第4話 街に泊まらない訳

 ほうきの高度を少しだけ上げる。気づいたら、もう空が真っ暗。手元の時計で午後十時半になるところ。結構飛んでいたらしい。今夜の野営地を見つけなきゃ。


 ここは既にローデンの隣国ナシアンの国境手前だ。二時間ちょっと飛んで、国境到着です。これ街道を馬車で走ったら数日かかる距離だよ。


 私の最終目的地は、北の国。ローデン王国があるここら辺りは、南ラウェニア大陸という。そして北には北ラウェニア大陸があるのだ。


 北と南の間には、「くびれ」と呼ばれる地方があって、南北ラウェニア大陸を繋いでいる。北米大陸と南米大陸が中米で繋がっているようなものだね。


 で、何故北ラウェニアを目指すかというと、北ラウェニアは邪神と邪神の眷属である魔物の影響を強く受けた土地で、ずっと荒廃していたんだって。


 で、邪神が消え去り魔物もいなくなった今、復興がめざましく常に人手不足なんだとか。


 そういう場所なら、多少身元が怪しくても仕事にありつけると思ってさ。南ラウェニア大陸は魔物被害が少なかったから、経済的に安定していて仕事を探す場合紹介状が必要なんだ。


 邪神封印の旅の途中、魔獣やら盗賊やらを狩って現金収入を得たからしばらくは食べて行けるけど、やっぱり何十年もとなると貯金が心許ない。


 だから、仕事を探すのは大事だと思うんだ、うん。という訳で、私の最終目的地は北ラウェニア大陸のどこかの国になる。とりあえず、今日の野営地を見つけようか。


 このまま国境を越えてナシアンに入ってからの方が良さそう。キョロキョロと辺りを見回したら、国境の向こうにいい感じの湖を発見。


 日本でもこっちでも、湖畔でキャンプとかした事ないから、今夜はあの湖畔で野営しよう。


 湖の周囲は森で、人の気配はない。探索魔法もバッチリです。動物や魔獣の気配はあるけど、大型じゃないから問題なさそう。


 魔獣は魔力を持った獣。倒すとそのままの姿で残るから、毛皮や牙、爪、骨、肉などが採れる。素材としても肉としてもおいしい存在だ。


 あと、魔獣は物理攻撃が効きやすい。魔物は物理攻撃が効きにくいから、神子の浄化か魔法が有効だったなあ。




 湖畔に降り立つと、湖はなかなかの大きさだった。緩く波打っているのは、風のせいなのかな。


 ほとりから少し離れた場所に魔法で土台を作る。大体一メートルくらいの高さ。その上に、大型のテントを亜空間収納から出した。


 私が持ってるテントは大きくて、中に大きな二本の柱を立てて支えるタイプだ。このテントの周辺に雨風よけと魔獣や害虫よけの結界を張るので、吹き飛ばされる危険性もない。


 大きなテントの中には、ローテーブルとクッション、奥にはベッドもある。こちらのテントとは別口に、もう一回り小さいテントも出した。こっちは浴室用。土を使ってそのまま作ってもいいんだけど、亜空間収納から取り出す方が楽だからね。


 浴室用テントの中にはバスタブとシャワーブース。それに端っこには衝立で隠した便器。


 水回りはどれも給排水を魔法で制御しているので、水がない場所でも水に困らず、排水場所がなくとも排水に困らないという優れもの。


 うん、水がどこから来るのかとか、消えた汚水がどこに行くかは、考えたくないな。


 とにかく、このセットでは水には事欠かない。元々、ラウェニア大陸には砂漠なんかの乾燥地帯はないらしく、渇水に困る国はないんだそうだ。


 実は宿場町やら街の宿屋を使わないのは、この辺りが主な原因だったりする。もうね、街中が臭いのなんの。


 城ですらおまるにして、そのまま垂れ流しなんだよ? 本当、信じられない。その勢いのまま、トイレと風呂を作ったんだっけ。


 じいちゃんが目をむいたのを、今でも覚えている。相当常識外れな事をやったらしいから。


 本当はローデンに風呂とトイレを流行らせたかったんだけど、じいちゃんに止められたんだっけ。


 旅の間も秘密にしておけって言われたし、再封印が終わった後も、魔法やほうき、トイレに関しては次に再会する時まで、誰にも言うなって言われたっけ。その言葉を残して、じいちゃんは姿をくらましちゃったけど。


 じいちゃんには、新しい魔法を作る度に、誰にも言うなってきつく言われたんだった。じいちゃん、元気でいるかな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る