2.異種生物体 Heterologous organism

 世界にある研究所の中、このアメリカにある施設は最も巨大な広さを持ち、全ての研究の総括をなす施設である。地上から十キロの地下に、全長二十キロメートルの長さを有し、およそ三千メーターの高さを持つ施設だ。

 人口二千五百人が居住している。そのうちアンドロイドは、その人口の六十パーセントを有していた。

 そしてここには、もうひとつの顔がある。それが地上にある軍事施設だ。この軍事施設は、アメリカ政府の干渉を受けない、民間の軍事施設として存在している。

 二千四五年、政府はアメリカ全土に装備している「核兵器」を全て放棄した。平和利用とされている核の利用についても全てを凍結し、この世界において先駆けた行動をとった。無論この世界の全ての国が共に平和になった訳ではない。

 この十二年前、某国の経済破綻により、世界の経済は人類が今まで経験をした事がない打撃を受けた。

 これにより、主要先進国の通貨は一時的に、まったくの価値を有さないものとなった。その後、世界銀行による通貨価値の修正が行われたが、この打撃は甚大な結果となった。世界の均衡は一触即発、いつ世界大戦が起きても不思議ではない状態になる。無論この研究も多くの打撃を受けることとなった。

 しかし、世界はこの危機を乗り越えた。

 この危機を回避したのが、あの創業者だ。実際には彼が、開発した『バイオマシン』が世界をつなぎあせた。

 バイオマシンはこの状況を示唆し、創業者の科学者にある提案をした。


「現在世界の均衡は著しく不安定な状況にあります。この状況が後「四千三百二十時間」継続された場合、この世界は核の冬となり、世界人口の 七十パーセントが失われます」

「それは核戦争が起こるということかね」

 科学者はバイオマシンに問いた。

「そのとおりです。この世界的な危機の根源は、エネルギーの共有問題です。現在この世界で使用されているエネルギーは「火力、六十パーセント」「原子力、三十パーセント」「その他自然エネルギー、十パーセント」となっています。現在、主たるエネルギーの火力、その原油の産出国が経済破綻となり、ほとんどの原油が世界的に流通しなくなったためです」

「エネルギーが問題であることは、私も承知している。だが、どうして核戦争が起こると仮定する。世界にある原子力発電所が暴走でもするとでも言うのかね」

「いいえ、事はもっと深刻です。現在原子力発電の比率が高いのは、ヨーロッパです。このヨーロッパに存在する原子力発電所を破壊しようとする動きが、某国で確認されました。この行為の成功率は最も低い確率で、九十パーセントを超えています。もしこの行為が行われれば、アメリカはその志望国に攻撃を行うでしょう。このことがきっかけとなり、世界各国の核弾頭が稼動することになり、その結果核の冬が始まることとなるのです」

 科学者はバイオマシンが放した内容に、現実的に起こりうる事態であることを自覚した。これはバイオマシンが想定し、はじき出した未来図なのだ。

「で、この事態を回避するには何を行えはいいんだ。そしてキミはその解決策を知っているのか?」

「はい、マスター。私はあなたの指示で、あの数式を解読いたしました。その理論を一部利用して、現世界でも利用が可能なエネルギー媒体の理論を確立しました。この理論を活用すれば、全世界のエネルギーが、火力や原子力などを使わずに供給することが可能になります」

 バイオマシンは続けて科学者に自分の考えを伝えた。

「私は、この理論をアメリカに提供いたします。現在この理論を現実的に実現化できる規模の施設と可動力があるのが、この国アメリカです。そして、アメリカ全土のエネルギーが供給されれば、自力で開発が出来ない諸国にもそのノウハウとエネルギーの供給が可能になります。それにより現世界の不安定な経済状況を改善出来るものと結論いたしました」

 実際に「バイオマシン」はこの危機を、難なく解決へと導いた。

 そのエネルギーシステムは、あの数式により、あかされた物理の法則の一部を利用したものだった。それは、この世界で言う粒子物理学の応用による、物体質量の負質量への変換。


 質量はその物体特有の重さであり、その大きさに比例するものである。この物質の形や大きさを変えることなく、質量だけを変換すれば、その物体の重さは変わる。つまり質量値を負の値に変換すれば、この地上において重さの概念は存在しなくなる。この質量の負の値を大きくすれば、その値において、地球上の重力の影響から離脱できるということだ。

 つまり負のエネルギーを持つ物質と正のエネルギーを持つ物質を相互間にて交差させることにより強力な重力磁場が発生させられる。この重力磁場は磁力とその磁力に働く電流そして力を生み出す。

 ようは簡単な事だった。今まで自分たちが何気なく行っていた行動こそがエネルギーの源であるのだとバイオサーバーは言う。

 ただし、負のエネルギーを持つ物質を作り出すには、今の我々人類には不可能な事である。バイオサーバーはそのノウハウを無償でアメリカへ提供しようというのだ。

「バイオマシン」はこのノウハウをペンタゴンの主体サーバーへ植えつけた。

 なぜ、ホワイトハウスのサーバーへ移植を行わなわかったのか、それは政治家には理解できないからだ。政治家には結果のみ伝えればいい。

 そして、それを利用するのが、政治家の仕事だ。

 ペンタゴンのサーバーはすぐに、そのデーターを技術者のサーバーに表示させた。それを見た技術者は、出所のわからないデーターをウイルスの一種として隔離した。だがそのデーターを解析するなり、驚愕した。

 現在の技術では到底出来ない理論が記載されていたからだ。

 すぐにプロジェクトチームが結成され、三十日後には試作機が完成していた。バイオマシン」はそのシステム構築の手順を細かく、現レベルの科学者でも理解できるようにアッセンブリしていたからだ。


 試作機は、期待以上の高エネルギーを発生させた。このデーターはすぐにホワイトハウスに伝えられ、その二ヶ月後には、アメリカ本土の三分の一のエネルギーをまかなえるようになった。


「バイオマシン」は最後に、科学者の名前と、このシステムの世界的利用と平和的利用を指示し、痕跡を消し去った。

 このシステムにより、アメリカいや、世界のエネルギー供給は安定し、最終的な核の冬を回避できた。

 科学者の間でこのシステムを「空の神が授けた奇跡」と銘打ち、いつしか「ウーラノス・天空神」と呼ぶようになっていた。

 そして、創業者の科学者は、当時の大統領より召還され、「バイオマシン」の存在を明らかにした。だがその存在は、アメリカ合衆国大統領のみが知る機密事項として保持された。

 アメリカはこのシステムからさらに改良を加えたエネルギーシステムを開発し、不安定な原子エネルギーの使用をやめた。


 この研究が、飛躍的に大きくなったのはこのことが関わっていたからだ。


 地上にある軍事施設は、この研究所のダミーとして建設された。アメリカが核の使用をやめ軍事力の低下を懸念し始めたのだ。

 そこで連邦局議会は、科学者に新たなる開発を命じた。そう、この軍事施設は、研究開発を行う施設であり、地下にある研究施設を守る役目を担っている。

 実際にこの軍事施設から、戦地へと出撃をした経緯はいまだ報告されていない。


 そして来るべく未知からの使者へ向けて、我々は交戦の準備を行わなければならなくなったのだ。

 あの事故をきっかけに………だがそれは、人為的、国家間の陰謀に巻き込まれた悲運な出来事だった。

 後に起きる。オーストラリアでの防爆事故。広大な研究所のほとんどが消し去ってしまうほど………いや我々人類への脅威が天から舞い降りて来た瞬間でもあったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る