第7話 退社の理由は

「じゃぁ、紹介するね。この子は春香、私の同期」

「へぇー、かわいいね」

 私の隣の菅田将暉似がそう言った。私の顔は自己評価だと中の中なので、かわいいと言われても明らかにお世辞だとすぐにわかる。それでも、可愛いって言われる事は嬉しくて、ついはにかんでしまった。

「それと、私の隣が婚約者の、ゆう君」

「えっ、婚約者?」

 二人はテレビの婚約記者会見のように、左手を少しあげ薬指にキラキラ光る指輪を見せつけてきた。

「そっか、そういう事か……」

「それと、こっちが墨田君」

「今日はゆうに呼ばれてきたんだけど、二人が婚約なんてしたなんて全然知らなかった。春香ちゃんは知ってた?」

「いや、私は全然……」

 私は動揺した。美紀の退社の理由を初めて知らされた事に加えて、墨田君が初対面なのに普通に話しかけてきたことに驚いている。

「婚約の事は誰にも言ってないよ。今日が初めて。でも、今日は私たちよりも春香が私の代わりに異動してきてくれたお礼をしたいの」

「えっ?」

「ほんと、ごめんね。私のせいで異動になっちゃって」

 美紀のいつものようなキラキラとした笑顔で言われても、本当に悪いと思っているのかと穿った見方をしてしまう。

「ううん、大丈夫。それより美紀、婚約おめでとう。これ餞別のつもりで買ってきたんだけど、婚約祝いになっちゃった。良かったら受け取って」

 私は自分のいろいろな気持ちは一旦抑えつけ、自分の鞄からつい先ほど買ってきたプレゼントを美紀に渡すという大人の対応を選んだ。

「えっ、いいの?ありがとう。開けて良い?」

「いいよ」

 美紀は乱雑に包装紙を破いて中身を取り出す。

「可愛い!ありがとう、大事にするね」

 そう言うと美紀はそれをすぐに鞄に押し込むようにしまった。せっかく時間をかけて選んだプレゼントも扱いが雑だ。口では喜んでいても、本当は私の選んだハンカチは美紀のセンスに合わなかったのかもしれない。

 私は、もう渡すものは渡したし、早く帰りたいと思っていた。

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