奇襲、そして……さようなら Ⅰ

 アラートはラボ全体に鳴り響いた。

 クロノスが告げる。

 アイパルーヴィクの出現を確認。セントラルゲートを封鎖します。戦闘警告レベル9。


 センターパネルに映し出される黒い積乱雲の様な塊。

 「先程のゲートをリバックして来たようです」

 オペレーターの一人がウォルターに告げる。


 「奴らずっと待機していたんだ。しかもあの数は2個中隊は有にある。クロノス、迎撃の体制を」


 ここはアメリカのラボ、いや軍事施設とは違う。アイパルーヴィクは自分たちの交戦相手がいるこのラボを先につぶそうとしていた。その数……数では数えきれない。黒い塊は積乱雲が成長し広がるかの様にその大きさを次第に表していた。この施設での火力では到底太刀打ちは出来ないほどの軍勢。非を見るのは明らかだ。


 「何か手立てはないのかウォルター」

 「ここはあなた方の施設の様に軍事には力を入れていない。これが精いっぱいです」


 センターパネルの一角にあの慰霊塔が映し出された。そのゲートの先に人影を見た


 「アンジェ」霧崎は逃げるアンジェの姿をパネルから見て叫んだ。

 「確か彼女はお連れの方でしたね」

 「ああ、彼女はバトル要員だ。今俺が開発しているミクトランシワトルのパイロットだ」


 「ミクトランシワトル?」


 「ああそうだ、アイパルーヴィク対戦用に開発している人型の兵器だ」

 「もしかして、あれはその為のものなのか」

 ウォルターは何かを端末から探し出した。


 「 ミクトランシワトルとはこれの事を言うのか。もしこれがあれば対戦は可能だと言う事なのか」


 端末に映し出される画像、それはまさしく ミクトランシワトルの姿だった。しかもその色はレッド。アンジェが搭乗する機体だった。


 「まさか、 ミクトランシワトルはまだ施策段階だ。完成はまだしていない」

 それなのにそこに映し出されている姿は完璧なまでに構成された機体だった。

 「本当にあるのか?」

 「ええ、あの慰霊塔の中に……動くかどうかはわかりませんが、なにせ17年前からここにあったものですので」


 「17年前から」


 二人は急ぎアンジェがいるあの慰霊塔に向かった。息を切り悲鳴を上げながら走るウォルターの手を引き霧崎は走った。

 「ミスター霧崎、もう少しゆっくり出来ませんか。何分この身体は言う事を効かないもので」

 そんなことはお構いなしに霧崎は走った。そして近くに止めていたジープに素早く乗り込んだ。ウォルターはかろうじてその身をジープに押し込む。


 ジープは凄まじい音をさせタイヤからは白い煙を出し発進した。


 「ミスター霧崎、先にあなたにこれを渡しておきます。これにグラビティユニットの構造パターンがインストールされています」

 そう言って霧崎の胸ポケットに押し込んだ。それは小さなマッチ箱くらいの大きさの端末だった。

 「ありがとうウォルター博士」

 「どういたしまして、お渡しできなくなるといけませんからね。わざわざアメリカからいらっしゃったんですから」


 ウォルターはクロノスに指示をする。

 センタハイウエイはこの車両優先。すべてのゲートを封鎖。

 了解しましたウォルター。

 アイパルーヴィク最終接近まであと7分です。メモリアルタワーゲートロック解除。


 慰霊塔が目の前にそびえ立つのが目に映る。


 「アンジェ」霧崎はゲートの目にいたアンジェの名を叫んだ。

 「裕也」

 振り向くアンジェに手を差し伸べ、その手をアンジェはしっかりとつかみジープに乗り込んだ。


 「お見事」とウォルターは手を叩いた。

 「こんなの何でもないわよ」とアンジェはつんとして言った。

 「おいおいこちらはここの所長ウォルター博士だぞ」霧崎はアンジェをたしなめる。

 「アンジェはちょっと小さくなって「ごめんなさい」と一言つぶやく。そして

 「どうしたの。サイレンなっていたけど」

 「クロノスから訊いていないのか。アイパルーヴィクが奇襲をかけて来た」

 「え、本当にいたんだアイパルーヴィク」

 霧崎は慰霊塔の中央部のホールの中でジープを止めた。


 中は真っ暗だった。

 そしてスポットライトが光を放つ。

 そこに浮かび上がったのはミクトランシワトルの姿だった。

 「ミクトランシワトル」アンジェは思わずつぶやく。

 「ああ、本当にあったんだ」

 「まさかこれがあなたたちが開発しているミクトランシワトルであったとは……ただ17年間あまりのあいだここで眠ったままですけど」

 「17年間?」

 「ああ、まぁそんなことはもうどうでもいい。行けるかアンジェ」

 霧崎はアンジェに問う


 アンジェは「もちろん」と答えコックピットのハッチを開いた。

 内部の構造はシミュレーターとまるっきり同じ。バイクのシートと同じようなシートにまたがり。


 「メインパワー」と一言いう。センターパネルに「ユアⅠD」と表示された。

 その時アンジェはいけると思った。そしてグリップを握る


 ID7958201100Authentication(オーセンティケーション・認証)・システムロードアップ・ランニング、オールクリア

 私はウーラノス。ミクトランシワトル・アルファのバックアップを開始します。パイロットID認証アンジェ・フィアロン。コントロールシステム始動します。

 一斉に細かな計器パネルがグリーンを表示し始める。


 「裕也、いけそうよ」アンジェは霧崎に告げるとハッチを閉めた。

 「ウーラ、フルスクリーン展開」

 アクセプタンス(受諾じゅだく)

 コックピット全体が360度有視界スクリーンに切り替わる。


 アンジェは中に浮くバイクにまたがるかのような状態になった。

 ふとアンジェは感じた。

 今までのシミュレーターにフルスクリーン展開はなかったのにどうして私はそれを行なえたんだろう。


 下の方で霧崎が何かを叫んでいた。

 「ウーラ、クロノスにダイレクトリンク」

 アンジェはクロノスを通じて霧崎と会話ができるようにとウーラに指示した。


しかし


 アンジェ、現在私とクロノスとの相互リンクは出来ません。

 「どうして?」

 私達は時間を超えての相互リンク共有は禁じられています。

 「時間を超えて……それはどういうことなの」


 私は、あなたのいる時間とは異なる時間に存在しています。そうあなたの居る時間を起点とすれば45年後の世界と言えるでしょう。

 「45年後……つまりそれは私からすれば未来と言うことなの」

 そう言う事になります。


 「もしかしてこの機体も45年後の世界から来たの」

 その通りですアンジェ、今から17年前、私は「ユリカ」の命により時間を超えこの地に送られました。


 この地に送られた目的が終われば、この機体は「ユリカ」と共にまたもとの時代へとリープする予定でした。ですが、グラビティユニットの波動はそのルートに大きな障害を生じさせませた。私はその影響度を考慮し、「ユリカ」だけをもとの時代へとリープさせたのです。そしてこの機体と共に私のデーターは母体であるコアサーバーから遮断されました。そしてこの17年間私は沈黙をし続けたのです。


 現在私はこの機体のバックアップシステムを利用しコアサーバーとは別に独自での稼働をしています。ただし、私がこの時代にリープするまでのデータベースはセーブされています。


 「そっかぁ……と言っても私にはあんまり難しい事よく分かんないんだけど、とにかく今はアイパルーヴィクとは戦えるわけよね」

 はいアンジェ、アイパルーヴィクとの戦闘は可能状態にあります。ですが現在襲来しているアイパルーヴィクの総数はこの機体だけで対戦を行うには勝率の確率は低いでしょう。対抗戦確率15%を下回ります。



 「対抗戦確率15%以下……」アンジェは呟いた。



 「そ、それは……私が死ぬと言う確率でもある訳、よね」

 はい、その通りです。

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