第28話 逆指名と入社した理由

「かかりつけ薬剤師になってくれねぇのか?」

「ううん。かかりつけ薬剤師になるよ。ただ、びっくりしちゃって。私全然指名取れなくてね、今月指名取れなかったらクビだったんだ」

「マジかよ。ひでぇ会社だな」

「でしょ? でも、わかって入社したんだけどね。お給料もいいし、店舗も綺麗だし、元気な会社だなって思って入社しようと思ったの。指名だってノルマがあるけど、簡単にクリアできると思ってた。でも、やってみたら全然ダメだった」

 私は、あははと笑いながらおじちゃんの薬を袋に詰めた。私って本当に情けない。

「春香ちゃんはよくやってるよ」

「えっ?」

 私は驚いて手を止めた。

「俺さ、帰国してからドラッグストアで薬買ったんだけど、その時の薬剤師さんがいっちゃ悪けど、イマイチでさぁ。薬の説明なんて全然してくれなかったぜ。それを春香ちゃんのお父さんに話したら、春香ちゃんが薬剤師やってるっていうから、薬局の場所を聞いてここに来たんだよ。そこの薬剤師より全然凄いよ」

 ドラッグストアの薬剤師がどれほどダメだったのかはわからない。それに、おじちゃんがお世辞混じりに褒めてくれているのもわかる。でも、その気遣いだけで涙がこぼれそうになってきた。

「わざわざ私の薬局にきて指名をしてくれるなんて話が出来すぎていると思った。おじちゃん、逆指名ありがとう」

 私は必死に涙をこらえて小さくお辞儀をし、顔を上げると改めてこう言った。

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