第508話 夢の後
スワシェニルに幻影を見せた後、悪霊になってグウィスト侯爵家を全滅させたお母さんと、悪霊になりかけていたおじいさんを浄化。
対応が後手後手に回った結果、スワシェニルのお母さんを悪霊にしてしまったけど、本人としては自分の手で復讐出来てすっきりしたらしい。
二人を浄化してから神様の元へ行く少しの間、スワシェニルの夢に干渉して幻影を見せたんだ。ついでに、乳母夫婦も間に合ったので、夢にご出演願った。
「お母様、夢の中でそう言ってたの」
スワシェニルのお母さん、意外と肝の太い人? まあ、ジジ様の従兄弟の娘だから、そうなのかもね。
目を覚ましたスワシェニルは、これまでの事が嘘のように明るくなっている。笑顔が眩しいわあ。
夢って、ほんの一瞬でも凄く長く感じたりするから、おじいさんとお母さん、それに乳母夫婦と幸せな時間を過ごせたらしい。
別れは辛いけど、彼女はこれから自分の家族を作っていく。その為にも、あの夢は必要だったんだよ、うん。
さて、一連の出来事を銀髪さんと一緒にジジ様に報告に来た。ミシアはスワシェニルと一緒に、街の中を探検中。まだ見ていない建物や通りがあるんだって。狭い街なのになあ。
でも、二人が楽しんでいるのなら、いっか。スワシェニルも、ミシアにだけはよく懐いてるし。
で、目の前には渋い顔のジジ様が。銀髪さんからの報告を聞いてから、しばらくそのまま。
そして、とても深い溜息を吐いた。
「まったく……グウィスト家がそんな事になっていたなんて。王家は何をしていたのかしら」
ええ、まったくもってその通りです。これは検索先生からの情報なんだけど、王家は先代辺りから急速に力を失っていて、宮廷ののさばる貴族達が悪い事ばかりするのを、止められない状態だったみたい。
そりゃ反国王派なんてのが出てくるはずだよ。
『彼等は彼等で国民の事を考えて動いている訳ではありません。現体制では、自分達が上にいけないので、体制ごと潰そうと考えただけです』
どこも欲ばかりだね。
「事実上、グウィスト侯爵家は後継者不在で爵位と領地が宙に浮いた形ですが」
「それはヴィンチザードが考える事ですよ。ダガードが考える必要はありません」
「お婆さまの実家ですよ?」
「それでもですよ。大体、カーナシェドンが婿選びに失敗したのが原因ではありませんか。まったく見る目のない」
カーナシェドンというのが、スワシェニルのおじいさんの名前らしいよ。ジジ様が嫁がれた後、王家から侯爵家に養子に入って家を継いだ人。
ジジ様とは、幼馴染みだったんだって。
「あれは昔から目先の事に囚われがちでしたからね」
「お婆さま……故人の事ですから、その辺りで」
「……まあ、いいでしょう。それより、ナバルは今回の事を何と言っているのかしら?」
「叔父上は、反国王派が何かやらかすのを狙っているようですよ」
「大方、王家を転覆させる事を狙っているのでしょう。あれは身内には情け深い子だけれど、敵には容赦をしないから」
「叔父上にとって、ヴィンチザードは敵なんですね」
「私にとってもよ。娘を奪われた恨みは、死んでも忘れはしないわ。だからこそ、ズイスネールの気持ちも理解出来ます」
ズイスネールというのは、スワシェニルのお母さんの名前。彼女も、ある意味娘を奪われた母親だ。
「ネネとサラの一件は、ヴィンチザードだけが悪い訳ではない。それもわかっています。それでも、あの国と我が国の貴族達が中心になって画策した事なのよ。当時も、本当にはらわたが煮えくり返る思いだったわ」
二人の王女の「事故」が「事件」になるには、証拠が足りなかったそうだ。でも、ひょんな事から中心人物達が自白をした。
例の、王都に施した強力浄化の結果なんだよねー。
「ともかく、ダガードとしてはこの先、ヴィンチザードに関しては静観するという事でいいのね?」
「叔父上がそう決めましたからね」
「ナバルも随分丸くなった事。フィアのおかげかしら」
あの腹黒さで丸くなったって、叔父さん陛下、昔はどんだけだったのよ。
ジジ様への報告も完了し、ヴィンチザードにはお触り厳禁となった。スワシェニルの後見には、叔父さん陛下だけでなく、ジジ様も付く事に。
最強だね。
そのスワシェニルは、しばらくはジジ様の元、つまりこの街で暮らす事が決定している。
ついでに、ミシアも。いや、ミシアが望んだというよりは、スワシェニルが泣いて離れるのを嫌がった結果なんだよね。
その分、ジジ様の元で二人とも淑女教育を受ける事になったそうです。ミシアがげんなりしながら教えてくれたよ。
ジジ様はダガードでも地位の高い女性だし、侍女様方も淑女教育をばっちり終えてる方ばかり。教師陣は完璧ですな。
私の方は、例の人がいない場所に作った秘湯の村の手入れに夢中になってる。
棚田も段々畑もいい感じで出来上がってきてる。田植えの時期もそろそろだという事で、今はその準備中。
稲の苗は、魔法で作り上げた。久しぶりだなあ。ゆたかくん達の数も揃ったし、大豆がとれたら味噌と醤油も作りたい。麹菌、魔法で作れるかな。
少量を魔法でそのまま作ってたけど、原料があるならやっぱり作りたい。といっても、ゆたかくんに任せるか、亜空間収納で検索先生任せだけどね。
村の方は、茅葺きの屋根の家が並び、なんともノスタルジック。テレビで見る「理想の田舎」という感じ。
うん、ここは定期的に来ようかな。
「温泉の方はどうなってるんだろう?」
『真っ先に開発を指示しておきました!』
検索先生、いつの間に……まあ、温泉に関しては通常運転って事でいいか。
秘湯の村の温泉も、源泉近くと村の中にいくつかの共同浴場を作ってある。大きなお風呂は正義なのだ。
個人で入りたい時もあるかなーと思ったけど、考えたらこの村に来る人なんていないし、招待した人なら問題ないよね。しかも、共同浴場広いし。
なので、個人で入る小さい浴場は作らなかった。これはどこの温泉でも共通だなあ。
気候的に、ダガードまではいかなくても寒い場所かな? と思っていたら、なんと日本に近い気候と判明。
山の向こうは海で、暖流が流れている関係云々だった。
「山の向こうが海で暖流なら、この辺りは雨が降らないかなあ」
『年間降水量はそこそこあるようです。異常気象にでもならない限り、水源を心配する必要はなさそうですよ』
そっか。検索先生に言わせると、連山の西南の方が低めの山なので、ここから雨雲が入り込んでくるらしいよ。何にしても、雨降らないと作物が心配だからね。良かった良かった。
領主様から時々連絡が来て、気づけばダガードを出てから半年以上の時が過ぎていた。あれ……ついこの間、キッカニアを出たばかりだと思ったのに。
領主様の方は、そろそろ交易品が底を突くので、一回ダガードに戻るそう。叔父さん陛下からも帰ってこいの催促が凄かったらしい。
もしかしなくても、ヴィンチザードの件かね。あっちにはもう関わる気がないので、どうでもいいんですが。
スワシェニルは、良い感じに日焼けして真っ黒だ。ミシアも同じく。毎日のように遊歩道を歩き、湖で水遊びをし、ジップラインで滑空している。
そしてジジ様や侍女様方から、淑女教育を受けてげんなりするところまで一緒。
今までこんな暮らしはした事ないだろうから、二人とも楽しんでほしい。
そして、つい昨日意外な事がわかった。
「え!? ニルって十六歳なの!?」
温泉街にいる皆はスワシェニルの事を「ニル」と呼ぶ。ミシアがそう呼んでいるからってのもあるんだけど、親愛の情を込めてって事で。
そのニルは、現在十六歳なんだそうな。ミシアとは違う意味で見えない……
そんなニルの誕生日が、明日なのだとか。で、いくつになるのか聞いたら、十六歳だって。
私の言葉に、ニルが真っ赤になって俯いてしまった。
「ニルは少し背が低いから、ちょっと年下に見えてしまうだけよ」
「そうね、これからですよ」
ミシアとジジ様に言われて、ちょっとだけ浮上したらしい。そっかー、ニルは十六歳かー。今日が十五歳最後の日なんだね。
そっかー、十五歳かー。
「銀髪さん、十五歳の頃って何してましたか?」
「もう王位に就いていた」
マジで? 随分早くない? 顔に出ていたのか、教えてくれた。
「父上が身罷られたのが早かったんだ。当初は若造が王位に就いたと散々バカにされたな」
意外と苦労していたんですねえ。
「んじゃあ、剣持ちさんもその頃から護衛に?」
「オレがカイド様の護衛に付いたのは、十歳前だ」
早! その頃からずっと一緒なのか……
ちょっと感じ入っていたら、お返しとばかりに銀髪さんに質問された。
「お前が十五の頃は、何をしていたんだ?」
「私ですか? こっちに召喚されたのが、その年齢ですねえ」
あの時は、高校入学して間もなくだったから、泣いたなあ。入試、頑張ったから。
これから高校生活が始まる! って夢も希望も抱いていた頃だったもんねえ。
懐かしい思いをしていたら、何やら銀髪さん達が微妙な顔に。
「……すまん」
「いや、銀髪さん達が召喚したんじゃないんですから」
やったのは、ローデンだ。しかも、教皇庁から盗んだ術式を使って、教皇庁には無断でな。
改めてろくな国じゃなかったんだなあ。
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