第512話 浄めの光

 あの後、王宮で支援物資を受け取ってから、難民避難所へ直行した。空を行くと、どこでも早い。


「かなりの数だな……」


 上から見た避難所は、割と広い土地を使っている。そこに、いくつものテントと、たくさんの人、人、人。


 これだけの人が、逃げてきたんだ……


 救援物資を届ける役目が主なので、避難所から少し離れたところでボートを下りる。ボート本体は上空で待機していてもらおう。


「何だ、フードはかぶったままか?」


 最後に下りた私を見て、銀髪さんが軽く聞いてくる。


「ここで黒髪がわかると、騒動になりかねないから。浄化が終わってから、髪の色を見せますよ」


 何せこの大陸では、黒髪イコール神子だからねー。


 歩いて避難所へ向かうと、武装した兵士がこちらに気づいた。


「止まれ! 何者だ!?」

「王宮からの支援物資の運搬で来た。これが指令書だ」


 銀髪さんが、懐から書類を取り出す。


「何? ……本物か?」


 受け取った兵士は、本物かどうかの見分けが付かないらしい。封蝋のしてある書類。


「判断が付かないのなら、出来る人間のところに持っていって見せればいい」

「そ、そうか」


 銀髪さんに言われた兵士の一人が、書類を持ったまま走り去った。残った兵士は、こちらに槍の穂先を向けている。


 いいのかね? 王族にそんなもの向けて。剣持ちさんのイライラゲージが溜まっていくのが見えるよう。


「落ち着けフェリファー。こいつらの仕事だ」

「ですが」

「いい」


 護衛対象の銀髪さんに言われては、剣持ちさんもこれ以上言えないらしい。でも、深く静かにイライラを溜め込んでるよ……後で爆発しないといいけど。


 しばらくして、走って行った兵士が上役っぽい人を連れて戻ってきた。薄汚れてはいるけれど、なかなかいい仕立ての服を着ている。


「へ、陛下!?」


 その人の言葉で、こちらに槍を向けていた兵士が真っ青になっちゃった。大丈夫、君に罪はない。


「前はな。というか、お前がここの責任者だったのか」

「兄上!?」


 うん? 剣持ちさんが兄上って……ええ!?




 この避難所の責任者は、本当に剣持ちさんの従兄弟さんでした。実の兄じゃないんだけど、子供の頃から一緒に育ったので、兄扱いなんだとか。


 ミシアが銀髪さんを「兄様」と呼ぶのと、一緒か。


 あの後、避難所の国境沿いにある兵士達のテントの一つに案内された。ここ、剣持ちさんの従兄弟さんが使っている場所らしい。


 テント内にある簡素な椅子に四人で座った。テーブル代わりの板……というか、これ長方形のでかい盾か? が目の前に置いてある。


「陛下……いえ、カイド様がこちらにいらっしゃるとは思いませんでした」

「ついでがあったからな。それにしても、何故お前がここの責任者などをやっているんだ?」

「今上陛下のご命令です」

「叔父上のか……」


 話が見えないー。剣持ちさんの従兄弟さん……長いな、従兄弟さんでいいや。彼がここの責任者だと、何か問題があるのかな。


「……来ると思うか?」

「少なくとも、今上陛下はそうお考えのようです」


 ねえ、本当に私にもわかるように話してくれないかなあ!?


 不機嫌になってたら、やっと二人がこちらに気づいた。


「へい……いえ、カイド様、こちらは?」

「ああ、ここでならいいだろう。フードを取ってはどうか?」


 確かに、広いテントの中には、この四人しかいないし、従兄弟さんは責任者だしね。


 フードを取ると、目の前に座っている従兄弟さんが息を呑んだ。


「み……神子様?」

「そうだ。今回、国境沿いの避難所にいる難民達の救済に立ち上がられた。俺達はそのお供だな」

「カイド様が……お供……」


 従兄弟さん、大丈夫かね? 剣持ちさんが従兄弟さんの隣で額を押さえているけれど。


「まずは避難所への救援物資だな。王宮が集めた物資を持ってきている。どこへ運べばいい?」

「はえ? 物資……と言いますと?」

「ああ、それらはこちらの神子様がお持ちくださっている」


 銀髪さんの言い方、背中がこそばゆくなるから、やめてほしいわー。


「あと、こちらも重要なのだが。今、避難所の治安はどうなっている?」


 銀髪さんの質問に、呆けていた従兄弟さんの顔が一瞬で真顔に戻る。


「……どこまで、ご存じなんですか?」

「何も知らん?だから聞いている」

「そう……ですか」


 従兄弟さん、何か言いよどんでいるね。そんなに酷いんだろうか。


「正直、かなり悪くなっています。我々も手を尽くして治安維持に努めてはいますが……」

「大方、工作を請け負っている者が紛れ込んでいるのだろうよ」

「やはり」

「ヴィンチザードは、本気でダガードを取れると思っているらしい。笑える話だな」

「まったくで」


 でも、難民達にとっては笑える話じゃないんだよなあ。救援物資も大事だけど、早いとこ浄化もしてしまおう。


『話の途中ですが、不穏な気配がこちらに近寄っています』


 何ですとー!? マップに表示してもらったら、確かに赤い点がひーふーみー……全部で十六。


「銀髪さん、このテントの周囲、敵に囲まれています」

「何だと!?」

「数は全部で十六。護くんととーるくん、出します?」

「……そうだな。まずは捕縛して色々と聞き出す必要がある」


 んでは。この為量産しておいた護くんととーるくんを投入!


 ……嘘です。増え続ける温泉施設の警備用に、たくさん作っておけば後が楽ーとか思って作っておいた分でーす。


 まさかこんなところで使うとは思わなかったけどさ。


「うわあ!」

「な、何だこりゃあ!」


 お、早速捕縛完了したようですな。マップでは、一部逃げているのもいるけれど、甘いな。護くんととーるくんのタッグからは逃れられないよ。


 テントの外に出ると、難民っぽい格好の男達が十三人、網でぐるぐる巻きにされていた。


 あ、札がついてる。暗殺者……だって。不穏だなあ。どうやら、検索先生から得た情報を、捕まえた連中の札に書くよう変更したみたい。


「暗殺者? お前をか?」

「……この場合、私ではなくカイド様だと思いますよ」


 だよねー。従兄弟さんよりは、元王様の銀髪さんの方が暗殺対象になりやすいでしょうよ。


 でも、そうなるとちょっと疑問。銀髪さんが今日ここに来るって事、どうやって知ったんだろうね?


 それとも、来ると想定して罠を張っていたとか? そっちの方が可能性高いか。


『逃げた連中が捕まれば、その辺りもクリアになるかと』


 という事は、逃げた連中が暗殺者達を動かしているという事ですかねえ?


 やがて、方々からわめき声と共に網に入れられた男達が引きずられてきた。三人。これで先程捕まった十三人と合わせて全部で十六人。ぴったりだね。


 それとは別に、何だか周囲がざわざわしてる。


「あの色は……」

「黒……」

「え? 神子様?」


 あ、しまった。テントから出るのに、フードをかぶるの、忘れてた。前にもあったなあ、こんな事。


 でも、今回は素性をさらすと決めているから、慌てないのだ!


「落ち着け、皆の者! 王都より、神子様が皆を救うべく駆けつけてくださったのだ!」


 従兄弟さんの言葉に、難民達はその場で跪き出した。うお! 祈られちゃってるよ。


「ここで浄化をしたらどうだ?」

「ですね」


 銀髪さんの言う通り、いいタイミングなんだと思う。じゃあ、ちょっと強めに浄化をしてしまいましょう!


 辺りに、金色の光の和が広がる。それは避難所全てに行き渡り、全てのものや人を浄めていった。


 よし、浄化完了!


「お、おお……お許しを! 私は上役に唆されるまま、カイド前陛下のお命を狙いましたああああ!」

「私も同じですううううう。今! 今すぐこの穢れた身を裁いてくださいいいい」

「金に釣られて汚い仕事ばかりしてきましたああ! 神様! 今こそあなたの御心に沿うようこの命を捧げます!」

「罰を!」

「償いを!」

「神は偉大なり!!」


 従兄弟さんが、隣でぽかんとしてる。王都の浄化、知らなかったんだね……

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