場が崩壊を始めました。グラビティユニット臨界点まであと八分」

『**Warning, gravity magnetic field began to collapse. Gravity unit eight minutes remaining until the critical point.』 

 もう、グラビティユニットの暴走を止めるすべを失ったと告げるアナウンスが流れた。「万事休すか」そう言ってオブザーバーをエスケープルートへ押し込みハッチを閉めた。

 このオペレーションルームに残ったのは、所長とその妻マリーだけだった。

 部屋中が赤く照らされ、警告音が鳴り響く中、彼はマリーの肩に手をやり優しく、そして愛おしくマリーの顔を見つめながら

「ごめん、君も巻き込んでしまった」

「うんん、こうなることは初めから覚悟の上よ」にこやかに、そして彼女も愛おしく彼を見つめながら返した。

 回線がコールを告げる。

 モニターに映る姿、それはドリーからだった。

「パパ、如何したの? 凄いサイレン鳴ってるよ。何があったの?」

「ドリー、今どこにいる。危険だからここからすぐ逃げなさい」

「どこに居るのって、三十二ブロックに居るわよ。パパたちのいるオペレーションルームには行けないからキャビンルームで待ってる」

 三十二ブロックのキャビン。この建物の一区画だった。

「ドリー、ママたちは大丈夫だから、早くそこから逃げて、お願い、ドリー」

「どうして、私一人はいや、パパとママが一緒じゃなきゃいや」

「ドリー、お願い、言う事を聞いて」マリーは悲痛な声でドリーに告げる。

 マリーのその姿を見て、ドリーはもう二人と会えないような気がした。そしてとても不安になった。まだ幼いドリーにとって、両親と離れなければならないと言うことはなかったから。

「嫌だ、ドリーもそこに行く。パパとママの所に……」

「ドリ―‼」

「警告、グラビティユニット臨界点まであと三分」

『**Warning, the three minutes left until the gravity unit critical point.』

 残り時間が告げられる。

「ドリ――‼」二人は必死にドリーの名を呼んだ。

 ガシャン。大きなガラスが割れる音がした。モートルバイクのモーター音、そして豪快にタイヤを滑らせる音がする。

「ドリーこっちよ」

「きゃぁっ」その悲鳴と共にドリーの姿はモニターから消えた。

 ユリカはドリーを抱き抱えアクセルスロットを全開にした。ギュルルル、後輪が白い煙を発しながら空転する。「いけぇ」その声と共にバイクは急発進をし、屋外の広い道に出る、そしてその広いロードを全速力で突っ走った。

 いち早くドリーを安全な場所に、シェルターに入らなければ、彼女は爆風によってこの世からその存在が消えてしまう。そうなればユリカ自身の存在も無くなってしまう。

 例え時空間のつじつまを合わせたとして、ドリー意外の人間がユリカの研究にたずさわる事は、この時間軸の未来を閉ざすことになるだろう、それだけは防ぎたかった。この時間軸にたたずむ人類と、自分を…… 雫の為にも……

 ユリカはクロノスにコンタクトを求めた。最後を待つオペレーションルームへ

「クロノス、私はユリカ、私はあなたにアクセス権を求めます」

「Your ID (あなたのIDを)」クロノスが応える。

「S203216PL01。 Most important ID(最重要ID)」

「…… 貴方を承認します」

 クロノスはオペレーションルームへコンタクトを繋いだ。

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