1.異種生物体 Heterologous organism
この生物は十五年前、突如としてこの時間軸に現れた。
発端はオーストラリアの研究所だった。
何が原因で起こったかは、未だ表には公表されていない。しかしこの事が原因であることは、揺るがない事実である。だが、別時間軸からくる生物体について知るものは研究員の中でも限られたメンバーだけだった。
その生物体は、この世界では、固有の形を有さない。しかし、その生物体には意思があり、その行動は、人間が周囲の状況を判断して行動するのと同じように、その時々に行動パターンを変えることが出来ていた。
そして、我々人類と同化する能力を持っている。
我々人類と同化する能力。自分たちの体をこの時間軸上でも存在出来るように、適正化させる事が出来ると言うことだ。
つまり、この生物体が、我々人類が存在する時間軸の住民となることが可能だということなのだ。
バイオサーバーは、あの数式を解読した後、ある定義を打ち出していた。それは、時間という流れの軸と、とある空間についてだった。
時間の流れとは、無数の線の様な物だと。その無数の線が、縄の様にねじれ合い一つの軸として存在しているのだと。そしてそのねじれ合った軸は、その空間上に無数にあり、近くの軸同士が絶えず融合し合い、一つの大きな時間軸として存在している。
その融合した時間軸は、一つの世界となり、喰われた時間軸の世界は消滅する。この世界の時間軸が終わりを告げることは、すなわち大きな時間軸に喰われた時であると………
しかも、その時間軸はストレートな棒のようなものではなく、他の時間軸と常に引きつけられ、その流れは大きく蛇行した流れとなっていることを現していた。時間の流れは、個々の世界を食い潰しながら、存在していることをバイオサーバーは打ち出していた。
別時間軸の生物体。こいつらは、自分たちの時間軸が融合し消滅する前に、我々の時間軸世界を我がものにしようとしているのだ。
十五年前の事故以来、この生物体の出現は現在まで確認されていない。しかし、霧﨑が見た、あのアメリカ軍の基地が飲み込まれた現象は、ここ数年増加の傾向にある。そして、必ず死を迎える「デス・キラー病」もこの事故が起こってから発症の確認がされている。
世界にある「バイオサーバー」は、この事については、沈黙をしたままだった。
「あのぅ、お話し中申し訳ありませんが、そろそろお時間が・・・」
パティの後ろで、白のユニフォームを身に着けたブロンズの髪をした女性が、もうし分けなさそうにして話しかけた。
「あら、ごめんなさい。そうねもうこんな時間」
パティは、自分の後ろにいた彼女を、前に出し
「紹介、遅くなったわね。アンジェ、しばらくの間、あなたをサポートするナースよ」
すると、ブロンズの髪の彼女は、おずおずと一歩前に出て話し出した。
「は、初めまして、ナースのエディーです」
彼女は、霧崎とアンジェに手を差し伸べ、握手を求めた。そのしぐさは、恥ずかしさで、いっぱいという表情をしていた。
「初めまして、アンジェ・フィアロンよ、よろしく」
アンジェは、にっこり笑い彼女の手を取り握手をした。
そしてエディーは、霧﨑の方へ手を差し伸べた。
霧﨑はその手を取り、彼女の手を握った。その時、霧﨑は彼女の手に、ある不快感を覚えた。
「冷たい」
霧﨑は、エディーのその手の冷たさに
「パティ、もしかしてこの子は………」
パティは何のためらいもなく
「そうよ、アンドロイドよ」
霧﨑は、おどろいた。これほどまでに高性能な、アンドロイドを、ここの研究所では造りあげていたとは。
そして霧﨑は、エディの手を取り、指の関節をくねくねと何度も曲げてみた。
「痛いですぅ。ドクター霧﨑」
エディは怪訝そうに霧﨑に言った。
「いやぁ、すまん。あまりにもよく出来ていたものだからつい。それにしても良く、これだけの骨格と関節のデザインが出来たものだ。素晴らしい。一体だれのデザインなんだ、パティ」
パティは、くすっと笑い
「あら、それは全てあなたのデザインよ。あなたがユリカの研究で得たデータはすべて共有しているわ。それに、データはあなたのだけじゃないわ。ウーラは、全てのラボのデータを共有しているの。つまりマザーサーバーってことね」
「マザーサーバーねぇ」
霧﨑は意味ありげにこの言葉をだした。
「ま、いいかぁ。その内いろいろ解ってくるだろうし」
「ねぇ、いつまでここでこんなことしているの。私疲れちゃった、それにおなかも空いたし」
アンジェが怪訝そうに言い話した。それを聞いたエディは、腰に手をやり、えっへんとして
「そうですよ、皆さん。私、さっきから言ってるじゃないですか。それにドクターパティもいいんですか。こんなに時間超過して、早く戻って作業再開しないといけないんじゃないんですか?」
パティは、眉をピクリとさせ
「まったく言ってくれるわね。ナースのくせに」
エディはぷんとして、アンジェの手を取って歩きだした。
「ねぇ、ちょっと、えーと・・・」
「ナースのエディですぅ。エディって呼んでくださいね」
「それじゃ、エディ。こんな田舎の駅から何処に行こうってい言うの。こんな田舎じゃモーテルもないんじゃないの」
アンジェは、エディに手を取られながら、ひなびた駅舎へ向った。その駅舎は、かつては特急も停まっていた栄えた街の駅舎の様だった。
今は、その面影を感じることも出来ないほど古めかしい木造の駅舎。辺りはさびれた街並みがこのホームから見渡せた。
アンジェは、不思議そうにその景色を見渡し、エディに尋ねた。
「ねぇエディ。ここって確か地下だったわよね」
エディは、ニッコリとして立ち止まり、アンジェの方に体を返した。
「そうですよ、アンジェさん。ここはおよそ地下十キロの位置にあります。そしてこのホールウエイステイションは、三か所あるうちの一つなんですよ」
「でもどうして、地下なのに空があるの?それにこの街は………」
アンジェはこの景色を見ながら、すで廃墟となった街の中に、大きな木がそびえたつ公園を見つけた。
「ねぇ、エディ。あそこの公園に行ってみたい」
パティが二人の会話に入る
その地はこの施設で亡くなった人たちの墓標が並ばれている所だった。アンジェの所からは、ただの静かな公園の様にしか見えない。
この研究所を建設するために犠牲になった多くの人々。そして志し途中でこの世を去ってしまった名誉ある人たちが、静かに眠る場所だった。
だからこの駅舎のホームの情景は物静かな寂れた感じにイメージされている。
「あそこは、今行ってはだめよ。あなたはこれからやることが沢山あるの。落ち着いてからにしましょ。それにそのジャージ気に入っているの? もっとあなたに似合う洋服を用意してあげるわ」
アンジェは少しためらいながら
「わかったわ、パティ」
「いい子ね」パティはにっこりと微笑んで、アンジェの肩に手を添えた。
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