第3話 城を出ます

 王宮内での私の部屋に戻ると、着ていたドレスを脱ぎ捨て、懐かしい旅装束に腕を通す。シャツにベスト、キュロットスカートに長靴下、ブーツとマント。これは邪神を再封印する為の旅の間、ずっと愛用していたものだ。


 亜空間収納に入れていたから、汚れもない。この収納、入れたままで洗浄魔法や修復魔法がかけられるから超便利。入れる度に両方使っていたから、汚れも綻びもなく、まるでおろしたてのよう。


 結い上げていた髪も、ピンを全部取り外して元に戻す。これで仕度は完了だ。


「あ、そうだ」


 結婚してからヘデックにもらった宝石類やドレス類はもらっていこう。慰謝料代わりに、どっかで換金すれば生活費に出来る。つけてたティアラは、彼に投げつけてきたけど、あれも回収しておけば良かった。


 クローゼットの中や宝石箱の中身も全部亜空間収納に入れて、一度部屋を見回す。幸せな記憶も、あるっちゃあるんだよね。すっかり不幸な記憶で上書きされちゃったけど。


「じゃあね」


 誰もいない空間にそう言い残すと、私はバルコニーから空へと飛び立った。これまた亜空間収納に入れてあった、空飛ぶほうきで。


 何故ほうき? と聞かれれば、魔女はほうきで空を飛ぶからだ、って答える。ほら、世界的に有名な魔法少年も、ほうきで空を飛んでたでしょ?


 いや、確かに私は魔女じゃないけど、空を飛ぶならほうきかなって。


 神子として召喚されたけど、どうやらそのついでに私には魔法の適正もくっついたらしい。邪神再封印の旅の途中、ローデン最強の魔法士と言われたバルムキートに教わって、魔法が使えるのだ。


 あの人の事、私はじいちゃんって呼んでいた。いや、見た目本当にじいちゃんだから。本人は最初抵抗していたけど、呼び続けていたら諦めたらしい。


 そんな私が、移動用に作ったのがこの空飛ぶほうき。確かに見た目がもうほうきじゃないとは、私も思う。


 何せそのまままたがるとちょっと大変な事になるので、まず座席を作り、あった方が楽だからという理由で足場も作った。


 背もたれに日よけまで付けたら、これもうすでに原型消えてるよね? って代物に……。いいんだよ、誰に見せる訳でもないから。


 ちなみに、このほうきの存在はヘデックやこの国の人達は知らない。こっそり作って、こっそり試運転して、こっそり持っていたからね。


 そのほうきで、私室のバルコニーから飛び立つ。夏が近いこの時期、ローデンの日は長い。七時を回ってるっていうのに、明るさは夕方くらいだ。


 そんな明るい空を、ステルスの魔法を使って飛ぶ。下から見ても、飛んでる姿が見えないから騒がれる心配もないのだ。


 城を出て王都の街壁まで来ると、守護の結界に阻まれる。これ、外敵から王都を守る為のものだけど、王都から外へ逃亡する連中も阻止するよう作られてるんだ。


 でも、この結界自体作ったのは私だからね。自分で作ったものは、自分で壊せるものだよ。あっさり結界を全解除して、そのまま王都を後にした。


 もちろん、結界を張り直すなんて事はしない。そんな手間、かけてやる義理はもうないし。

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