第513話 行き当たりばったりと臨機応変

 浄化を食らった暗殺者達は、皆素直に口を割ってくれました。わずかでも罪悪感というか、「これは悪い事なんだ」って意識があると、浄化でこうなるらしい。


 なので、「これは正義の戦いだ」とか思い込んでる場合は、浄化が効かないんだってさ。反国王派がこれ。


 ちなみに、以前強力浄化をかけた邪神教団達も、別に改心はしていない。ただ、彼等が操っていた瘴気が消えただけ。


 彼等の最大の武器であり道具であった瘴気が消えたので、この先は消滅していくだろうっていうのが、検索先生の読みだよ。


 で、暗殺者の方ですが、やっぱりというか、ダガード王宮の貴族と繋がっていましたよ。


「イーメス伯? ……確か、可もなく不可もなくといった貴族だと記憶しているが」

「いい評判も悪い評判も聞きませんね。ある意味、存在感が薄いと言いますか」


 暗殺者達の口から出た貴族の名前を聞いた、銀髪さんと剣持ちさんの感想。存在感が薄いって……


 従兄弟さんも、似たような感想らしいけど、もう一つ情報を持っていた。


「確か、イーメス伯の夫人はヴィンチザードの伯爵家出身だったかと」

「繋がりはそれか」

「ですが、何故イーメス伯が暗殺者を?」

「カイド様を暗殺して、その後王宮でナバル陛下も暗殺……でしょうか?」

「それだとつじつまが合わん。今日俺がここに来る事を知っているのは王宮の連中だけで、そこからの連絡が、あのボートより速いとは思えん」


 そうなんだよねー。銀髪さんを暗殺しようとしてあの連中を仕込んだとしたら、大分行き当たりばったりにならないかい?


 来たら狙えてラッキー、って感じで。普通、暗殺ってそんなに大雑把にはならないでしょうよ。


『当初のターゲットは、そこにいるチェダー伯だったようです。ですが、それ以上に大きな獲物が目の前に現れたので、そちらに目移りしたのでしょう』


 その、チーズのような名前の伯爵って、誰?


『そこにいると言いました』


 ……って事は、従兄弟さん!? え、そんな大物だったんだ。


『というより、避難所で騒動を起こさせたかったのでしょう。あわよくば、ダガード国内でも内乱を誘発出来れば、と思っていたようです』


 考え甘いなあ。あの腹黒……失礼、叔父さん陛下がそんな事、見逃すとも思えないんだけど。


『用意はしていたようです。ただ、その場合チェダー伯爵は犠牲に捧げられたでしょう』


 ……知っていて、暗殺を見過ごしたと?


『ここから王宮までは遠いですし、連絡も簡単には出来ません。策を講じたところで、それを伝える術がなければ意味がありません』


 でも、何か手が打てたんじゃないの!?


『だから、神子とカイド前国王をここへ送ったのです』


 ……つまり、私と銀髪さんが叔父さん陛下の打った手って事?


『実際に暗殺者集団を捕縛出来ましたし、彼等の口から王宮の貴族との繋がりも判明しました。この避難所は浄化済みですから、不心得者は入れないでしょう』


 今なんかさらっと言ったけど、浄化の力も知らない間にパワーアップしてませんかねえ?


『邪神教団を殲滅した影響でしょう』


 殲滅!? 死んでないよね?


『失礼しました。殲滅したのは彼等が使っていた瘴気です』


 あー、びっくりした。あのまま……になったのかと思って、焦ったよ。


 それはともかく、これで暗殺者集団がここにいた理由がわかった。


 銀髪さん達は、可能性をあれこれ言い合っている。そして、やっぱり行き着く先は従兄弟さんが暗殺対象だったんじゃないかってところ。


「ですが、私を殺しても、特に国に影響があるとは思えませんが……」

「お前、軍の中心人物だろうが」

「私の代わりはいくらでもいますよ」

「兄上、その考えは早急に直してください。代わりは早々見つかりません」

「暗殺者達の標的、従兄弟さんで間違いないですよ。理由は、避難所を混乱に陥らせて、ダガード国内でも内乱を誘発させようとしたそうです」

「何だと!?」


 男三人で振り返らないで。顔が怖いし。声も大きい。


「失礼ですが、神子様。一体、いつどのような手段でその内容を把握なさったんですか?」

「聞くな、チェダー。聞いてもわからん」


 銀髪さん、一応助け船だと認識しておくよ。検索先生の事を言わずに、説明出来るとも思えないし。


「は! まさか!! 神からの啓示でしょうか!?」


 ……何かバレたのかと、一瞬身構えちゃったじゃないか。




 暗殺者達は、荷馬車に乗せられて王宮へ送られる事になった。浄化ですっかり改心しちゃってるから、逃げ出す危険性は少ないだろうけど、他の危険があるので、護くんととーるくんを付けておく。


 暗殺者が仕事に失敗して消される、というのはよくある事なんだってさ……


「荷馬車を襲撃してくる者は、全て捕縛するよう指示しておいてくれ」

「了解でーす」


 銀髪さんからのオーダーで、とーるくんには捕縛モードでいてもらう。いつもの札も、忘れずに付けておくよう設定。


 あれ、便利だよね。一目で何やったかわかるもん。


『ただし、とーるくんが捕縛した相手にしか、適用されませんが』


 別に問題ないです。


 浄化は終わったので、救援物資を出して、後は少し慰問という形で救護所などを回った。


 救護所は、サーカスみたいに大きなテントを丸ごと一つ当てている。小さいのを建てるより、費用がかからないそうな。


 中に入ると、怪我人が結構いる。何で?


「この避難所に来る途中、襲われた者もいるようです」

「それは、反国王派から?」

「それもありますが、他にも国軍、軍から脱走した兵士、元からいる盗賊などです」


 酷い話だね。中には、持ち出した家財道具を盗られた人達もいるという。それに加えて怪我だもんな。


 これ、治してもいいですかね?


『どんどんやりましょう。神子の名声が上がれば、神への信仰心も高まります』


 そういうものなんだ。じゃあ、ちゃっちゃとやりますか。


「怪我人は、ここにいるだけですか?」

「ええ。病の者は、別の場所に隔離していますが」


 ここは怪我人のみを受け入れてるらしい。後で病気の人のところも回ろう。んじゃ。


「いっぺんに治しますね」

「は? 一体何を――」


 えいや! 広げた両腕から、金色の光の輪が一瞬で救護所の中に広がる。


「え? 痛くない……?」

「足が、足がある!」

「指が……動くわ! ほら!」

「目が……目が見えるよ!」


 あちらこちらで、怪我が治ったと喜ぶ声が。よしよし。


「何と……何と言う奇跡! このチェダー伯カンパー、感服いたしました! 神子様!」


 従兄弟さんが、その場で跪いちゃったよ。おかげで、救護所の中に「神子?」「神子様?」という囁きが、波のように広がっていく。


 ちょっとこそばゆい。再封印時代にも、こういう事は少しはやった事あるんだけど、あれはどっちかって言ったらローデンの宣伝だったしなあ。


 ふと、何かに引っ張られる感触が。引っ張られた方を見ると、小さい子供。その背後に、慌てた様子の女性の姿もある。


「こ、これ! 申し訳ございません! 神子様」

「いえ、大丈夫――」

「さっきのぴかーっての、お姉ちゃん?」


 ……えーと、治癒の事だよね?


「うん、そうだよ。痛いところは、ない?」

「うん! へーき!」

「そう、良かったね」


 にぱーっと笑う子供。可愛いねえ。後ろの女性はお母さんかな? アワアワしてる。そんなに心配しなくても、子供を怖がらせたりしないよ。


 子供の頭をなでなでしてから、お母さんらしき人に渡す。何度もこちらに頭を下げつつ、救護所を出て行った。


 子供が笑っていられるのは、いい事だ。


「さて、じゃあ病気の方も治しに行きましょうか」

「よ、よろしいのですか?」

「ええ、その為に来てますから」


 本当は物資運搬の為だけどなー。その辺りは、臨機応変ってやつですよ。

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