第520話 乱用注意

 ウィカラビアに急遽戻ったら、本当にいるよジデジル。


「うわー、マジでいるよー」

「お久しぶりでございます! 神子様!!」


 すっごいいい笑顔の後ろに、ぐったりするじいちゃんとユゼおばあちゃん。じいちゃんはまだしも、おばあちゃんがあんな顔してるのは珍しい。


「あんた、大聖堂はどうしたの?」

「補充人員に任せてきました!」

「ユゼおばあちゃん、ジデジルって、大聖堂の主になるんだよね?」


 それが、建設途中の大聖堂を放ってきて、いいの?


「それがね……」


 すっかり疲れ切ってるユゼおばあちゃんが、何やら手紙を差し出してきた。なにこれ? 読んでいいの?


「えーと、何々? あ、これ聖地からの手紙? ……んん!?」


 そこには、ジデジルに大聖堂建設から抜けて、新しく出来たモーシャスティン王国の王都へ向かうように書かれていた。


 そういえば、あそこ、新しい聖地になったって検索先生が言っていたっけ。


『教皇庁の方に、天啓があったそうです』


 それって、「モーシャスティンに聖地が出来たー」とかって言われたのかな?


『言い方はアレですが、内容はあっています』


 あってるんだ……


「えー、この手紙の内容と、ジデジルがここにいる関係は?」

「はい! 大聖堂という枷がなくなりましたので、見知らぬ王都に向かう前に神子様に会いたいと思いまして」


 枷って……大聖堂建設って大事な仕事でしょうに。あんたの立場で「枷」とか言っちゃいけないやつでは?


 ともかく、じいちゃんを捕まえて一緒にボートに乗った、と。


「よくじいちゃんがダガードの王都にいるって、わかったね?」

「まずはユゼ様に連絡をしまして、雑談交じりに話している間に、賢者様がダガードにお戻りになると聞きました」

「婆! 貴様のせいか!」

「何ですって!? あなたがジデジルごときに言い負けるのが悪いんでしょうが!」


 ジデジルの言葉にじいちゃんが怒って、ユゼおばあちゃんがいい返す。二人ともいい年なんだから、口喧嘩なんかしないの。

 てかジデジル、いつの間にユゼおばあちゃんから情報を抜き取るなんて技、憶えたの……


 教会で騒いでいたら、ジジ様とミシア達が入ってきた。


「一体何の騒ぎなの? あら、大主教猊下ではありませんか。ごきげんよう」

「お久しぶりでございます、王太后陛下。ミシアも元気そうでなによりです」

「お久しぶりですね、猊下。ご紹介しますね。こちら、父が後見を務めております、グウィスト侯爵家のスワシェニル嬢です」

「は、初めまして、スワシェニルと申します」

「お初にお目にかかります、スワシェニル嬢。教皇庁にて大主教の地位をいただいております、ジデジルと申します。今後とも、よしなに」


 はー、ジデジルがよそ行きの顔で挨拶してるー。こういう切り替えは上手いんだよなあ。


「それで? デンセットで大聖堂建設に携わっておられる猊下が、何故こちらに?」


 ジジ様の疑問ももっともです。さて、これには何と答えるのかなー? ちょっと意地悪な思いでジデジルを見る。


 そこはさすが教皇庁で鍛えたよそ行き、笑みを深めて表向きの理由を述べた。


「実は、大聖堂よりも優先順位の高い命令を教皇庁より下されまして、そちらに向かう前にユゼ様にご相談しようと思った次第です」


 ユゼおばあちゃん、ジデジルの背後で無の表情です。あのユゼおばあちゃんが、ジデジルを下せなくなるとは。以前なら信じられない光景だわー。


 あれだね、ウィカラビアの穏やかな生活で、教皇庁時代の毒が大分抜けたんだよ。あそこ、本当地獄だったから。


 神に最も近い場所と言われる教皇庁が、地獄そのものとはこれ如何に。


『だからこそ、神罰が下ったのですよ』


 ですねー。何にしても、ユゼおばあちゃんが心穏やかにいられるなら、今の方がいいんだよ。


 例えジデジルに負けようとも。




 すったもんだの末に、ジデジルはウィカラビアに三日滞在する事が決まった。そうか……三日もいるのか……


 私はそのまま秘湯の村に逃げようと思ったんだけど、じいちゃんに捕まっちゃった。


「ここでお主が逃げたら、またジデジルが暴れるじゃろうが!」


 何やったんだジデジル!?


 滞在先は、ユゼおばあちゃんと一緒で教会に併設されている宿舎にしたんだってさ。そんなものまで作ってあったのか……


 本当に、どけんさんとたてるくんは、何を参考にこの街を造ったんだろうね。


 夕飯の時は、当然のようにジデジルは私の隣にすんごいいい笑顔で座っている。ちょっとー、ニルがびっくりしてるよー。


「そういえば、大聖堂は放置って言っていたけど、大丈夫なの?」

「問題ありませんよ。交代要員が教皇庁から来ましたから。ああ、ユゼ様、以前お報せいただいたこちらの大陸の国の話ですが、現在教皇庁とダガードで具体的な話し合いが始まっております。来年春には、こちらに人員を派遣出来る見通しです」

「そう、良かったわ」


 あそれは旧ジテガン領の事かね? それともキルテモイアの方かな。教皇庁としても、布教先が増えるのは嬉しい事なんだろう。


 やがて話題は、ジデジルが向かうモーシャスティン王国の王都クイの事に移る。


「今から楽しみでなりません。何せ、北ラウェニアにおける初の聖地ですもの」


 現在、聖地と呼ばれているのは、南ラウェニアに三つ。そのうちの一つが教皇庁なんだってさ。


 もう二つは、昔の神子が生まれた土地らしい。今も大聖堂が建っていて、巡礼地になってる。


 私も一回行った事があるけど、大聖堂の周りが土産物屋で埋め尽くされていて観光地化してたなあ。


 人が多く来る場所だから、悪い事ではないんだけどね。聖地という言葉から連想する清らかさは、感じられなかったなー。


『以前の神子の生誕地は、人が聖地に祭り上げた場所ですからね。神が認めた聖地は、教皇庁のある場所と、今回のクイのみです』


 それも凄いね。


『この先、神子が全力の浄化を行う場所があれば、そこが聖地となるでしょう』


 乱用しないよう、気を付けます……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る