第5話 お腹が空くと、マイナス思考になる
浴室のテントを設置し終わった途端、お腹がグーと鳴った。そういえば、夜会では何も口にしていなかったっけ。お昼が遅めだったけど、ちょっとお腹空いた。
とりあえず大きなテントの方へ戻って、亜空間収納から料理を取り出す。これ、邪神封印の旅をしていた最中に、多めに買った料理だ。
亜空間収納に入れておけば時間経過がないから、出来立てほやほや。実際は二年は前のものだと思うと……いや、目の前の状態が全て。時間経過はないんだから。
出したのは、野菜のスープと丸いパン。遅い時間だから、軽いものをと思ったんだ。他にもがっつり肉料理から魚料理、主食副菜甘味まで色々取りそろえてある。買い物って、ストレス発散になるからさ……
とにかく、私の亜空間収納には食べきれないくらいの料理が入っているのだ。水も、自然豊かな場所で湧き水を浄化しながら収納しているので、多分死ぬまで水には困らないと思う。
あれ? 私、このままここでずっと暮らせるんじゃね? わざわざ北まで行って仕事を探す必要、ある?
「いやいやいや、この世界で生きていくなら、ちゃんと人のいる場所にいかないと!」
異世界まできて引きこもりになるなんて、冗談じゃない。
「おなか空いてると、おかしな事を考えるんだなあ」
そう、全ては空腹が悪い。とっとと食べてお風呂入って寝てしまおう。
「いっただっきまーす」
ぱんと手を合わせてから、それらを食べる。うん、やっぱりおいしい。助かる事に、こっちに来てから、まずいものを食べた記憶がないくらい、食事の味付けが口に合う。たまにお米が食べたくなるけど。
そういえば、封印の旅の最中に水田やお米らしきものは目にしなかったなあ。もしかして、こっちの世界にはないのかも……それはちょっと寂しい。
でも平気。
「なければ探せばいいのよ! もしどうしてもなかったら、頑張って作ってみよう!」
実は一回試しただけだけど、私が覚えている植物なら、魔法で作り出せるみたいなんだよね……その分、元になる植物が必要だけど。そこらの雑草からでも小麦を作る事が出来たから、多分雑草から稲も出来るはず。
それで種籾を作って栽培が出来れば、こっちでもお米が食べられる。どこか腰を落ち着けられる場所を見つけたら、一度試してみようっと。
食べ終わったら、片付けてお風呂。実はこっちのテントはちょっと手を入れて、天井部分が開くようになっている。ちょっとした露天風呂状態。
温かいお湯につかりながら、夜空を見上げる。テントの中には、小さな光を魔法で出しているだけだから、満天の星空が見える。
こうして夜空を見上げる度に、泣いていたっけ。だって、見える空が全然違うから。見知った星座は、どこにもない。
それどころか、こっちの世界には小さめの月が二つあるんだよ。地球じゃ考えられないね。
そう言って、泣いていた私を、慰めてくれたのはヘデックだった。
「……ふっ!」
気を抜いたら、泣いてしまいそう。好きだった。本当に。トゥレアに心変わりした彼を見るのは、凄く、凄く辛かった。
それでも、戻ってきてほしいって、思ってたんだ。思いは叶わなかったけど。
私がいないってわかったら、きっと教会にねじ込んで結婚無効の宣言を出すんだろう。それで、トゥレアと再婚するんじゃないかな。
もしくは、もっと国の利益になりそうな相手を妻に迎えるんだ。私との結婚が許されたのも、私の神子って肩書きが有益だと思われたからだし。
ローデンは南ラウェニアでも大きな国だから、きっと北のどこかに行っても情報が流れてくる。
ヘデックの再婚を聞けば、きっとこの胸の痛みも消えるはず。それまでは、たまに痛むのをこらえて、新しく生きる場所を探そう。
翌朝、起きたらばっちり顔がむくんでいた。あー、泣きながら寝たからか。冷たい水で冷やせば治るんだろうけど、何か今日はやる気がない。
なので、そのままふて寝する事に決めた。お腹が空いたから、ちょっとだけ食べて、後はずっと寝てる。
こんな事が出来るのも、城を出たからだなあ。あそこにいる時は、分刻みのスケジュールに追われていたもん。
いつ起きてもいい。いつ寝てもいい。こんな自堕落な生活、サイコー。
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