第526話 良かったー

 翌朝、襲撃してきた残党をまとめて、そのままダガードに護送する事が確定。現在ヴィンチザードは無政府状態だから、突き出す先がないんだって。


 かといって、牢屋に入れて置いても監視する人手がないので、脱出し放題だし、下手すると怒れる民衆に殺されかねないんだそう。


 なので、いっそダガードに持って帰っちゃえって事になった。


 現在、網でぐるぐる巻きになった残党達を、護くん達が箱に詰めている。それを確認してる最中なんだけど……


「えーと、ごめんなさい?」

「……」


 今朝から銀髪さんが不機嫌。いや、理由はわかってるんだ。私が悪いんだよ。だから謝ってるんだけど。


「悪かったってば」

「お前に、弄ばれた男心はわからん」


 返す言葉もございません……


 あの後、押し倒したはいいけど、その後には進めなかったんだよねえ。途中で我に返っちゃってさ。


 でも、銀髪さんの方はそのう……その気になってた訳で。うん、悪い事しました。


 だからずっと謝ってるのにー。剣持ちさんは剣持ちさんで、意味ありげな目でこっちを見てくるしさー。


 うう、いたたまれない……




 箱をボートにぶら下げて、ヴィンチザードからダガードへ。前にもやったけど、端から見たら凄い絵面だよなあ、これ。


 今乗ってるボートは、最初から管理責任者を乗せたタイプなので新型。旧型はじいちゃんに貸したまんまだわ……


 デッキにいるから、身を乗り出したら下が見えそうなんだけど、さっきやりかけたら慌てた銀髪さんに止められた。


 いや、飛び下りたりしないから。したとしても、死なないし。


「そういう問題じゃない! まったく、こっちの寿命が縮む」


 また怒られたし。ブーイングしてたら、デッキにいるなって言われて手を引かれて船室へ。


 そういえば、剣持ちさんの姿が見えないね。


「フェリファーは席を外させている」

「そうなんだ……何で?」

「お前は……」


 そう言って、銀髪さんはまたしても深い溜息を吐いている。おかしいなあ、そんな変な事、したっけ?


 デッキから落ちそうに見えたのは、変な事か。でも、ボートにも安全対策が施してあるから、私でなくとも落ちないんだけどなあ。


「とりあえず、そこに座れ」

「はーい」


 船室の椅子に座る。このボートに積んでる家具も、飛行船作った時に制作したもの。数を多めに作って、あまりはストックしておいたんだ。


 銀髪さんもスツールを持ってきて、私の前に座った。そのまま、何度か何かを言いかけては辞めるを繰り返す。


 言いたい事があるけれど、言葉にならないってところかな。んじゃまあ、お茶でも出しますか。


 この部屋にはスペンサーさんが設置してあるから、呼んで二人分の飲み物を出す。銀髪さんはストレートティー、私はカフェオレ。


「どうぞ」

「ああ」


 飲み物飲んで、ほっと一息。でも、まだ銀髪さんは何を言うかまとまっていない様子。


 そういえば、自分の衝動だけで押し倒しちゃったけど、銀髪さんは私の事、どう思ってるんだろう?


 いや、何となく想われてるっていうのは感じてるんだけど、実は私の勘違いでしたーって事もあるかもしれないじゃない?


 あれ……何か段々怖くなってきた。もしかして、お断りの言葉を探してるとか?


 どーしよー?


「……どうしたんだ?」

「ふへ!?」

「顔色が悪いぞ?」

「だ、だって! お断りされるかもって思ったら!」

「はあ? お断りって、何をだ?」


 あれ? 違うの? 何か体の力が抜けて、その場にへたり込んじゃった。銀髪さんが慌ててるよ。


「おい!! 大丈夫か!?」

「もうダメかも……」

「しっかりしろ! 具合が悪かったのか?」


 そうじゃないけど、精神疲労で立ち上がれない……あれー? 私、こんなに弱かったっけ?


 いや、こんな事でへこたれてどうする! わからないから怖いのなら、はっきり聞いちゃえばいいんだ!


「銀髪さん!」

「な、何だ?」

「私の事、どう思ってますか!?」

「い、いきなり聞くか!?」

「き、嫌いなら嫌いってはっきり――」


 今度は、私が途中から何も言えなくなった。いきなり、抱きしめられて。


「バカな事言うな! 誰が嫌うか!」


 あー、良かったー。何か安心したら、体がふわふわしてる。


「銀髪さん」

「何だ?」

「好きです」

「! 先に言うか! 普通!」


 それって、銀髪さんも好きって言うつもりだったって事だよね? えへへ、何か嬉しい。


 抱きしめられてほわほわして、何だかとても安心出来る。あー、良かったー。

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