第11話 指名が取れない
数分後、投薬を終えて調剤室に戻ってくるやいなや、久美子さんからカゴを突きつけられた。私が指名を取れなかった事はすでに知っているみたいだ。今回の患者さんは忙しくて話ができなかった。忙しい人に無理に話をして次回来てくれなくなったら困るから、今回はかかりつけ薬剤師について話をするのはやめておいた。
「春香、次よ」
「はい」
私はカゴを受け取り、カウンターへ進む。次の患者さんが忙しくなければ指名が取れるかもしれない。淡い期待をしながらカウンターへ向かった。
数分後、私はまた俯きながら調剤室へ戻った。今回の患者さんは他の薬局ですでにかかりつけ薬剤師がいるそうだ。今回はみなとみらい病院にかかったため、かかりつけ薬局には行かず、病院から一番近くにあるクローバー薬局に来たらしい。他にかかりつけ薬剤師がいる場合、重複してかかりつけ薬剤師になれないため、今回は指名が取れなくてしょうがない。というか、かかりつけ薬剤師がいるなら、少し遠くても毎回かかりつけの薬局に行けばいいのにと思う。
「春香、ぼうっとつっ立ってるんじゃ無いわよ。ほら、次行きなさい」
「はい」
久美子さんからカゴを受け取る。今度こそいい患者さんが来てくれれば。そう期待しながら、カウンターへ向かう。そして、また指名が取れずに調剤室に戻る。それを一日中繰り返した。
「ねぇ、どうしてあなたは指名がとれないの?」
「わかりません……」
それから、クビへのカウントダウンが始まった。
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