2.Secret Fortified City 秘密要塞都市
「も、元旦那って、訊いていませんよ、ドクターパティ。それに博士も不謹慎です。初対面の私たちの前で・・・」
今にでも理性の歯止めが外れそうになるのを、必死にこらえているアルマをしり目にパティは
「あら、貴方こそ怠慢じゃないの? そんなこと私の公開データにアクセスすれば、すぐに解ることじゃない」
アルマは罰がわるそうに赤面し、もう限界を超える寸前の自分に言い聞かせるように
「解りました。ドクター霧﨑。今日はこれで失礼致します。明日、十六時に私のオフィスにお越しください。今後のブリーフィングを行います」
そう言うとアルマは、足早に停車している電動バギィーに乗り込み、ホームにいる霧﨑を睨みつけ、急発進でこの場を立ち去った。
「ああ、怒っちゃったぁ。これだからバージンの軍人は、扱いづらいのよ」
パティは、呆れた様に言いながら、霧﨑の後ろにいるアンジェに目をやった。
そして
「ねぇ、その子なの。あなたが一か月かけて探しあてた子って」
「ああそうだ。アンジェだ」
霧﨑は、後ろにいたアンジェを前にだした。
「パティ・ルース、ここのHighest Researcher (最高位リサーチャー・研究員)よ。宜しくね、アンジェ」
パティは、アンジェに手を指しのべて、握手を求めたがアンジェは、いかにもいやそうな態度で、パティを睨みながら腕を組み
「気安く呼ばないで。私は、アンジェ・フィアロン。この名前は、孤児院で付けられた名前。本当の名前は解らないわ。それに私、この人に無理やりここまで連れてこられたの、一体どうなってるの? ここは何? そしてあなた達って何者なの」
アンジェは、今までの謎を問うように、パティに刺さった。しかし、パティはアンジェに対し、優しく微笑みながら
「そうね。いきなりこれじゃ、疑うのも無理ないわ。まだ正式に登録もされていないんだもの。でも、今に解るわ。ここがどういうところで、何をしていてあなたがこれからするべきことをね」
霧﨑も、アンジェの方を見てうなずいた。
「ところで、アンジェ・フィアロン・・・フィアロンどこかで訊いた事があるわね」
ウーラがパティに語りかける。
「パティ。アンジェ・フィアロンは現在、私たちの投資ブレイン、フィアロン財閥の第一位後継者です。昨年、第一位後継者の長男が「デス・キラー」により他界いたしました。これにより、第二位後継者のアンジェ・フィアロンが第一位後継者となりました。現在フィアロン氏は、アンジェの行方を捜索しています」
「あら、そうなの。それじゃVIPじゃない。それで彼女はその事、しっているの」
「いいえ、自分の出生については分かっていません。これからの回復プログラムに、この事をインストールいたしますか?」
パティは少し考えた後
「いいえ、止めておきましょう。この事は、上位トップシークレット事項といたします。私の権限で処理して頂戴」
「了解しました。この事案を権限付きでロックいたしました」
アンジェは、パティの顔を見て
「ねえ、あなたもウーラと話が出来るの」
「ええ、そうよ。ここのほとんどの研究員とバトル要員、上位オペレーターは、直接ウーラと会話が出来るわ」
彼女は目を丸くして
「どうしたら、ウーラと会話が出来るようになるの。私もウーラと話が出来るようになれるの」
どうしても知りたい。そしてウーラという存在がとても気になる彼女はパティに、さっきまでの挑戦的な態度から一転して聞きよった。
そのアンジェの姿を見たパティは、柔らかく暖かい表情で、まるでアンジェの姉であるかの様に
「アンジェ。あなたはこれからここで、色んな事を体験しなければならないの。もちろん、あなたはウーラと会話できる地位を得られるわ、でも覚えてもらいたいの。ウーラの事いいえ、ここであなたが見ること、そして体験すること。全てがあなたのいた世界には言ってはいけないことなの。その事は、約束して」
彼女の暖かく柔らかい表情の中にある、真剣な眼差しを見てアンジェは、今までの人生で感じたことのない『信頼』という感情を描いた。
「分かったわ。あ、あなた達、悪い人じゃないみたいだし。いいわよ。約束するわ」
少し照れながら、下をうつむき
「それで、私は何をする為に、えーと」
アンジェは霧﨑の方を見て
「ユーヤ、でいい」
霧﨑は、少し照れながらそう言い放った。
それを聞いたパティは
「珍しいわね。あなたが名前で呼ばせるなんて」
少し驚いた表情をした。
アンジェは自分の話に、二人が割り込んだ事に少しむっとして
「んもぉ、だから、ユーヤは私に何をさせたい訳!」
彼は真剣な表情でアンジェに言った。
「お前に、この世界の未来を託したい」
「私に未来を………」
「人類を背負う大役」それはこの時間軸の流れを変えること。
現在この研究所で行われているテーマ、主体は有人の機体を同一時間軸上で移動させること。しかし十五年前、オーストラリアの研究所で起きた事故からその目的は変わり、他の時間軸から空間転移する生物体との対交戦が主なる目的となった。
ミクトランシワトル(死神)彼らがこのラボで研究を進めている機体。
そしてこのミクトランシワトル(死神)がアンジェのこれからの人生に大きく関わる事になる事を彼女、アンジェ・フィアロンはまだ知らない。
まだ、分からぬこの胸の苦しみを………生まれて初めて知る、人を愛するという苦しみと切なさを………アンジェ・フィアロンの心は動きだし始めたばかりだった。
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