第2話 私の事情
王宮の長い廊下を一人歩く。
「おとぎ話だと、『王子様とお姫様は、末永く幸せに暮らしましたとさ』で終わるのになー」
現実は、そんな事もなかったなー。あれか? 私がお姫様じゃないから?
それはしょうがないよねー。私、元庶民で今神子だから。
私がこの世界に神子として召喚されたのは、今から約三年前、十五歳の時。学校から帰ってきたら、いきなりここだったよ。
当時は泣いて喚いて帰してって暴れてた。当たり前だよね。これから楽しい高校生活が始まるって思ってたのに、見知らぬ場所にいきなり連れてこられたら、そりゃ暴れもするって。
でも、帰る方法はないって言われた。それが本当なんだってわかってから、また地の底より深く落ち込んで、浮上してとりあえず生きていこうって決めるまで、大体三ヶ月くらいかかったかな。
それが早いか遅いかはわからない。とにかく、あの時私は一度覚悟を決めたんだ。この世界で、神子として生きていくって。
それからは、神子の仕事と言われた「邪神再封印」の旅に出た。邪神は私を召喚したローデン王国から遙か北、魔物の巣窟と呼ばれる魔大陸にいるという。
そこまで、陸路や海路を使って行ったさ。途中色々な妨害にもあったけど、何とか再封印は出来た。それが今から二年前の話。
その再封印の旅には、ローデンの第三王子ヘデックも同行していた。彼は国と世界を救う為に、己の剣を捧げると言って参加していたんだ。
あの時の、彼の言葉が嘘だとは思わない。あの時は、本当に人々の為を思って、再封印の旅に剣士として参加したんだって、信じてる。
その旅が終わり、私はヘデックと結婚した。あ、ちゃんと恋愛結婚だよ? 旅の途中のヘデックは、本当に優しかった。育ちの良さからくる豪快さもあったけれど、それがいい方向に向かっていたし。
それに、本当に私の事を思ってくれていたから。
彼が変わったのは、彼女、トゥレアがローデンにきてから。彼女はローデンの隣国ナシアン王国からマヨロス伯爵の元へ嫁いできた人。
その美しさはすぐに社交界で有名になり、人妻でありながら多くの崇拝者を作る程だった。
まさか、その崇拝者の中に自分の夫が加わるとは思わなかったけどね。
トゥレアの美しさに目がくらんだヘデックは、面白いくらい私を邪険に扱うようになった。それに、彼女の夫であるマヨロス伯爵の事も。
伯爵は気の毒に、妻を王族に取られ、自分は辺境に左遷されて踏んだり蹴ったりだよ。今も南の端の砦にいるって聞いてる。
一応、ヘデックとは話し合って解決しようと思ったよ? でも、話し合いから逃げ回ったのは彼だし、今夜だってあの態度だし。ティアラをぶつけるのも、無理ないって思ってほしい。
なので、私松本エリスこと神子ユーリカは、本日をもってあなたの妻を辞める事にしました。ついでに城も出て行くよ! 帰る場所がなければ、行く場所を作ればいいだけだもんね!
あ、ちなみに名前が「エリス」なのに何故「神子ユーリカ」なのかといえば、自分の名前が嫌いだから。この名前、母が好きだったアニメキャラの名前なんだってさ。
しかもそのキャラ、ヒーローに横恋慕して、ヒロインとの仲を邪魔しまくるかわい子ぶった嫌なキャラなんだよ? 普通、自分の娘にそんな名前つける? てか、そんなキャラが好きって、うちの母の趣味って……
名付けの理由を知って以来、この名前は嫌い。友達も「エリス」とは呼ばずに「エリ」って省略形で呼んでくれた。
だから、召喚された時とっさにおばあちゃんの名前を教えたんだよね。おばあちゃんの事は大好きだったから。本当はユリカなんだけど、何故かユーリカって呼ばれてる。
ユリカって、そんなに発音しづらいのかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます