第522話 運送業

 厨房でミシアと話し込んでいたからか、ニルが下りてきた。


「あの……何かお手伝い……」

「あ、大丈夫。もう戻るから。ね? サーリ」

「う、うん」


 危ねー。今までの話、聞かれてないよね? ニルにはおかしな様子がないから、多分セーフ。


 ポットを亜空間収納に入れて、屋上へ戻る。あ、お茶請けがもうない。誰が……って、ジデジルか。今ももぐもぐ食べてるし。


 まあ、食べる為に出したからいっか。んじゃ、また違うお菓子出しておこうっと。


「まあ、神子様! このお菓子はなんですか!?」

「フルーツタルト。旧ジテガンからたくさん送ってもらえるからさー」


 何せ、亜空間収納直送なので、傷む心配がない。いつでももぎたて新鮮です。


 そのフルーツを使い、バニラで甘い香り付けをしたカスタードクリームもたっぷり使って、フルーツタルト。


 実際、乗せたフルーツの名前は全部把握していないので、ひとくくりに出来て良かったわー。


 ホールで出して、六つに切り分けて分ける。一切れ余るけど、後でじいちゃんにでも持っていこう。


「サーリ、これ多分、お婆さまも欲しがると思うわ」


 いけね、ジジ様達の分かー。そろそろまた作っておかないと、ストックが切れそうですよ。


 仕方がないので、フルーツたっぷりプリンアラモードを作って、ジジ様に届ける事にする。器、ガラスで作っちゃったから、後でまた聞かれそう。


 持っていった後、しっかり器の事も聞かれたので、注文を受け付けておきました。


 ここでしか使わないから、数が少なかったのが救い……かな。




 ジデジルが出発する日は、あっという間に来た。


「うう、また神子様から離れなくてはならないなんて……」

「いいから早く行きなさい」


 モーシャスティンの王都までは、じいちゃんがボートで送っていく事になっている。


 ジデジルとしては私に送って欲しかったらしいけど、神子を自分が使うのは不敬だっていうジレンマに襲われて、昨日の夕食の時間中ずっと唸ってたっけ。ちなみに、私が自発的に送るのはいいんだって。


 じいちゃんは、半分強制されたとはいえジデジルをここに連れてきた責任があるからね。しっかり送り届けてきてください。


 ボートを見送って、ほっと一息。さて、また秘湯の村に戻ろうかね。


「サーリ、また行っちゃうの?」


 ミシアが寂しそうな顔でこちらを見てくる。う……技を磨いたわね。前なら膨れて駄々っ子モードになるだけだったのに。


「先生もいないし、もうしばらくここに残って欲しいなあ。魔法も、教えて欲しいし」


 うーむ、こういうおねだりには弱いんだよなあ。一時的にとはいえ、ここの人数も減ってるしね。


「……んじゃあ、じいちゃんが戻るまでね」

「わーい!」


 嬉しそうな隣で、ちょっとぽかん気味なニル。ニルにとっては、私はまだよくわからない人だろうしね。


 彼女の中で、今の一番は銀髪さんだ。で、その次がミシアかジジ様。それからずーっと下がってその他の人達ってところだろうね。


 あ、その上にじいちゃんがいるかも。魔法の先生やってるから。


「魔法の勉強は、午前? 午後?」

「午後よ。午前中はお婆さまのところで淑女教育なの。ダンスはしばらくお預けね」


 ああ、パートナーがいないもんね。ニルがあからさまにがっかりしてるよ。わかりやすい子だなあ。


 はて、どこかで誰かに言われた気がする……気のせい?


 じいちゃんが戻るまではいるって言ったけど、ボートだからすぐに戻ってくると思うんだよなあ。


 その時にまたミシアに縋られたら、どうしよう?




 結果として、じいちゃんはしばらくウィカラビアを留守にする事になった。


「運送業? ダガードとヴィンチザードの間で?」

『うむ。出来れば手を貸してほしいと言われてのう』


 どうやら、ジデジルをモーシャスティンまで送っていったら、向こうに領主様の配下という人がいたらしく、王都に寄ってほしいと頼まれたんだって。


 で、王都で叔父さん陛下と領主様に、物資運搬の手助けをしてほしいと頼まれたそうな。


『運送料は払うと言うてるしのう』

「じいちゃんがいいなら、私の方は問題ないよ」

『ボートを借りっぱなしになるが、いいのかのう?』

「うん、平気。最初から操縦士付きのボートを作ろうと思ってるから」


 というか、既に亜空間収納内で建造中です。検索先生が。


『そうか。じゃあ、悪いがこのボートはしばらく借りるぞい』

「うん。あ、じいちゃんは大丈夫だと思うけど、気を付けてね」

『うむ。ではの』


 通信終了っと。でも、じいちゃんが向こうに行きっぱなしになるとはなあ。


『ある意味、この時期に神子がこちらに残ったのは、いい事かもしれません』


 ん? どうして?


『ミシアとニルです。あの二人は魔力の相性が大変良く、この先合同魔法を使う際には非常にいい結果を残すでしょう。ですが、反面リスクもあります。まだお互いに魔力の制御が甘い為、勝手に共鳴を起こし、一時的に魔力が増幅する可能性があります』


 それって……


『バルムキートの作った道具でも、押さえきれないでしょう』


 わあ。それは大変。あ、それで私がいた方がいいって事になるんだ。


『そうです。神子ならば、あの二人が暴走したとしても押さえきれます』


 ……今更だけど、人間辞めてる気がする。

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