第516話 新たなる聖地

 南の避難所は、比較的問題なく回れた。四箇所全部一日で回ったら、さすがに同行の貴族達が驚いていたけど。


 でも、疲労の色は見えないねえ?


「サーリ、ダガードの貴族というのはね、ある意味体力勝負なんだよ?」

「そうなんですか?」


 意外。貴族なんて、お金使って遊んでばかりだと思ってたよ。


「君、貴族は遊んでばかりだと思っていたね?」

「何故それを!?」

「わかりやすい、と以前にも言ったと思うんだが。まあいい。ローデンの貴族はそうでも、ダガードは違う。……とも言い切れないな。そういう輩もいるから」


 あー、夏に王都で自白大会しちゃった人達ですねー。


 領主様の話だと、貴族家の当主ともなれば付き合いで徹夜の夜会から狩猟から遠乗り、また剣の稽古や槍の稽古も大会の為にし続けなくてはならないんだってさ。


 意外と大変でした、貴族家当主。


「まあ、最近では大会にも代理人を出す家が多いけどね」


 合理的ですね。




 南の避難所もこれまで同様、浄化と治療、護くんとトールくんの配置という三点セットを行い、無事視察は終了。


 南では、何やら領主様達があちこちでひそひそ話をしていたのがちょっと気になるけどね。首を突っ込んだら負けだと思うんだ……


 全部終わって王宮まで戻る。ほんの数日で全部回ったから、内戦の状況もあんまり変わってないかなー。


『王都では、反国王派と国王派の軍が衝突しています』


 げ。もしかしなくて、最終決戦?


『可能性は高いかと。ちなみに、押しているのは反王国軍です』


 国王軍は劣勢かー。その辺りは、叔父さん陛下のシナリオ通りだね。


 で、勝った反国王派がダガードに乗り込んでくるのを返り討ち、かな。


『疲弊したところを一気に攻める、も有りです』


 腹黒陛下だしな……民衆に悪影響が出なければいいんだけど。


『民衆が求めるものは、今まで通りかそれ以上の生活です。今まで以下にならなければ、どこからも不満は出ませんよ』


 ですよねー。正直、庶民にとって、上につくのが誰であっても、自分達の生活が守られるならどうでもいいんだし。


『税制と法、あとは文化が護られれば、問題は出ないかと』


 文化か。大事だよね。今回の場合、言語と宗教はほぼ一緒だから、生活様式とかかなー。お祭りとかもね。


 王宮に到着して、絨毯で下りる。今回は領主様に言われて王宮の真ん前ですよ。周囲からのどよめきが凄いわー。


 聞こえてくる声の中に、「神子様」ってのが多いね。今はフードもかぶってないし。黒髪さらけ出してるから。


 ダガードが住みにくくなれば、ウィカラビアの温泉街でも、秘湯の村でも行き先はたくさんある。前も砦持って逃げるか、ってじいちゃんと言ってたっけ。


 あ、そういや砦、船に入れっぱなしだわ。今はウィカラビアが拠点みたいになっちゃってるしなあ。どうしよ。


 一応、船に入れた砦では、ブランシュ、ノワール、マクリアが生活している。ウィカラビアは暑すぎて嫌なんだって。君達、そろいもそろって北生まれだもんね。


 秘湯の村なら、山の中だし北だから三匹にも過ごしやすいかも。今度誘ってみよう。




 案内に従って王宮の中を歩く。相変わらず、どこを歩いているのかわかんない。


『マップを表示しますか?』


 あるんだ、王宮内マップ。必要になったら、表示をお願いします。


 てっきり謁見の間に通されるかと思ったら、叔父さん陛下の執務室。あ、ここ銀髪さん達がいた時にも来た事ある。


「ああ、戻ったんだね。ご苦労様」

「もったいないお言葉、恐れ入ります」

「ジンド、ここは公の場じゃない。堅苦しい挨拶は抜きだ」

「そうは仰っても……」

「いいからいいから。サーヴェドス伯とモマー伯もご苦労だった。後で詳細を聞かせてくれ。今は戻って疲れを癒やすといい」

「ご厚情、痛み入ります」


 そう告げて、二人は部屋を後にする。残ったのは、叔父さん陛下と領主様、銀髪さんと剣持ちさん、私。侍従とか、いないのかね?


「さて、では聞かせてもらおうかな」

「と仰いましても、全て報告済みですが。神子様のお姿を使ってしっかり宣伝してきましたし、話の通じる国にはそれなりに通してきましたよ」

「では、モーシャスティンには攻め入ってもいいって事かな?」


 わあ。いきなりそんな言葉が出てくるんだ。でも、あの国はもう……


「叔父上、いきなりか?」

「当たり前だろう? ヴィンチザードは我が国がいただく。それを邪魔するようなら、痛い目を見てもらわないとね。……ところでサーリ、何故そんな顔をしているのかな?」


 ギクウ! もう、銀髪さんといい領主様といい叔父さん陛下といい、何でそう人の顔から考えてる事を言い当てるんだよう。


「えーと……実は、モーシャスティンの王宮に向けて、全力で浄化をしていまして」

「おま! いつの間に!?」

「南に向かうボートの中……かなあ?」


 気絶前提の浄化だったからね。室内に、嫌な静けさが漂っている。それを打ち破ったのは、叔父さん陛下だ。


「では、あの国の上層部はもはや悪さは出来ないと?」

「多分。でも、浄化を行った時に王宮にいなかった人達には、影響はないんじゃないかなーと」

『影響はあります』


 マジで!?


『超強力版の浄化故、周囲に力が漏れました。その結果、モーシャスティンの王宮は聖地同様の清浄さを保っています』


 聖地!? それって、教皇庁のある、あそこ?


『あの地もまた、今までの神子が全力で浄化した場所です』


 知りませんでしたよー。私の前って、召喚じゃなくてこの世界で生まれた神子だっけ?


『現在の聖地は、代々の神子がそれぞれ全力の浄化を施し、今の清浄さに至っています。もっとも、神罰が下る前には大分穢れていましたが』


 あー、神罰、あったね。あれでまたあの場所の清浄さが戻った訳か。で、何人もの神子が重ねがけして作った聖地を、私は一発で作ったって訳ですか……我ながら、本当桁違いだね。


『邪神の影響が完全に消えた今だからこそ、出来る技ですね』


 そうかー。あ、それもこの場で言っておこう。後でってなると、多分忘れる。


 そして、忘れたが最後、絶対怒られるやつだ。


「あの、もう一つ」

「何かな?」


 ああ、叔父さん陛下の笑顔が怖い。


「モーシャスティンの王宮なんですけど、どうやら浄化のしすぎで第二の聖地と化したようです」


 あ、また嫌な静けさが。


 ややして、叔父さん陛下が重い溜息を吐いた。


「サーリ、詳しく聞こうか」


 いや、詳しくも何も、そのままなんですけど!




 やった事とその理由を話すと、その場の全員が頭を抱える結果になりました。


「お前……そういう事は先に言っておけ!」


 えー? でも浄化に関しては銀髪さん達に話しても、意味なくない?


「それにしてもこれではモーシャスティンを攻め辛くなりましたな」

「そうだな。だが、逆に言えば、あの国はもう放っておいてもいいのかもしれない」

「と、言いますと?」

「王宮が聖地化したのだろう? ならば、政治の場は別の場所に移すにしても、国の上層部はかなり影響を受けるはずだ。少なくとも、好戦的な王族は消えたと見ていい。おとなしくしているのなら、あの国は見逃す」


 また怖い事を。あれ? って事はあの王宮の聖地化って、正しかったの?


『そのようですね』


 ……検索先生、ここまで狙ってないですよね?


『さあ、どうでしょう?』


 ああ、腹黒がここにも。

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