Part3 妨害魔と刃を交える
3-1 妨害魔と刃を交える
白桃とガーネットとウィスタリアが支部長のオフィスに集まって支部長を待っていた。ウィスタリアはガーネットとは顔見知りだが、白桃とは初対面だった。しかし、白桃の噂は聞いており、ガーネットが白桃とバディを組んでいると知らなかったので2人の顔を交互に見て目を丸くする。
「ガーネット、武士のコスプレの人とよく歩いてるって人だったのか……」
「コスプレって聞こえた気がするが、聞き間違いか?」
「白桃は実際コスプレでしょ」
「白桃?」
ウィスタリアは小さく呟く。ウィスタリアは『中学生くらいの少女と駅前を歩く武士のコスプレ』という世間の噂と『白桃とかいうナマケモノのロクデナシ』という支部長からの愚痴をそれぞれ聞いていた。この2つの情報が同一人物についてのものと判明して、驚きの目を少し細め、呆れの目に変わる。
「あなたが白桃さんでしたか」
「初対面のはずだが、すごい舐められてるような気がするぞ」
「そう。こいつこそがGARDENでトップクラスの怠け者として有名な白桃だよ」
「待て。俺はGARDENの行事にはちゃんと参加してるぞ」
「飲み会だけでしょうが」
「お前は飲み会すら参加してないだろうが」
「私はお酒飲めないんだから参加する意味ないじゃん」
「言い争いはここまでにして。僕はウィスタリアです。よろしくお願いします」
「そういえば支部長が『新人が入った』とか言ってたな。俺はGARDEN一の働き者の白桃だ。こちらこそよろしくな」
「私はツッコまないからね」
「すいません。別件が立て込んでまして……。皆さん、揃っていますね」
「嘘つけ。二日酔いだろ」
「決して二日酔いではありません! ……それで、今回は貴方たち3人で任務を行ってもらいます」
「やった。ウィスタリアと一緒にできるんだ」
「ウィスタリアさんからの希望でしてね。私としてはこのバディと組ませるのは大反対なんですが」
「ガーネットがアホだからか?」
「あんたがアホだからじゃ!」
「コホン。まあ、本人のやる気を削ぐわけにもいきませんし、今回は特別に」
「よろしくお願いします」
「では、今回の任務について説明します」
一切の明かりもない空間に、悪夢と呼ばれている男が一人立っていた。その視線の先にはもう一人の男が玉座に座っていた。だが、悪夢はその姿や顔を見たことがなかった。
「GARDENの妨害もあり、実験は失敗に終わりました」
「"門"は開かなかったか」
「申し訳ありません」
「……まあいい。引き続き調査を続けろ」
「はっ」
「なんとしても、世界を牛耳るほどの力を持つネフィリムをこの世に呼び寄せるのだ。我ら、天界の軍勢団のために」
「つまり、お前をさらったのは
「おそらく」
「
「
「ガーネットよりウィスタリアのほうが詳しいじゃねえか。何年GARDENやってきたんだ」
「念のためだったけど、あらかじめ勉強しておいてよかったよ」
「さすがウィスタリア!」
「そこで、最近、怪しい集団をこのオフィス周辺で見かけるという通報がたびたび入っているようです」
「武士みたいな服装の?」
「全身真っ黒にフードを被っているらしいです。なにかを企んでいるのは間違いないので、これを阻止してください」
「怪しい奴を片っ端から殴り飛ばしてけばいいのか?」
「ま……まあ、そういうことですけど……」
「僕はこういった調査は得意だから、なにか力になれるかもしれないよ」
「わー。期待の新人だ」
「そもそも調査力の乏しい2人でバディを組んでるのが既にあまりよろしいとは言えない組み方なんですけれども」
「殴って口を割らせたほうが早いからなあ」
「任務を受けないのが一番早い解決法だがな」
「僕がこのバディを指名したのは間違いだったかもしれない……」
「ウィスタリアさんの期待はずれにならないように、きちんと働いてきてください」
「頼んだぞ、ガーネット」
「言ったそばから」
「具体的にどの場所に出没しているかわからない以上、とりあえずは目撃者を探したほうがいいだろうね」
「俺は奴らがどんな企みをしているかも知っておきたい」
「じゃあ二手に別れて聞き込みしたほうがいいのかな?」
「そうとも限らねえな」
「3人を二手に分けると単独行動をやってる人に敵が押し寄せてしまっては勝ち目がないからね」
「なるほどー」
「オフィスの周辺を探索するんだったら、わざわざ別れなくてもかかる時間はそんなに変わらないしな」
「そうだね。だから全員で固まって動いて、それぞれの得意分野で調べてみよう」
白桃が目星を利かせて企みの調査をして、他人受けのいい美少女2人が聞き込みに回ることになった。
聞き込みをしていたはずの二人だったが、気がつけばその周囲に謎の行列が発生していた。
「みんなウィスタリアのほうに行っちゃって寂しいよ」
「チヤホヤされて照れている場合か。僕たちはサイン会を開いているわけではないんだよ」
「まあ、人が多く集まって良かったじゃん?」
「こんなに人が集まらなくても情報は出てくると思うんだけどね」
「このへんで全身真っ黒の怪しい人を見た人、手を上げてー!」
有名人目当ての集団がポカンとしている中、スーツを着た青年と学校をサボっている感満載の女子学生が手を上げた。
「見たことある!」
「どこにいたとか、覚えていないかい?」
「大きな車から降りてきて、そのままあのオフィスの近くの裏路地に入っていったよ。それ以上は恐くて見に行ってないけど」
青年は高級そうな鞄とペンを掲げてウィスタリアにサインを求めた。サイン自体に価値はないが断るのも悪いので筆記体でサインを書いてあげた。青年はさりげなくウィスタリアの写真を撮影した後、離れていった。そこにウィスタリアをモデルか何かと勘違いしている女子学生が割り込んできた。
「アタシの友達の友達がそいつらに誘拐されたんだって!」
「その子が大丈夫なのか心配だよ」
「それがさー。重力を操るオーダーの子だったらしくてさ。なんとか逃げきれたっぽい!」
「重力? そういえば、支部長も……」
サイン会ではないと気付いた人々は時間が経つにつれて減っていき、女子学生とウィスタリアとガーネットで自撮りをして、気がつけば二人を囲んでいた人々はいなくなっていた。
「ウィスタリア、なにか聞けた?」
「色々聞けたよ。ガーネットはどうだった?」
「私はダメ。人混みに潰されて、お話どころじゃなかったよ。すごいね、ウィスタリアは」
「すごいだなんて。たまたまだよ」
「白桃は混乱に乗じて逃げたりしてない?」
「たぶん、黙々と調べてるみたいだよ」
ウィスタリアは裏路地にしゃがみこんで地面を触ったりしている白桃のほうを見た。
「これは……睡眠薬だな」
「睡眠薬?」
「おそらく、悪夢とかいう奴抜きで誘拐をやったりもしてたんだろうな」
「誘拐の被害者に
「そうか。重力操作限定で必要なのか。または偶然なのか。気になるところではあるが……」
白桃は刀に手をかけた。それを見た二人は周囲を見回す。すると、一本道の裏路地の入口と出口の両方から全身真っ黒の集団が現れた。
「ちょうどいい情報源が来てくれたぞ」
「お前たちだな。この前から我々の計画を妨害しているオーダーたちは」
「この前って言ったって。まだ昨日じゃんか」
「しらばっくれるな。数ヶ月前から悪夢様の行動を5度も妨げているのはお前たちだろう!」
「悪夢様って。ちょっと呼ばれてみたいかも?」
「さすが中学二年生と言うべきか……。とにかく、どうやら彼らの言い分には誤解も混じっているみたいだ」
「ああ。なんてたって、数ヶ月前の俺らはスイーツ白桃セレクションを決めるので手いっぱいだったんだからな」
「そういう事を言ってるんじゃないんだけどなあ。僕は……」
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