第41話
ある日、おじちゃんの背中に湿疹が出てしまった。湿疹は軽度のものだけれど、背中は自分で塗れないので私が代わりに塗ってあげる事にした。
「おじちゃん、背中まくって」
「悪いな」
「ううん、全然」
私はおじちゃんの病衣を捲り上げ左肩から腰にかけて軟膏をぬり広げていく。
「春香ちゃん、ちょっと話してもいいかな」
私が「いいよ」と言うと、おじちゃんはゆっくりと語り始めた。
「俺、結婚してたの覚えてるか?」
「覚えてるよ。おばちゃん、たまにうちに遊びに来てたよね」
「でも、子供いなかっただろ?」
「そうだね」
「でも、子供欲しかったんだよ。すげー、欲しかったんだよ」
「うん」
「それで、不妊治療してみたけどダメでよ」
「そっか」
「子供できなくて五年が過ぎた。俺たち夫婦は諦めていた。その時に俺のシンガポール転勤が決まったんだ」
「うん」
「俺がシンガポール行くって言ったら、離婚してください。って言われてそのまま離婚届にサインさせられたよ」
「えっ!?」
「俺は子供を諦めてたけど、あいつはまだ諦めてなかったんだ。それに日本を離れるのも嫌だったみたいだし、仕事ばっかりの俺にも愛想が尽きてたのかもしれねぇな」
「でも……」
「あいつさ、何してるかと思って、知り合いのツテを辿って調べてもらったんだよ」
「それって……」
「いいじゃねぇか。死ぬ前に未練を残しちゃいけねぇし」
「まぁ……」
「そしたら、東京で再婚してた。しかも、子供もいるんだってよ。ほら、見てくれよ、この写真」
おじちゃんはスマホを手に取り、その写真を見せてくれた。ハワイのような南国を背景に、おばちゃんとおそらく旦那さん、そして息子さんらしき男性がアップで写っていた。とても幸せそうな写真だった。
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