第517話 終結

 ヴィンチザードの内戦は、終わりを迎えた。ここは、ダガードの王宮。二回目の救援物資を受け取りに来たところ、叔父さん陛下の執務室に通された。


 いるのは叔父さん陛下に領主様、銀髪さんと剣持ちさん、それに私だけ。


 内戦開始から三……四ヶ月だっけ? 長引いたなあ。


「いや、数ヶ月で終わったのは早い方だぞ」

「え? そーなの?」


 銀髪さんの言葉に、思わずびっくり。そんな何ヶ月もやるもんなんだ、戦争って。そういや、何年も内戦状態の国、地球にもあったね……


 ちなみに、ヴィンチザードの内戦は双方共倒れ状態だってさ。王都での戦闘が長引き、建物も双方の軍もズタボロらしいよ。


「で、そんな情報を一体どこから得てるんでしょーね?」

「もちろん、現地からだよ」

「うわー」


 スパイがいるって事なのかなー? よくやるよね。いつバレて命を落とすかわからないのに。それに、戦闘でも死ぬかもしれないのにさ。


 で、そのスパイさん達が持ってきた情報によると、反国王派のトップは戦闘中に負った怪我が原因で死亡、国王派の方は国王と王子が揃って病で死亡。


 他にも戦闘中や病で重要な人間が亡くなった為に、ボロボロなんだってさ。……病、ねえ?


『局所的に、流行った病のようです』


 それ、神罰とか関係していませんかねえ?


『神の神罰ではありませんが、古い神の怒りを買ったようです』


 マジで?


『向こうの大陸の土地神程の力はありませんが、北ラウェニアには各所に古い神々が眠っています。今回、王都に眠る神が、激怒しているようです』


 おおう、それ、王都に人が入れないとかってやつでは?


『なので、神から神子への願いが届いてます。ヴィンチザードの国土を祝福してほしいそうです』


 国土の祝福? えーと、それって?


『以前、二度程個人に祝福していますね? それを薄く広げて国全体に行き渡らせるものです』


 ……神様からのお願いだから、やるけど。その前に、ダガードに祝福しちゃダメ?


『ダガードに祝福は不要です。神子が一番に気にかけている国なので、自動で祝福が重ねがけされている状態ですから』


 そうなの!? 知らなかった……


『神子がいる国は栄えるとは。そういう事なのですよ』


 いるだけで、気にかけるだけで祝福の重ねがけをしてるって訳か……その割には、小悪党が後を絶たないんだけど。


『小悪で済んでいますし、何より滞在や気にかける年月が長ければ長い程重ねがけの回数が多くなるので、その分国が富み栄え、悪人が近寄れなくなります』


 そっか。ダガードに来てからもうじき二年が経つんだっけ。なら、これからさらに重ねがけ出来るよう、気にかけ続ければいいのか。


『そういう事です』


 ならいっか。祝福って、いつやるの?


『内戦が終わってから、早めでお願いします。眠れる神が嘆いておいでなのを、神が心配しております』


 うーん、なら叔父さん陛下達に許可を取ってから、やるかねえ。その場にいかなくて平気?


『問題はありませんが、眠れる神への顔合わせも兼ねて、一度行かれてはいかがでしょう?』


 そうだね。挨拶もなしでいきなりは、ないわな。


 丁度目の前でこれからのヴィンチザードをどうするかの話し合いがされているので、ついでに聞いてみよう。


「あのー、ちょっといいでしょうか?」

「何かね?」


 代表で答えてくれたのは領主様だ。


「実はですね、ヴィンチザードに眠る古い神様から、あの国に祝福をしてほしいと頼まれまして」


 叔父さん陛下の表情が、固まっています。領主様は笑顔だけど、無言。


「出来れば向こうに直接行ってやりたいんですが、いつ頃がいいでしょうか? 出来たら早めでお願いしたいのですが」

「サーリ、一つ聞いていいかな?」

「何でしょう?」

「その祝福とやらは、我が国にはもらえないのかな?」


 やっぱりそこ、気になりますよねー。


「ダガードには、祝福が重ねがけされてる状態だそうですよ?」

「え?」


 これには室内の皆がびっくりしてる。私も驚いたもんねえ。


「私が気にかける場所には、常に祝福がされるそうです」

「それで重ねがけか……それ程我が国を気にかけてくれて、嬉しいよ」

「へへへ」


 そりゃあ気にかけますとも。関わりが深くなった人もいるし、おいしいものもたくさんあるし、何より最初の温泉を開発した場所だもの。大事大事。


『そうですね! 一番湯は今でも思い出深い場所です!』


 いや、今でもって……あそこ作ってから、そんな何年も経ってませんよ。まあ、その後あちこち開発したので、ちょっと忘れがちだけど。


 ダガードに祝福は今更不要って事で、その場は収まった。現地で祝福に関しては、もう少し時間が欲しいってさ。


「まだ向こうの王都もごたごたしているし、うちの軍が乗り込んで治安維持をする予定だが、抵抗勢力もまだ残っているだろうしね。なるべく早く終わらせるようにはするけれど」

「お願いしまーす」


 てかさ、いっそ治安維持で向かうダガードの軍に、護くんととーるくんを忍ばせちゃおうかな。今なら提案してもいいかも。


 持ちかけたら、叔父さん陛下と領主様が大変いい笑顔で了承してくれましたよ。あのタッグは有能だからね。




 ヴィンチザードの用意が調うまで、ウィカラビアの温泉街に戻る事にした。あー、何だかんだで一月近く離れていたから、ちょっと懐かしい。


「あ! サーリ! お帰りなさい!!」


 ボートから下りたら、ミシアとニルが街から走ってきた。


「お、お帰りなさい、皆様」


 お、ニルがちょっと裾の長いスカートで淑女の礼をしてくれたよ。教育、身についてきてるね。


「兄様達もお帰りなさい。向こうはどうでした?」

「難民の避難所を回ったが……神子の力は凄いというのを見せつけられた形だな」

「なあに、今更そんな事言って」

「そうは言うが、実際目の前で見るとまた違うぞ」

「そうなの? サーリ、今度は私も――」

「ミシアはダメだ。ダガードに戻るなら、そのまま王宮に直行だぞ」

「ええええええ!?」


 はは、この二人のやり取りも、何だか懐かしい感じ。剣持ちさんは相変わらず銀髪さんの少し後ろについていて、ニルは……あれ?


 ニルはミシアの隣を歩いていて、その視線の先には、銀髪さん。彼女の目には、覚えのある熱。


 そっか、そうなのか……




 ジジ様に戻った報告をして、ヴィンチザードの現在の様子もわかる範囲で伝える。主に、銀髪さんが。


 ジジ様のお家に銀髪さん、剣持ちさん、私の三人でお邪魔しての報告。ミシアとニルには、ちょっと遠慮してもらった。


 何せ、ニルの故国が滅んだ話だからね……実際国が消えたという訳じゃないけど、もう「ヴィンチザード王国」という国はなくなる。


 あの国は、ダガードのヴィンチザード地方という、一地方になるのだ。まあ、それも今すぐではないみたいだけどね。


 話を聞き終わったジジ様は、沈痛な面持ちで溜息を吐いた。


「そう……」

「お婆さま……」

「ああ、いいのよ。この結果は分かりきっていた事なのだから。私より、スワシェニルの方が心配です」

「ミシアがいますから、あれから話をさせた方がいいかもしれませんね」


 そうかな。銀髪さんが話した方が、あの子にはいいのかも。


 でも、言えない。余計な事だし、私はここで何かを提案する立場じゃないから。


 報告が終わって、ジジ様の家を後にして、今度はじいちゃんのところ。一人で来ようと思ったのに、やっぱりあの二人がついてくる。


 でも、そっか。ここに来てから、二人ともじいちゃんのところに入り浸ってたもんね。じいちゃんの顔も、見たいか。


「じいちゃーん」

「おお、戻ったか。三人とも無事な姿を見て安心したわい」

「怪我なんかしないよ。してもすぐ治すし」

「そうじゃな。お主はそういうやつじゃよ……」


 そこで、何でそう残念そうな顔をするのよ。


 じいちゃんにも、ヴィンチザードのあれこれをご報告、ついでに、治安維持で入るダガード軍に、護くんととーるくんを貸し出す事にした事も話す。


「ふうむ。まあ、今回限りと思えばいいかの」

「もしかして、ヤバかった?」

「そこまでじゃなかろうよ。メヴィアンもあれこれ作っておるようじゃしの」

「そういえば、人がいない国境線は人形で監視してるって言ってたっけ」


 あれ、あのストーカーが作ったんだった。


「反抗勢力も、ヴィンチザードの国民じゃろうから、その祝福とやらで少しは落ち着くやもしれんぞ」

「だといいな……」


 今回の内乱でも、もう既に結構な人数が命を落としている。これ以上は、もういらないよ。

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