第509話 突入
ニルの誕生日は、ウィカラビアにいる皆で祝った。料理もちょっと豪勢な感じにして、ケーキも焼いたよ。
ケーキには、ニルだけでなくミシアも目をらんらんとさせていたっけ。
「こんな食べ物、見た事ないわ!」
あれ? ミシアにはケーキ、出した事なかったっけ?
「丸い大きなものは、見るの初めてよ?」
デコレーションケーキは初めてだったか。折角チョコを手に入れたのだから、とチョコレートでプレートを作り、「ニル、お誕生日おめでとう」と入れてみた。
これが凄く好評で、なんとジジ様から次の自分の誕生日に同じものを作ってほしいと注文が来ちゃった。ミシアからも。
まあ、いざとなったらレシピを渡してほっとくんに作ってもらおうっと。
領主様からは、ダガードへ帰還する事になったと連絡が来た。
『大分進んだからねえ。いやあ、この先が楽しみだよ』
「良かったですねえ」
『帰りは行きよりも早く戻れそうだ。ジジ様はまだしも、カイド様も、まだ戻る気配はないかな?』
「……そのようです」
『困ったものだ』
でもねー。毎日楽しそうにじいちゃんのところに行く銀髪さんを見ていると、はよ帰れとも言えなくてなあ。
ニルとミシアも、毎日楽しそうに過ごしているし、ニルは少しふっくらしてきた。
元々が酷く痩せていたから、まだ標準よりも細いんだけどね。でも、健康そうになってきたのはいい事だ。
『温泉が効いてますね!』
……そーですね。
その後、こちらの状況やらなんやら連絡して、最後にリーユ夫人をボートで迎えに来て欲しいと言われた。
どうやら、帰りの長い航海を、普通の船に乗る事にノーを突きつけられたらしい。
『ついでにカイド様達もダガードに送っていってほしいんだが』
「ははは、本人達が望むようでしたら」
返答は濁しておく。力ずくで戻す事が出来ない訳じゃないけど、出来れば使いたくないからなあ。
一応、ジジ様には領主様からの連絡の内容を伝えておいた。
「ほほほ、リーユは頑張ったこと。本人が望むなら、ジンドが国に帰るまで、ここに滞在させてもいいのではないかしら」
「ですねー」
多分、一も二もなく頷くでしょう。
そして、リーユ夫人を迎えにいって、その事を伝えたら凄く喜ばれた。
「嬉しいわ! ……もうね、ダガードに戻っても、暮らしていけるか疑問なのよ。ここの快適さを知ってしまうと、ね」
水回りは特にそうだろうなー。貴族ならその辺り、使用人の数を増やせば何となる場合も多いけどね。
そして、やっぱり来たよ改築依頼。
「我が家の王都と領地の屋敷、それから各所にある別荘、それらの水回りを全部改築したいのよ! 出来ないかしら!?」
夫人、圧が凄いです圧が。
「えー、今すぐはちょっと無理かもー」
「大陸のずっと東で見つけたおいしい果物、紹介するわ!」
「はい喜んで!」
おいしいものを教えてもらえるなら、たてるくん達を派遣しちゃうよ! あ、どけんさんも一緒の方がいいかな。上下水道として。
水源は井戸があるからいいんだけど、そこから汲み上げる動力が問題だなあ。魔道具でポンプを作るか。でも、魔力切れが心配だなあ。
『いっそバッテリーも作って売る仕組みを作ってしまえばいいのではありませんか?』
うーん、やっぱりそれくらいしか手がないかなあ。魔法士であれば、誰でも魔力補充出来るようにして。
余所の国で魔法士としての仕事がなくても、ダガードにくれば補充のお仕事ありますよーって言えば、少しは魔法士も増えるかも。
そういえば、以前ウーズベルにいたっていう魔法士、今どうしてるんだろう? あの人、転生者なんだよね。確か。
『今も元気でダイヤ採掘に従事しています』
そっか。元気ならいいや。彼くらいの魔力があれば、補充要員として十分かなって思っただけだから。
その後、リーユ夫人とスーラさんを通して領主様も交えて話し合い、領主様が所有している建物全ての水回り改築を請け負った。全部って。
一応、どけんさんやたてるくんを通して「こんな形になりますよー」という完成予想図を作ってもらう事にしてある。
だって、改築した後に「思っていたのと違う!」って言われたら困るもんね。
ちなみに、お代はコーキアン領で新しく飼育している魔獣のミルクとチーズとバター、それに生クリームを十年分。
プラスして、交易地にある果物。リーユ夫人が個人的に気に入って輸入するつもりでいるんだって。
なので、その生産者に話を通してもらう事にした。直接買い付けるんだー。
ポンプに関しては、領主様達の了解を取ってから、魔道具として仕込む事にしてる。当面は私が補充をするって事で。
約束として、二、三年のうちには、補充用の魔法士を雇うって事になってる。今のダガードなら、いくらでも人は来ると思うんだよね。
てか、南の方は大変な国ばかりだからさ……
そんな風に日常を過ごしていたら、叔父さん陛下から嫌なお報せがきた。
『ヴィンチザードが内乱に突入したよ』
スーラさんをスピーカー状態にして、私、じいちゃん、銀髪さん、ジジ様、剣持ちさんで聞いている。
ミシアはニルと一緒に遊びに出した。侍女様方は、そのお供。ミシアは何かを悟ったみたいだけど、何も言わずにニルを連れ出してくれてる。
ジジ様と銀髪さんは、渋い顔だ。そりゃそうか。仮にもジジ様の故国だもんね。
『今のところ、国王派が劣勢だね。いや、反国王派は頑張ってるじゃないか』
叔父さん陛下、嬉しそうですね……
「叔父上……まさかと思いますが、反国王派に肩入れはしていませんよね?」
『それはしていないかな』
「それ『は』?」
うん、そこ、引っかかるよね、銀髪さんも。一瞬の間の後、叔父さん陛下が笑い出した。
『はっはっは、カイドも察しがいいねえ。反国王派に肩入れはしていないけれど、周辺諸国が国王派に助力しないよう、圧力はかけたよ。そのくらいはいいだろう』
それ、実質的に反国王派に力貸してるようなものでは? 何だか、聞いてるだけで胃もたれ起こしそう。
「ダガードとしては、静観のままですか?」
『そうだねえ。反国王派が勝って、うちに矛先を向けてきたら迎え撃つよ。その為の備えは、してあるから』
それ、もう反国王派が襲撃してくるって言ってるようなものでは? どうしてそんな確信があるのやら。
「ナバル、反国王派が襲撃してくる確信があるの?」
『もちろんですよ。連中が喉から手が出る程ほしい人材が、こちらの手にはあるんですから』
「……ニルね?」
え? 何でニル? でも、皆の表情を見ていると、わかっていないのは私だけっぽい。どういう事?
「ニルはヴィンチザードの王家の血を引いている。そういう意味では俺やミシアも引いているが、俺は元ダガードの国王、ミシアは次期女王と目されている。ヴィンチザードの王位を狙う人間じゃない」
「ニルだって、王位は望んでいないでしょ?」
「……ニルは女だ。彼女を娶れば、ヴィンチザードの王位に就く大義名分が整う」
あ! 簒奪じゃなく、合法で王位を取れるって事!?
「でも、ニルはまだ十六――」
「政略結婚に、年齢は関係ない。むしろ、十六なら十分だ」
「例え、相手があの子の父親と同年代だとしても、ね。嫌な話だけれど、よくある事なのよ」
うへえ……王侯貴族、マジ怖い。
『そういう意味で、彼女がそこにいるのはとても都合がいい。反国王派も、そこまでは手を伸ばせないから』
そんな汚い連中、一歩たりとも入れるもんかい! ニルには、これから幸せな恋愛をして、幸せな結婚をしてもらうんだから!
そうでないと、亡くなった彼女のお母さん、おじいさん、乳母夫婦が浮かばれないよ。
いや、もう浄化して神様の元へ旅立ってるけどさ。でも、政略結婚なんて望んでないはず!
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