疑惑と疑問Ⅰ

それは、霧﨑がアンジェを連れてネバタの研究所へ向かう時、ウーラから訊いたあの事故の事だった。

 「重要機密事項」ウーラはそう答えた。

 ある一部の上位権限者だけが知る事実。

 あの時ウーラは一方的にその問いを遮断した。

 しかも今ここのセンターパネルに映し出されている現象の光景はあの米軍の基地が主滅した時と同じ光景である事を思い出していた。

 「ミスターウォルター……」

 「ウォルターで結構ですよ。霧﨑博士」

 「私は貴方に問いたい。あなたはもうすでにここでの研究テーマは完了していると言ったが、ではなぜその成果……いや、研究内容が各研究所へ配信されていないのですか。それと、今見たあの光景、私は以前まじかで見たことがある。まったく同じ現象を」


 霧﨑は、あの米軍の基地が消滅した現象をネバタの研究に移籍した後ひそかに調べていた。

 だが、その事項に関する記載は一般のエリアからは見つけ出すことは出来なかった。

 そこで霧﨑はバイオサーバーのコアであるセンターユニットへのハッキングを幾度となく試みていた。

 しかし、バイオサーバーのその複雑なスステム構築の壁はやぶる事いやその行為を行おうとする事させ出来なかった。

 ただ、一つだけ霧﨑は得た情報があった。

 それは、ウーラー、クロノス、そしてイーリスの三つのバイオサーバーの他にもう一つのサーバーユニットが存在するという事だった。

 これは三つのバイオサーバーから得た情報ではなかった。

 今自分が研究をしているミクトランシワトルの機体設計をしている時にある仮説から得たことだった。

 ミクトランシワトル。初めはネバタの研究で時間軸のリープを人類、いわば我々の人体が行うための研究だった。しかし、アイパルーヴィク……時空外生命体の出現により戦闘領域への研究へとシフトしていった。

 この事は霧﨑自身も理解はしている。そしてアイパルーヴィクの存在は自分自身確信していた。

 霧﨑がネバタに移籍した当時、既にミクトランシワトルの原型デザインは出来上がっていた。

 その時は何もその事に干渉いや気にすることもなかった。だが霧﨑は機体の設計を進めていくうちにある疑問を持つようになった。

 それは、敵として戦わなければならないアイパルーヴィクの詳細なデーターが常に更新されていることだった。

 確かにバイオサーバーの能力をすればアイパルーヴィクの詳細データーを常に更新させ最新データーを開示する事は出来るだろう。

 だが、実際にアイパルーヴィクがこの時間軸上に出現をしたという事実は今だ開示されていない。

 いや、霧﨑自身もその存在は確信していたが、実際に自分の目で肌でアイパルーヴィクに関わったことはない。

 そこである一つの仮説を霧﨑は持つようになった。

 アイパルーヴィクは実際に存在し得る生命体であり、我々人類の敵であることは確かなことだろう。

 しかし、そのデーターはどこからくるのか。

 アイパルーヴィクの存在自体をトップシークレットして扱う事は理解はできる。でも、実際に出現したのであればその事を隠すにしてもあまりにも綺麗すぎるのではないかと……

 日々更新されるアイパルーヴィクのデーター。そのデータを開示すればするほどトップシークレットとしての意味もなくなるのではないのか。

 過去、現在そして未来。この三つの時間軸上にアイパルーヴィクは必ず存在する。

 過去と現在。この二つについては解る。しかし未来についてはどうなんだろうかと。

 現在三つのバイオサーバーは現在の時間軸上のみの世界しかデーターを構築することは出来ない。しかし、各研究所の技術力は現在よりもはるか未来の技術力を得ている。

 そして以前から疑問を持つあの部門。

 「闇の情報部」

 この「闇の情報部」からは現在の科学力では到底解決できない技術を幾度となく提供している。

 それはバイオサーバーとは一切関わりのない部門だと聞いていたが……なぜその情報を提供できるのか。

 そんなことを霧﨑は疑問を持ちながら研究をしていた。


 そんなある日、作業をしていた霧﨑は急激な睡魔に襲われた。

 その時うっすらと脳裏に残る二人の人の影。一人は青年、そしてもう一人は髪の長い美しい女性。

 二人は何もない静寂な空間で会話をしていた。

 その声は聞こえては来なかった。だが、その二人は常にお互いを信じ合い、そして慈しみ合っていることを感じさせられた。

 それは長い時間ともに過ごし共にその苦悩を共に乗り越えた夫婦のような間に思えた。

 霧﨑はその二人をまるで別な世界から眺めるように見ている。

 次第に二人の会話が聞こえてくる。途切れ途切れに

 「もう時間が無いわ……」

 「……解っている……僕も……」

 「私も……あなたに……この世界の……終末……変える……救うために」

 「時の流れを……僕らの世界を……サーバーZERO……」

 「サーバーZERO……」

 「ユリ……カ……」「し……ず……く……」

 そこで霧﨑は目覚めた。

 これは夢?脳裏にはこの事だけがなぜか浮かび上がる。

 自分は今寝ていたんだろう。だが、精神だけがどこか別な世界に飛ばされたような感覚があった。

 サーバーZERO、ユリカ、しずく……

 サーバーZEROとは?

 以前日本の研究所で関わっていたユリカプロジェクト。

 そして、あの青年「しずく」とは誰なんだ。

 ユリカはフォログラムなんだろう。でも、あまりにも現実的な実態のからだを持っていた。

 霧﨑は思った。もしかしたらこれは何かのメッセージではないかと。しかもそれは現在自分が知りえるバイオサーバーとは違う何か、直接的なリンクがあったのではないかと……

 この時から霧﨑はこの世界的な研究に疑問を持つようになった。

 自分たちは何処に向かっているのか?

 この研究の本当の意味について……

 裏と表、実際にはあるはずのない世界に今自分たちはいるのではないかと。

 そして、もう一つ。

 ウーラ、クロノス、イーリスこの三つのバイオサーバーの他にもう一つ中枢を担うサーバーが存在するのではないかと……

 「ミスター霧崎、貴方はこの世界的な研究をどこまで把握なさっているんですか?そして今我々が存在し得ているこの時間軸上の状態をどのようにお考えなんでしょうかね」

 ウォルターはゆっくりとした趣で霧崎に問いた。

 「どこまでって、この研究の最終目的、それは人類を別時間軸上にリープさせる事ではないのか」

 「ハハハ、まだそんなことを信じておられているんですか」

 霧崎の返した問にウォルターは高笑いをした。その態度に嫌悪感を抱いた霧崎だったがウォルターはこの研究の真意を知っている。そう感じた。

 「これは勉強不足で申し訳ない。しかし現状私が知る情報はその程度しかないのです。ミスターウォルター宜しければこの研究の真意というものをお聞かせなえれば私も勉強になるのですが。如何でしょうお聞かせいただけないでしょうか……この研究の本当の最終目的を」

 彼は霧崎のその意を介した言葉に少し胸を張り、咳ばらいを一つした後得意げに語り始めた。彼が知りうるこの研究の本当の真意というものを。

 「ミスター霧崎、これから話す内容はこの研究所、いや全世界に置いてトップシークレットであることを事前に申し合せておきたい。すでにあなたのステータスランクは私と同等そして、アメリカのラボでもパーソナルリサーチャーとしての権限をお持ちなのを調査済みですのでね。ではこちらでゆっくりとご説明いたしましょう。この研究、いやこの世界の最終の存在の意味を。霧崎博士……」

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